王都のギラギラ感
第26章
その夜、ベアドックが限界だったので、厨房を訪ね3人の老人たちに食事を頼み、新しく内装された食堂で食事をとる事にした。
老婆3人は、それぞれの仕事をそれなりに行い、新しく雇い入れた男性の使用人とも上手くいっているようで、給仕を担当するマイシルは、ゆっくりだが、貴族のマナーで、きそく正しく料理を出してくれた。
「マイシルは、前に存在していた貴族社会には詳しい? この屋敷で行われていたパーティーとかは覚えている?」
「はい、多少は覚えています。お嬢様は、まだお小さくそのような場所には、おいでになりませんでしたが、このバンダ家が繁栄していた頃は、輝かしくて、懐かしく思います」
「その頃の王室の文献や貴族の記録みたいなものは、お父様の書斎にあるかしら?」
「さぁ、公爵様が亡くなってからは、誰も、公爵様の書斎に入った事はございません。書斎の鍵は特殊なもので、使用人達では開けられません」
「そうなんだ」
食事が終わり、ベアドックも犬の姿で眠りについたので、ウインターノは、屋敷の中を調べた。常駐している使用人は、例の3人だけ、後の男性使用人は、外の宿舎に住み込んでいる様子だ。
「さすが王都だけあって、修繕のスピードは物凄く早い。ベアドックがたっぷりと給金を払い、資金も出したのだろうけど、それなりの宿舎に変身している。そして、現在、動いている人間は……?」
「馬小屋に一人、二人、うん?厨房に……、2人の男性がいる。コックかしら?明日の仕込み?」
「では、移動するか、その開かずの書斎に……」
ウインターノは、パジャマ姿で移動して、埃だらけの本棚や書類をキレイにした後、自分の部屋の収納庫にすべてを移動した。机の中も全部開けてみたが、整理するには時間がかかりそうなので、この部屋にあるすべてを移動する事にした。
「これで、すべて運び終えた。そうだ、鍵を見て見よう。内側からなら開くのかしら?」
ウインターノは、開かないと言われていたドアを内側から開けようとしたが、本当に開かなかった。
「鍵穴もないし、ノブに仕掛けがある訳でもない。でも、なぜか魔力を感じる……。ウインターノさんのお父様は、もしかしたら魔法を使えたの? カビを食べていたから? でも、カビを食べても少しの魔法しか使えないはずなのに……貴族だったから?」
「カビを食べれば、誰でも一時的に魔法は使える。その作用を利用してアシガー皇子は、立派な軍隊を作りたかったのだろうけど、それは失敗に終わり、バンダ公爵は、書斎を閉じた。ここまでが、今の段階でわかっている事……。わからない、う~~ん、さぁ、寝ましょう。毎日、予想外に忙しい。嫌になる、のんびり生活が望みなのに……」
ウインターノは、文句を言いながら、そのまま、ぐっすり眠った。
次の日の朝、朝食は、屋敷の食堂で済ませ、ベアドックと話し合いをする。
「今日は、日曜日だから、少し、この国について調べてみようと思うのだけど……」
「確かに、ミリバードさんの存在は、大きいですよね。同じ年代で、貴族同士だったら、絶対に知り合いのはずです」
「そこが、危険な所よ。昔のウインターノさんの記憶がないでしょ?知り合いだったのか?そこも調べなくては、明日から気まずいよね?」
「ええ、でも、明日、あの二人出勤してくるといいですけどね……」
「……」
その後、二人で部屋に籠り、本や書類の整理などを始め、この国でのウインターノとミリバードの記憶をたどる事にした。
日の当たる静かな部屋で、半分居眠りしながら作業を進めていると、マイシルがやって来て、
「王宮から迎えの馬車が来ています」と告げた。
「なんで?」
「さぁ、カフェの事ではありませんか?今日、初日、オープン日です」
「何かあったのかしら?」
「――どうでしょう」
「わかりました。着替えをお願い」とマイシルに告げ、着替えて出かける。ウインターノは、魔法が使えなかったら、この世界では着替えもままならない。貴族と言うのは、結構、大変だと思う。
昔の外出用のドレスに着替え、王宮からの馬車に乗り、途中の街並みをこっそり見ていると、この前来た時よりも、格段に舗装された道、整備された店、そして、道沿いには、雑草などの緑が目に入った。
「木は、まだ、あまり見かけないけど、街らしくなったよね」
「はい、あちらとは明らかに物資が違いますね」
「結局、戦いながらも、必要な物は、みんなが大切にしていたのでしょう。いつの日か平和が訪れると思いながら、地下に潜っていた物が、地上に上がって来たと言ってもいいでしょう」
ウインターノとベアドックが、話し合っている内に、馬車は、新しいカフェの前についた。二人は、大騒ぎのカフェを見て、
「どうするこれ?」
「ギルドのカフェの比ではありませんね」
「大体、どこからこんなに人が現れたの?人口が増えた感じが半端ない。ここは渋谷?」
いつの間にか現れた魔王が、馬車に乗り込んできた。
「どうしたらいい?この騒ぎ、収める方法はあるか?」
「イヤイヤ、だって。相手はカビですよ。胸はあるけど、カビ相手にこんなに興奮しなくても……、でも、どうしましょう?」
「商品は、足りてますか?」
「なくなったら閉店するしかないだろう、しかし、この状態をみると、この後、この国、どうなるのだろうか?」
「だから、言ったでしょ。今まで有り余った体力は、戦いに使っていた。でも、それもなくなって、ギラギラ状態のままで、野放しになっている。やはり、ここは魔法でどうにかしなくては、カビ達に危険が及びます」
「ああ、とにかく霧を出そう。これから、この国全土に霧を出す。本来は、病気や予防の為の魔法だが、彼らの精神状況にも効いてくれる事を祈るよ」
「霧ですか?」
「いい機会だから、ウインターノも、覚えた方がいい」
魔王を乗せた馬車は、王宮の庭に入り、3人を下した。
「手の平を上に向けて、霧が発生するイメージを作り、魔力を注ぐ、ウインターノは緑の魔力が強く出るからその魔力を探せ。そして、霧に注ぎこめ!」
魔王の手から出された霧は、瞬く間に全国へ広がり、癒しの空間へと変化していく。
「これは、すごいマイナスイオンが発生する感じ?」
「いや、何とも言えないが、女性の方がより一層効き目がある。どうだ?」
「うん、なんだかコツが掴めそう。目をつぶった方がいいかも……」
その時、魔王はウインターノの手を握り、ウインターノの霧を助ける。ウインターノは、魔王により新しい魔力に導かれ、自分自身も体内が、浄化されているように思われた。
目を開けると、二人分の霧がこの国を包み、自然にカフェの騒ぎもおさまった。
「ああぁ、なんだか心配事、どうでもよくなった。この霧、すごくいいね。暖かい……。幸せって、こんな感じなのかな?」
「お互いに殺し合っていたんだ。心はどうしても荒む。しばらくは、この霧で、国民を治療しておくよ」
「ええ、私も帰ったら、霧を出してみます」
「アシガー皇子が、待っている。行こう」
アシガー皇子は、地方の領主たちと連絡を取り始め、執務室でしっかり働いていた。
「王宮でも職員を雇い始めたのですね?」
「ええ、職を探しに戻って来た職員たちに、できる事を任せました」
「アシガー皇子、今日は、あなたと私、そして、ミリバードについて聞いていいでしょうか?パンダ家の書斎で調べようとしましたが、やはり、あなたに聞いた方がいいと思います」
「はい、私もその為にお呼びしました」




