部屋の共存
第21章
「昨夜、魔王様は、アシガー皇子は、一生、皇子のままだとおっしゃられたのですよね?」
「ええ、そうです」
「それは、きっと、アシガー皇子が、国王に就きたいがために、バンダ公爵を罠にはめ、ウインターノさんを幽閉した事への罪でもありますが、魔王様がこの世界に留まる間は、魔王様が国王で在られます」
「そうなの、どう見ても、アシガー皇子の方が年上に見えたけど……?」
「はい、アシガー皇子も、魔王様も、そして、ウインターノ様もご成人されるまでは、人間と同じように年を取られます。しかし、その後のスピードは、魔力によって変わってきます」
「魔王と私って、成人後、年を取らないの?」
「魔力次第です。ですからアシガー皇子は、ずっと、皇子のままこの世界では生きると言う事です」
「お嬢様は、アシガー皇子の魔力を測られましたか?」
「魔力を測るとか、そのような事はわからなかったけど、弱っちいと感じました」
「ええ、彼の魔力は、ウインターノさんに比べれば、本当に少ないのでしょう。そうでなければ、このような長期計画を考えません」
「では……、私は、今……、17,18歳でいいのよね?元のウインターノさんも、そのくらいの年齢かしら?」
「はい、昨日、書庫で確認しましたが、18歳でした」
「そう、では、18歳で行きましょう。大丈夫、小さな誤差はあるけど、ほぼ同じ年だった。良かった~~~。でも、その後、年を取らないのは、ちょっと難ありだよね?」
「……」
「後、お部屋のトイレと浴室のリフォームをお願いします。それと、お風呂はやはり入って下さいね。健康の為です」
「ベアドック、そこは、揺るがない所だね。この部屋、どうしようかなあぁ~」
ウインターノは、ここに住む事を躊躇う事があった。屋敷の中には、大勢の男性たちが修理に入って、庭にも大勢の職人たちが庭を耕し、小麦の生産を始めた。バンダ家の屋敷は、元は、裏には森が広がっていていたらしく、枯れてはいるが森の面影が残っていた。
「ベアドック……、森だった所は、やはり、木を植える?」
「その辺は、庭師の方々とご相談された方がよろしいでしょう」
「でも……、私、彼らの目が嫌なのよ……」
「こちらの国は、本当に若い女性がいらっしゃらないので、どうしても、若くて、いい香りのするお嬢様を少しでもご覧になりたいと、思われますね」
「だよね?何を相談しても、心、ここにあらずって感じで、彼ら、気持ち悪いのよね~~~」
「それは、本当に王都の悩みです」
「しかし、カビたちに聞くと、地方には、まだ、たくさんの女性が暮らしています。アシガー皇子の魔力は地方には、届いていなかったのでは?」
「そうなんだ。じゃあ、女性が王都に来たくなるような場所に変えればいいのね?」
「どのような王都でしょうか?」
「う~~ん、それは、アシガー皇子が、考える事でしょう」
「……」
「しかし、やはり、こちらの屋敷にいても、落ち着かないから、あっちの家に戻りましょうか?」
「そうですか……、では、こちらの部屋とあちらの部屋を共有するのは、いかがでしょうか?」
「あちらの家と、こちらのこの部屋を共有するのです。戻るのではなく、この屋敷の部屋は、あちらの部屋と同じで、こちらの玄関を開けると、いつもの町の風景が広がっていて、電子レンジや、格納スペースもそのまま使えます」
「いいね。じゃあ、こっちのドアをあけると、この屋敷みたいに?」
「そうです」
「できるかなぁ?でも、イメージが出来上がっていると、意外に簡単に行けそうな気がする」
ウインターノが、心の中で魔法を発動すると、部屋の中は、あちらの緑の大地の家に変貌した。
「ああ、いいね?落ち着く、こっちの豪華な部屋も、数日は、ホテルに泊まっている様で良かったけど、立派なホテルに泊まっても、ヤッパリ、結局は、自宅に帰りたくなるよね?」
「その意味は、わたくしにはわかりませんが、私もあちらの家がどうなっているか、不安でしたし、これで、思いっきり、外に掃き出せます」
「ああ、そういう事? やっぱり、この部屋、相当汚いの?」
「はい、それは、想像以上でした。やはり、何人かメイドが必要です」
「そうだね。若い女性たちが王都に働きに来てくれる事を待ちましょう」
「その為には、安心安全な街づくりが必要になります」
ベルドックが、日常のように、お茶を入れてくれて、のんびりしていると、エザルールが、訪ねてきて、ウインターノに飛びついて泣いている。
「ウインターノさん、帰って来たの?もう、帰って来ないと思っていた。町のみんなもすっかり諦めていたよ」
「そうなの? 別にへそを曲げて逃避した訳ではないのだけどね……」
「ずっと、ここにいる?」
「そうね。多分、ここが、今の私が戻る場所。ここに帰りたいって、思ったから……。多分、当分は、ここにいるわ」
「この前、ケンティさんが来て、薬草の畑にお薬を撒いてたよ。畑は当分の間はお休みしますって、病気になったから薬を撒いて、土を復活させるって、畑……、大丈夫かなぁ?」
「う~~ん、畑や薬草の事は、本当にケンティでないとわからないの、ごめんね」
「それと、それと、それとね……」エザルールが、留守中にあった事を一生懸命に話してくれた。
その時、トントンとノックする音がして、リップスが訪ねて来たことがわかった。
「お母さんだ……。お母さんも泣いて、ウインターノさんに申し訳ないって、言ってました。お母さんを許してくれる?」
「許すも、許さないもないわ。私の勉強不足だったのよ。大丈夫、大人ですからケンカしないよ」と言うと、エザルールは、玄関の方に走って行った。
「お母さん、ウインターノさんが、帰って来てるよ~~~」
リップスは、窓の明かりを見て、走って行った娘を心配して、しばらく、外で待っていたが、エザルールの滞在時間が長くなり、意を決して、ウインターノを訪ねる事にした。
まずは、膝をついて、誠心誠意の謝罪をしたリップス。
ウインターノは、この国の貴族の在り方が身についていないので、普段のまま話す。
「リップスさん、丁度、良かった、相談があったのよ。ギルド建設はどうなっていますか?」
「ウ、ウインターノさん、まずは、私が故意にあなたに伝えなかった事のお詫びをさせて下さい。私達庶民は、本当に貴族様に会う機会もなく、どこまでお伝えしたらいいか、本当にわかりませんでした。今のこの状況での法律もなく、国王陛下も不在で、この先の事も見えずに不安な毎日で、ウインターノさんだけが、私たちの希望だったのに……、ごめんなさい。すいませんでした」
「そうだよね……、私は、ミーアキャットの生活から抜け出せて、緑があって、食べ物があって、仕事があるだけで、周りの人達は幸せなのかと思っていた。でも、人間だから、当然、愛する人と暮らしたいし、もと居た便利な場所に帰りたいと思うよね」
「……」
「それで……、あっちに行って話して来た。アシガー皇子が、あっちの国を治め、橋を作り、こっちに国と交易を開始します。でも、あっちの国は、もっさい男ばかりで、今、こちらの野に放したら、多分……、犯罪につながりそうなの……?どうする?それでも、鎖国はやめる?」
リップスは、ウインターノが、言った言葉で想像がつく、荒れ狂う男たちを恐れる女たちを、どれくらい見たかわからない。
「――、それは、本当にわかりません。すいません」