モーリモ、ミリバード
第28章
ウイル家の没落が、急激に早まったのはアシガー皇子が始めた内戦とマイゴー国によるものだった。
誰もがウイル家を標的にした。それは、庶民だったり、貴族だったり、親しい人達も参戦して来た。
レブロンがあまりにも強く、内戦が始まる前の復讐と言える。
強い者は叩かれ、か弱い女の子だけになると、より一層叩かれた。内戦が始まった頃は、まだ王都に人々は大勢残っていたが、その為、ミリバードとモーリモ一行は、いち早く王都を捨て、各地へ逃げた。
放浪の旅が始まった頃は、お金も日用品も豊富にあったが、各地を転々と避難している間に、使用人たちは消え、お金も消え、洋服なども消えて行った。逃げ回っている間にモーリモがケガをして、もうダメだと思った時に、地下に潜る話を聞いた。
「砂漠の台地の地下には、人々が暮らせると事が存在するらしい。大昔の遺跡らしいが、水が汲めて、カビを食べて戦争が終わるのを待てばいい。とにかく、持てる荷物をもって、移動しよう。」と話しているのを聞いた。
「お嬢様、私たちも砂漠地帯の地下に潜りましょう。もう、そこでしか生きられません」
モーリモがその決断を下す時、ミリバードはすでに自分がいくつになったかもわからなかった程、放浪に疲れていた。
「モーリモ……、ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
「お嬢様、大丈夫ですよ。わたくしがお守りします」
モーリモの強い決意で、地下に潜り、二人で何とか生きて来て、大きな砂嵐を体験するまでずっと地下が二人の家だった。しかし、ある日、地上に草が生え始め、森を見た時に、町を目指す人と知り合い、二人で話し合った結果、自分たちもウインターノのいる町を目指す事にした。
そして、何も持たない、何もできない二人は、この町一番の貧乏になった。
「貴族でいる時は、労働者の方々を見下していましたが、何もない状況から、家を建てる彼らには敬意を払いたいですね。私達だけでは、また、砂嵐が襲ったら壁も屋根も消えてしまいます」
「モーリモ、でも、太陽の下でお茶が頂けるだけでも有難いわ。ウインターノさんに感謝しましょう。彼女が生き残って下さったから、この国は滅びなかったのよ」
「噂では、アシガー皇子も行方不明、この国を維持できているのは、お嬢様とウインターノさんのおかげだと誰もが知って欲しいですね?」
「モーリモ、モーリモは、お父様からそう聞かされていたから、わたくしの事を必死に守ってくれたのでしょ?」
「いいえ、お嬢様、違います。お嬢様が本当に大切だったからです」
「うん、知ってる。意地悪を言いました。モーリモはお母様と一緒にウイル家に入った人だもん、信じています。でも、わたくし、最近、ウインターノさんの魔力のその凄さに本当に驚いています。だって、雨が降るのよ。彼女こそこの世界の柱になる魔法使いです」
「彼女を生かす為に、アシガー皇子とバンダ公爵は、この壮大な計画を立てたのかしら?」
「さぁ、その事はわかりません。旦那様が、結婚前に、レブロン様の事を公表していたらと、いつも思っています。そうすれば、奥様も彼に嫁ぐ事はなかったのです」
「それよりも、わたくし、ウインターノさんの畑で半日、働く事が決まりました。お給金も頂けるようなので、もう少し我慢して下さい」
「そうなの? わたくしも働きに行ければ……」
「お嬢様、この町には警備隊などがありません。暴力的な人はウインターノが、地方に飛ばして、開拓という罪を与えていますが、何が起こるかわかりません。どうか、お願いです、ここで、しばらくは、お待ち下さい」
「でも最近、アシガー皇子を感じるの……」
「……それならなおの事です」
「でもね。この台地と王都の有る国は行き来が出来ないのよ。ウインターノさんがそうしたのかしら?」
「わかりませんが、その辺も、わたくしが外に出て調べて来ます。お嬢様はどうぞこちらでお待ちください」
その後、モーリモは、ウインターノの数々の魔法を目撃する。一般人は知らない事だが、貴族は知っている、この国には魔王か魔女が必要だと……。
その後、カフェで働き、アシガー皇子の登場になった。
忙しい日曜日が終わり、欠伸をしながらギルドの出勤したウインターノは、モーリモとミリバードに会う。
「モーリモさん、ミリバードさん……、いらしてくれたのですね?」
「はい、何度も考えました。でも、新しい国王陛下が言った事がすべてでしょう。結果、どうにかこの国は、残ったのです。だから、大地に大きな亀裂が入った事にも意味があるのでしょう。ウインターノさんが、暮らすこの台地は、こんなにも穏やかで、あたたかいです」
「どうかお願いします。私が働けるまで、どうか、ここで雇って下さい」
「ええ、実は、モーリモさん達は、もう働かなくてもいいのよ」
「え?」
「アシガー皇子が、ウイル家の財産を管理していて、あなた達には財産が残っているの、だから、立派な家も建てられるはずです。それを使って下さい。王都のお屋敷は、燃えてしまって、陰も形もないらしいですが、土地はまだ存在していて、王都の屋敷も再建できます」
モーリモとミリバードは、にわかには信じられなかった。
「信じられません。どうして、アシガー皇子が。ウイル家の財産を守るのですか?」
「アシガー皇子が、言っていたけど、彼はこの国の為に、国王に直訴して皇太子になった後、直ぐにマイゴー国の襲撃を受けて、多くの貴族たちが亡くなったそうよ」
「ウインターノさんは、その頃は、王都にいらしたのでは?」
「わたくしは、その頃は、まだ、本当に無知な子供でしたでしょ?」(貴族らしいかしら?)
「それで、アシガー皇子はウイル家が襲われた時も、助けに行けなかった、その後は、どうにかミリバードさんに残す遺品をかき集め、ウイル家の資産を凍結して守ったと言ってました」
「今日は、ほんの一部だけど、このネックレスと、資産の目録を持って来ています」
そのネックレスは、確かに母親の物で、モーリモも思わず座り込み泣いた。
「これ、これ、奥様の物です。いつも、いつも身に着けていました」
「お嬢さま……」
「だから、立派な家を建ててどうか暮らして欲しいと、アシガー皇子が言っていました。」
「しかし、折角、覚えたこの仕事が……」
「はい、モーリモさん達の次に貧しい人に譲って下さい。私は、ギルドをそのように運営していきたいと思っています。」
「なんて、慈悲深い。ウインターノさん、あなたが生きていて下さって、本当に嬉しいです。」
「今日は、次の家族にも声をかけてあります。もしよろしかったら、その親子に仕事を引き継いでくださいますか?」
「はい、それでは、私達が居座る事が出来ません。引継ぎを行ってこの町に家を建てます。」
「ありがとうございます。その依頼、ギルドでお受けいたしましょうか?」
「フフフフ……、よろしくお願いします。」
ウインターノは、昨日の夜、魔王から教えてもらった霧を出す練習を何度も行った。もしかしたら、あの霧の効力がミリバードさん達に効いたのかも知れない。
彼女たちは、確かに、宝石や現金を見せる前から穏やかな顔をしていた。
「魔王、やりました。霧が効きました。ありがとうございます」と心の中でつぶやいた。
ミリバードさん達の次にカフェの仕事を引き受けたのは、男性親子だった。子供がカウンターで、やはり動く事が不自由な父親が厨房を担当する。急遽、二人に連絡したが、快く受けてくれたので、今日は、6人で仕事を始めた。
「こちらは、ベル親子です。本当ならお父さんのリオールさんが、カウンターの方がいいのですが、リオールさんは、厨房を希望されています。そして、息子さんのヒュウマルさんです。年は14歳で、少し字が読めて、お金の計算も出来ます」




