少し自分で動いてみる。
第22章
「わかりません」 リップスはそのまま下を向き、言葉を続けることを躊躇った。
それは、リップスの本当の気持ちだろう。安易に開国すれば、歴史は繰り返され、今の生活はなくなる。しかし、それが、自分たち住民のわがままだと言う事も理解できる。
二人の間に沈黙が流れると、エザルールが、気を使って発言する。
「ウインターノさん、もうすぐ、ギルドは完成するよ。薬草のお仕事もギルドを建てるお仕事もなくなっちゃったけど……どうするの?また、ポテトを売る?」
「エザルール!!」リップスは、友達に話すようにウインターノに話しかけるエザルールを叱る。
「大丈夫ですよ。リップスさん、エザルールは友達ですから。でも、そうね。二つの仕事が無くなると、ギルドは要らなくなってしまうわネ……」
「でも、大丈夫よ、リップスさんが育てたお茶を売ります」
「??」
「お茶は、今では、どの家庭でも飲まれています。それなのに、お茶を売るのですか?」
「大丈夫だよ。ポテトも付けるんでしょ?」
「いいえ、つけないのよ。お茶一本で勝負する」
「えええええぇぇぇ!」
リップスとエザルールは、大声をあげて驚いたが、そこへ、ベアドックが、冷たいお茶を持って来た。コップは、魔王がくれたガラス製のコップで、そこに、ここら辺から抜いて来た花を挿し入れて、氷の音がカラカラの鳴り響く、氷の上には、乾燥したオレンジなどの柑橘系の果物が、乗っている。
ベアドックが、運んでくると、エザルールは、目を丸くして、そのきれいな飲み物をじっと見ている。
「このお茶の中に、この前の甘味が入っています。どうぞ、召し上がってみてください」
二人は、恐る恐るコップに手をやって、初めての氷と、甘いお茶を体験する。
エザルールは、子供だからか喉が渇いていたのかわからないが、一気に飲み干し、
「美味しい!!」とまた泣いた。
隣のリップスを見ると、エザルールとそっくりな顔で、同じように泣いていた。リップスの涙は、美味しいと一緒に、違う意味もあるのだろうけど、ウインターノは、エザルールと同じように泣いているリップスを、すべてを許す事が出来た瞬間でもあった。
「どう?」
「はい、物凄く、美味しくて、お金を払っても飲んでみたいです」
「ありがとう。明日、ギルドに行って、内装をして近日中に販売を開始しましょう」
「この地域で、困窮している人がいたら教えて下さい。ギルドで、一緒にお茶の販売をしてもらいます」
「……、わかりました。でも、今後は、その様な事……」
「あっ、又、聞いてしまったわ。ごめんなさい。こういう事、リップスさんには負担だよね」
ベアドックが、
「お嬢様、身分証明書を入力した際に、色々な事も入力したようです」
「??」
ウインターノは、まったくわからなかったが、ベアドックが目でパソコンを見る様に合図をするので、ウインターノは、パソコンを立ち上げ、入力場面を開き、検索をかけて、ソートする。
「スゴイ、このソフト……、誰がこんな……、おおおおぉぉ、すごい、すごい……」
「リップスさん、このモーリモさんをご存じですか?」
「はい、少し年齢が上の方ですが…………、長い時間、立っている事が出来ず、仕事は、もっぱら縫い物をしているようで……。独身の方です」
「ええ、彼女に声をかけましょう。ありがとうございます。この仕事は、座っても出来ます。それに、彼女の体が不自由な事は、誰でも知っていますよね?彼女なら、クレームもそんなに出ないでしょう」
ウインターノは、リップスに教えられたモーリモの家を訪ねる。そこは、想像以上に貧しい小屋で、風が吹くと家の囲いが飛んでいくように見えた。
でも、彼女は、一人暮らしではなかった。一人の同世代くらいの若い女性が一緒に暮らしていた。
「こんにちは、ウインターノと申しますが……。あの……、モーリモさんはいらっしゃいますか?」
その美しい女性は、ミリバードと言って、モーリモが、引き取り育てていた女の子だった。ミリバードはいわゆる戦争孤児で、モーリモさんと助け合って戦火の王都を抜け、二人で助け合って生きて来たらしい。
ミリバードは、薄いお茶を出し、ウインターノを家に招いてくれた。
「モーリモさんは、ギルドで請け負った仕事は、座っても出来る薬草の根を分ける仕事でしたよね?」
「はい、ありがとうございます。ギルドで紹介して頂いた仕事は本当に有難かったです」
「娘さんは?何かお仕事をしているのですか?」
「……、いいえ、娘は、あまり外には出していません」
ウインターノは、失礼ながらそのミリバードをジロジロ見ると、ボロは着ていてもそれなりの美人で、体も健康そうに思えた。
「……」
「お母さんは、少し過保護で、私が外に出る事を嫌がります」
「ああぁ、そうだよね。ここには警察もなく、法律もないからね。何かあってからでは遅いよね」
「だから、外で働くのは、モーリモさんに任せているの?」
「……」
雰囲気が沈んできたので、ウインターノは、早々に、モーリモに仕事の依頼に来たことを説明する。
「ギルドの建設が終わりました。それは知っていますか?」
「はい、」
「大きな2つの仕事が終わってしまったので、新しい仕事の依頼を受け付けながら、完成したギルドで、お茶を売ろうと考えています。そこで、そのお店には店員さんが必要になり、それをモーリモさんにお願いしようかと考えて、今日、こちらにお伺いしました」
モーリモさんとミリバードは、ウインターノを見て固まっている。
「――、しかし、私は、そんなに働けません。薬草の仕事も半日しか出来ず……」
「大丈夫、大体、半日くらいで終わる予定です。それに座って出来ます。でも、お給金は、1日分差し上げます。前回は、半分のお給金を受け取ったと思いますが、今回の仕事は、正式にあなたを雇い入れたいと私からの依頼です。どうでしょうか?やはり、体がキツイなら……」
「やります。やらせて下さい。私たちは、本当にお金が必要です」
「ウインターノさん、私も……、私もお母さんと一緒に、働く事はできませんか?体の不自由な母ばかり、働かせるのは、もうイヤです……」
ウインターノは、王都で受けた男性の視線が、本当に不快で、あの時と同じような気持ち悪さを、ミリバードをあわせる事には、気が引けて躊躇う。
「ウインターノさん、お願いです。お給金は一人分でもかまいません。少しでも母の役に立ちたいです」
「う~~ん、私も経験したからわかるけど、脂ぎった男性の視線って、本当に気持ち悪い物なのよ。わかる?だから、モーリモさんは、あなたをあまり外に出したくない?そうですよね?」
モーリモは、娘の手を握って頷いた。
「でも、ご存じの通り、母は足が不自由で……、生活は、本当に大変です」
「お母さんの足の事は、お店に来てもらうとわかると思うけど……、じゃあ、とりあえず、明日の朝、二人でギルドに来て、一度、体験してもらってから雇用の契約を交わしましょう」
「朝、7時、ギルドに集合、いい?」
「はい、明日、ギルドに二人で伺います」
二人は、立ち上がり、固い決心をしたようで、手を握り合って別れた。
ウインターノは、その足で、ベアドックが待つギルドに向かい、出来上がったばかりのギルドの内装に取り掛かる。
「どうでしたか?」
「うん、意外にも綺麗な娘さんがいました」
「??」