ウインターノの特徴
第20章
二人は、きっと心が通じたのだろう、納得したかのように今後についての話し合いが始まった。
「それで、今後はどうする?」
「魔王のお心のままに従います」
「それなら、上手くやってくれ、今後の事はお前に任せる」
魔王がこの言葉を発した後は、流石に、ウインターノとアシガー皇子は、顔を見合わせた。
「ど、どのような事でしょう?」
「今後のこの国は、お前が上手くやっていけ、その代わり、お前は、永遠に皇子だ。どんなに年をとっても、子供が産まれても、ずっと、皇子と言う身分のまま、決して、国王にはなれない」
「??」
ウインターノは、またまた、混乱して、言葉を発しない。何か聞くと、トンチンカンな答えが返って来そうで、少し怖くなってきた。しかし、アシガー皇子は、納得している様で、
「はい……、では、手始めに何をしたらいいのでしょう?」
「そうだな……、妹がリカの国の国王に就任した。その為、お前のせいでとても困っている」
「妹? しかし、我が国は、皇子しか産まれません。女性の誕生は……」
「そうだ。だから、体が弱く、病気がちで、身分を変えて生きる道しか残っていなかった」
「リカの国と言うと……、そうですか、それなら、あの不思議な国に納得できます」
「それで、お前、金はあるか?」
「はい、王室です。多少なりとも蓄えてあります」
「部下はいるか?」
「私が、この城に戻ってから、昔の役人が少しずつ現れ始めました」
「交易に詳しい奴がいたら、リカ国へ鉱物を輸出したい。その為に、これからいう場所の発掘を行い、船を作り、交易の準備を始めて欲しい。ウインターノは、何か要望はあるか?」
「そうですね。とにかく両国の間に橋を架けて下さい。それから、今後のバンダ家の変化には目をつぶって欲しいかなぁ……」
「橋ですか? 魔王様が、もう一度、くっつけるのはどうでしょうか?」
「そうすると、この2年で復興した町並みが、大地震が起きたような災害になる。あの時は、あの嵐の後で、すべてが崩れていたから分ける事も出来たが、今の状況では、無理だろう。それに、港は一つで、守る土地は半分の方が、今後、何かと都合がいいだろう?まだまだ、この国を狙っている国は多く、しかし、復興後は、いつまでも鎖国状態でいる事も出来なくなる」
「マリヒューイが言っていたが、今後、この世界全体が、大きな飢饉に襲われる可能性があるそうだ。今でさえ、多くの国が、食糧危機を迎えているのに、色々な国がこの国に狙いを定め、やって来る可能性もある」
「あの……、あちらの国には、作物が多く出来ているそうですね……・」
アシガー皇子は、ウインターノをチラッと見ながら質問する。
「こっちの国よりは、食糧事情は向上していますが、ジャガイモの収穫率はこちらの国の方が高そうです」
「とにかく、鉱山の開拓と橋の件は、我々からの要望だ。金が足りなくなったら言ってくれ、マリヒューイが、どうにかするだろう」
魔王とウインターノは、さっさと帰ろうとすると、アシガー皇子が急いで引き留めた。
「食料を……、すいません。食料を少し……、分けて下さい。お願いします」
魔王は、多くのジャガイモ、その他、マリヒューイからもらった果物や食べ物、その他もろもろをアシガー皇子の執務室いっぱいに出し、ウインターノは、鞄からホカホカのハンバーガーを、たくさん置いて去った。
山積みの作物、見た事もない食料、それにいい匂いがするハンバーガー、どれを取っても、美味しそうで、手にしただけで、涙が止まらなかった。
「国を造ろう! この食料を元に、今度こそ我々の祖国を創ろう!」
「誰か、誰かいないか?ここにたくさんの食料がある。国民に配り、仕事を依頼して欲しい!」
王宮にひっそり隠れる様に仕事をしていた職員たちが、アシガー皇子の言葉に引き寄せられ姿を表した。
「皇子……、これは、このような食料……、ああぁ、小麦まで、野菜もお茶、果物……、これは、初めて見る作物ですが、どうなさったのですか?」
「ああ、他国と、交易を始めようと考える。危険を伴うが、このままでは我が国は消滅してしまう。これが最後のチャンスだと思って、どうにか助けて欲しい」
アシガー皇子の言葉に心を打たれた役人たちは、膝をつき忠誠を誓う。
「アシガー皇子、我々は、きっと、この国を再生させましょう。作物を作り、交易を初めて、きっと、ずっと昔のように立派な国へ生まれ変わります」
×××××
バンダ家に戻ったウインターノは、疲れ果て、眠っているクマを見て、
「クマ、忙しかったでしょう?大丈夫よ。明日からは少し楽にしてあげる。魔法でね……」
次の日から、ベアドックが雇った人間が屋敷に集まり、屋敷の修繕が始まった。
街の噂ではアシガー皇子が、陣頭指揮を執り国民たちへの食料の配布が始まったらしいと、噂も聞こえて来て、誰もが新しい時代がやって来る喜びに溢れ始めた。
「ベアドック様、庭を本当に畑にしてよろしいのでしょうか?」
「ええ、昨日、アシガー皇子より多くの種や作物を頂いたので、しばらくは畑にして置きましょう。そうすれば、あなた方も食べられます。この作物たちは、品質が良く、育ちがいいと聞きました。たくさん収穫した後に、美しい庭に変えましょう」
「はい、わかりました」
庭に集まった人々は、穏やかで、誰もが疑いを持たないで、ウインターノを受け入れている。
「お嬢様、お食事が出来ました」
老人が作る料理は、塩味だけでなく、色々な調味料を使って料理が出来ていた。
「ベアドック、ジョジョに調味料の説明はしたの?」
「はい、一応、マリヒューイ様より頂いた物は、すべて説明をしましたが、彼女たちは、何年も生きているので、昔、使っていましたから大丈夫ですと、言っていました」
「そうなんだ……、それで、私がカビを食べない事、伝えてくれた?」
「はい、食べる肉は、鶏肉だけだと伝えてあります」
「しかし……、美味しい。ベジタリアンではないが、果物と野菜だけで、こんなに美味しいのね……。彼女、長年、厨房を守ってきただけあるわ……。料理の天才ね?」
「小麦があるだけで、物凄く喜んでいました」
「そう、では、先ず、小麦の生産から始めましょうか?野菜や果物は、あっちの国が豊富に生産しているから……、それと、昔からこの屋敷にいたと言う庭師に会ったのだけど、私の事をお嬢様って、躊躇もなく呼んだけど、どう思う?」
「彼らは、直接、お嬢様とお会いする機会がそんなにありませんでしたし、もう何年もお嬢様を見かける事もなく、丁度、女性は大きく変わるお年頃です。それに……」
「それに?」
「私も、先日、気になって調査したのですが、お嬢様には、お体にウインターノさんの特徴が残っています」
「え?? どこに?」 ウインターノは、慌てて自分の体を点検する。
「腕です。ウインターノさんの腕は内側が白く、肘のある方は少し日に焼けていたそうです。だから、3人の老人たちも疑いませんでした。ボケているのではありません」
(ボケていると思ってた……。反省だわ……)
ウインターノは、そう言われれば、そうだけど、これは、ずっと日焼けのせいだと思っていた。年中半袖のこの国では、きっと、これが、本物のウインターノさんだと言う証になる。
「そうだね。腕には、くっきりと薄い線が通っている。気にしたことはないが、この白と薄茶色のぶつかった所には、線が通っている。
「じゃあ、顔は昔の私で、体はウインターノさんなの?え~~、なんか、気持ち悪い。そうなると年は、幾つかしら?」
「年も前世のままとお願いしたけど……、ねぇ、私って、幾つ?」