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ギルドカフェ②

第25章

 ウインターノは、毎日、毎日、こんなはずじゃなかったと思いながら、ギルトの経営をしていると、


 魔王とアシガー皇子が現れた。


 「あなた……、どうして、また、突然に……」


 「もう、閉店でいいだろう?」と言って、勝手に閉店の札をかけ、扉を閉めた。

 (魔法で……)


 「ええぇぇ、疲れているからいいですけど、何か御用ですか?」


 「いや、皇子に見学させる」


 「はい、国王陛下が、お茶を出す店を、王宮の近くで開店されると申すので、視察に伺いました」


 「お互い様ですけど、メールしてから来てください。今、本当にクタクタで、やっと、明日、日曜日なんですよ」


 「ああ、だから、今日、来た。明日からあっちもオープンする予定だ」


 ウインターノは、迷惑だと表情に表しながら3人で話していると、モーリモさんが、やって来て、驚きながら、「アシガー皇子にご挨拶いたします」と、スカートを広げて挨拶した。


 「……?知り合い?」


 「……」


 「誰だっけな……、思い出せない」


 モーリモは震えながら、ただその場で頭を下げたままじっとしている。モーリモを察してウインターノは、声をかける。


 「モーリモさん、今日は、お客様が、いらしたので、勝手に閉店にしました。お二人にお茶をお出しして下さい」


 「はい、かしこまりました」


 「とにかく、あちらのソファの方へ移動しましょう」


 「ああ、いい店だ。王都では、カビが5人位並ぶ、だから、このカウンターも5倍欲しいな」


 「そうなると厨房で、お茶を入れるカビも5人必要になります」


 「ああ、そうだ」


 魔王とアシガー皇子が、王都の店の相談をしていると、今度は、ミリバードがお茶を運んできた。


 ウインターノは、不思議そうにミリバードの事を見ていると、ミリバードも、テーブルにお盆を置き、

 「アシガー皇子にご挨拶申し上げます」と、ゆっくり、優雅に挨拶した。


 アシガー皇子は、驚いた様子で、

 「ミリバード……、ミリバード、どうしてここに……、君は、生きていたのか?」


 「はい、モーリモが、燃え上がる戦火の中、助けてくれました」


 「ミリバード……、僕は……、」


 「皇子は、どうやら、思い通りに国を手に入れたのですね?貴族たちを殺し、憎しみだけを国民に植え付け、互いに殺し合うように仕向けて……、そして、呑気にカフェの経営ですか?」


 「わたくし達が、どうして殺し合わなくてはいけなかったのですか?アシガー皇子!!」


 ウインターノは、それは、アシガー皇子が、魔法に失敗したからなど、口が裂けても言えないと、思って、アシガー皇子の方を見た。


 アシガー皇子は、捨てられた子猫のように下を向き、とても可愛そうな造形を作ってその場にたたずんでいる。


 「ミリバード、僕は、たった一人残った王室の人間として、こちらの国は、誰が治めてもいいと、考えている。今日は、王都を持つ国王陛下の視察のお供をしてきただけだ。でも、君が生きていてくれて本当に嬉しいよ。あの……、あの? メイド?」


 「乳母のモーリモです」

 「ああ、モーリモにも感謝する」


 魔王が、珍しく話し始めた。

 「初めまして、ミリバードさん、あなたはあちらの国の貴族令嬢だったのですか?」


 ミリバードは、魔王の圧倒的な威圧感に恐れながらも頷く。


 「それで、アシガーの愚策を責めているのですか? しかし、この10年、内戦を重ねた結果、隣国からの侵略も連れ去りもなかったと思いますが、どうですか?」


 ミリバードと、少し離れた所にいるモーリモは深く考える。

 

 「まず、女性についてだけ考えて下さい。内戦が始まる前は、隣国のマイゴー国に、多くの女性が連れ去られています。たった一つの港は常に危険にさらされ、港を閉鎖する事でしかこの国を守れなかったら?その港を突破しても、国民が全員、武器を持ち戦いを繰り返していたら、あなたはこの国を攻めますか?」


 「彼のやった行為は、確かに愚策です。しかし、結果をみると国土を守り、多くの女性たちを避難させ、侵略を許しませんでした。彼にしては上出来です。それに、この国が落ち着き始めると同時に、マイゴー国の艦隊は、やって来ました。あなたならどうしますか?」


 「戦争での正解はない。戦争を行わない事が正解だからです」



 その場にいた全員は黙ったまま魔王の話を考えていた。しばらくすると、魔王は、追加するように言う。

 「アシガー皇子を許して欲しい訳ではありません。彼は、結局、王座には就けなかった。それだけは本当です。そして、これからも彼は王座には就けません。なぜなら、僕がずっとその地位に居続けるからです」


 ウインターノは、いつも途中までは良い事を言っていると感じるが、いつも魔王の話の最後は、残念だと思っている。何も最後に自分をアピールする事は無い……。


 しかし、そのかいあって、このような人の下で、皇子のまま仕えるアシガー皇子に同情したのか、ミリバードは、頭を下げその場を後にした。


 

 二人が帰った後、ベアドックも一緒に魔王の新しいカフェに移動して、カフェのカビたちに初めて会った。ウインターノの制服案が採用されていて、嫌いなカビが天使のように見え、ウインターノは、思いっきり興奮している。


 「可愛い、皆さん、とっても可愛いです。それに、制服もとても似合っています。明日からお仕事、頑張って下さい」


 「はい」


 「うっわ、バイトの朝礼みたいで気分がいい」


 「では、私が手順を見せて教えます。しっかり覚えて下さい」


 ウインターノは、前世のバイトのようにマニュアル通りに教えて、テキパキと指示を出し、魔王とアシガー皇子にも改善提案をいくつか出し、その度に、魔王は魔法で店を変え、ついでにリノベする魔法もウインターノに教えてくれた。


 「私達、なんだかウインウインの関係だね? こんな感じで出来上がったけど、彼女たちは、大丈夫なの? 労働時間とか? ベアドックのように、夕方には、カビに戻って寝てしまうの?」


 「そうだ、だから、大体4時には閉店するようにする。それ以上は、あまりにもブラックだろ?」


 「ええ、しかし、カウンター5人体制だと、コップを洗うのが大変だと思うけど……」


 「そのくらいなら、アシガー皇子でも出来る」


 「皇子なのに、コップ洗いなんて……ねぇ?」と、アシガー皇子を見ると、いつもの元気は全くなく、魔王やウインターノの言葉が届いていないようだった。


 その後、魔王とウインターノは、野暮な事は聞かずに、カビたちを激励して、その場をさった。


 王都の方は、魔王たちに任せ、久しぶりに馬車に乗り、バンダ邸の門から帰ってみると、そこには生まれ変わったバンダ邸が存在していた。


 「おお、こちらの方は、この数週間で随分と変化しているね?」

 

 ベアドックも、

 「私も久しぶりに外から屋敷を見ました。馬車を入り口まで着けますので、少しお待ちください」


 「お嬢様、どうぞ、」


 「ついでだから、庭の方も回ってみましょう」


 コンクリートの塊で出来ているような王宮に比べ、バンダ家は、白を基調とした立派な屋敷に生まれ変わった。馬車を止める入り口などには花や木が植えられ、階段を2段ほど登ると立派な玄関がある。しかし、わき道を通り奥の方に抜けると、そこには小麦を植えた台地が広がっていた。


 土はそれでもウインターノの国よりは多くあり、ケンティに相談しながら多少の改良を加えただけで、小麦の種を撒く事が出来、まるで穀倉地帯のような広さに出来上がっていた。


 「一人の公爵家の庭でこの広さ、すごいと思わない?」

 「はい、これだけの広さで、小麦の生産が行われれば、多くの国民は助かるでしょう」


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