孤独がすぎる。
第2章
ウインターノは、勇気を出して、落ち着き始めたこの世界を見渡し、人を探す。
「怖くても、怖くても、人を探して、市場でのルールなどを教えてもらって……、そうだ、お金はある。大丈夫、まずは近くにいる人を探してみよう。せめて、米と野菜が欲しい。野菜が食べたい」
透視能力を駆使して、近くにいる人を探すと、砂漠の洞窟のような所に、母親と女の子が寄り添うように存在していた。
「大規模な竜巻と砂嵐から逃れる為に、洞窟に避難していたのかしら?頭がいいわ……」
「大丈夫、相手は二人、それも女性の親子……。きっと、大丈夫、市場の場所と、この国について、少し尋ねるだけだから、お金もあるし、そうだ、ハンバーガーの鞄も持って行こう。この鞄から無限にハンバーガーがでるの?」
「はぁ~~、どうしてセットにしなかったのか、本当に、悔やまれる。炭酸とポテトも食べたい。バカ、バカ、バカ!!」
初めての外出、家の周りと、自分ができる範囲で結界を張り。戻る場所を確保してから、二人のいる洞窟を訪ねた。
手に、ランプを持ちながら、一歩、一歩、歩いて行くと、二人は驚いて、灯りの中のウインターノを怯えながら見ていた。
「――だ、誰?あなたは、だれです?」
「え~~と、怪しい者ではありません。少し、お尋ねしたいのですが、この近くに市場などは、存在していますか?」
砂だらけの二人の親子は、ボロを身にまとい、綺麗な服を着ているウインターノを呆れて見ている。
「お嬢様は、どこかの貴族のご令嬢でしょう?」
「ご令嬢と言うか、罪人?のような生活をしていましたが、食事が運ばれてこなくなったので、市場に食材を買いに行こうと思いまして……」
「どうして、私たちがここにいる事が、わかったのですか?まさか……。他国の人間?」
「い、いいえ、わたくしはウインターノ…バンダと申しまして、この国の……」
「あ、あなた、元皇子の婚約者だった。バンダ家の幽閉されていたお嬢さん?」
「ええ、多分、そうです」
その母親は、ウインターノを哀れむような顔でみて、
「半年前に、あなたが無実の罪で、幽閉されたと聞いた時は、本当にお気の毒だと思いましたけど、こうやって、自由に生き延びていていられるのは、神のご加護があったのでしょう」
「あなた方、貴族階級の人々は知らないでしょうが、この国には、すでに市場のような所は、ありません。10年前からの内戦で、国全体が破壊され、王都の貴族たちでさえ、着るものや食べ物に、困窮していました。それでも、幽閉されたあなたの元に、大金を使い、食事を届けていたあなたのお父様は、本当に、あなたを愛していたのでしょう」
「私もそうです。この子を守る為に、より安全な場所を求め、この洞窟に生活のすべてを運んでいました。だから、あの凄まじい嵐の中でも、どうにか生きてきましたが、流石にもう限界です」
「――食料が底をつきました……」
母親は、本当に餓死寸前のように見えたので、ウインターノは、
「あの……これ、食べ物ですが、食べますか?」と、鞄からアツアツのハンバーガーを差し出した。
洞窟の中は、換気も不十分で、ハンバーガーの臭いは、直ぐに充満して、二人は、何のためらいもなく、包みまでも食べそうな勢いで、ウインターノから渡されたハンバーガーに飛びつき、食べ始めた。
初めて、女の子が、話をする。
「美味しい……、こんな美味しい食べ物、初めて食べました」と、涙ぐむ……。
「そ、そう、良かった。所で、この国には、他に誰かいますか?」
「わかりません。10年前に交易も断たれ、衣服や薬、嗜好品など、色々な物が、この国には入って来なくなって、人口も激減しました。その後は、ずっと戦いあった為に、街、村、どの地域も荒れ果て、男性は戦死して、女、子供は、誰も来ないこのような砂漠の洞窟で、隠れて生きて行くしかありませんでした」
「ウインターノさんのお父様は、どうにか国内を安定させる為に、王室の方々に働きかけていて、だから、あなたもあのような皇子とご婚約なさったのに……」
(え~~~~~?)
「では、探せば、まだ、あなた方のように、洞窟などに隠れている人達が、見つかるのでしょうか?」
「それは、なんとも言えません。私たちも、最近、多発している嵐の為に、この半月は、外には出ていませんし……。あのぉ、今日の外は、どうでしたか?」
「外は、今日は、意外にも、快晴でした。こんな素晴らしい青空を久しぶりに見ました」
ウインターノは、二人に、もう一つ、ハンバーガーを渡しながら、この洞窟の中をジロジロ見た。
「このような生活を見るのは、初めてですか?」
「ええ、初めてです。何もかもが初めてで……、でも、水は、やはり地下から取っているですか?」
「はい、私が生まれたた時から、この装置があれば、どこでも水を汲みだす事が出来ます」
「地下には豊富に水があるのに……、地上は、こんなに乾燥していて、不思議だと思って……」
「お嬢様は、神話を信じていないのですか?」
「神話?」
「その神話の中では、この国は、昔、雨ばかり降る国だったそうです。雨が降り続いている間は、争いもなく、食料は、たくさんの池から魚を獲り、食べていたそうです」
女の子が、
「池が枯れた後は、塩が残っていて、今でも、塩は、塩田となって私たちを支えてくれているの」
(へ~~~~~。)
「神話はそれで終わり?」
「神様は、水と塩をこの国に与えて下さり。何もないこの国に、人間が住めるようにしてくれたのよ」
(随分とケチな神様だ。――あいつか?)
ウインターノは、ここに送り込んだあの神様を疑った。
「だから、地下には、その時の雨が貯蔵されているんだね?」
「お嬢様は、やはり、その様な勉強をなさらないのですか?」
「そうなの……です。ほら、貴族って、特別だから……ホホホホ……。では、そろそろお暇します。ホホホホ……」
「あっ! これ、食べて下さい。置いておきます。では……、またね」
自分が、本物のウインターノではない事が、バレそうになって、急いで、その場を立ち去る。二人は、ウインターノを引き留めたいが、その場に積まれたハンバーガーも気になって仕方がなく、一気に立ち去るウインターノを見失ってしまった。
「ヤバイ、ヤバイ、まったくこの世界の事を知らないけど、結局、この国は、終わっている?」
「あの神様、オワコンの国に転生させるなんて、……いくら、天涯孤独な魔法使いが望みとは言え、ここまでの孤独を求めていない。あ~~、人と話すって、意外に新鮮で、楽しかったな~~」
「あのハンバーガーが、なくなる頃に、また、あの親子を訪ねてみよう。一人でも助けた事になるかなぁ?しかし、前世で、歴史なんて、ゲーム以外に、役立たないと思っていたけど、こうなると、役立つ事もあるのか?神話って、何?」
親子の洞窟を後にして、天気が良かったので、空から他の人間も探索してみたが、砂漠のような台地には、サボテンなどの植物が一切なく、台地には、ところどころ、穴が開いていて、もしかしたら、その穴には、人が生活しているのかも知れないが、とにかく、この辺一帯には、町と言う物は存在していなかった。
「とにかく、今日は、帰ろう。帰って、水とハンバーガーを食べよう……」と、思っていると、空の果ての果てで、大爆発を目撃する。
「何!! 何! 何! 原爆が落ちたの?神様! これ以上の孤独は要りません!」と、思って遠くの空を見ると、そこには、土色のキノコ雲、また、大きな嵐がやって来て、この国を襲うのかと思い、じっと、その雲の中身を透視すると、色々な物が見えた。
「何、アレ? 木や草、屋根、服、この大地にはないすべての物が、あそこにはあるの? 見える。見える、見えるわ! 私の欲しいすべてが、あのキノコ雲の中にある」
「どうせ、嵐がやってくるなら、おまけが付いている嵐が欲しい。今、残っているかも知れない人達は、すでに、土の中に避難している。だから、今度こそ助ける! 大丈夫、彼らに、被害が及ばないように、あの嵐を、この国に取り入れ、安全な場所に移動させる」
「私をこの国に転生させた神様!! どうか、お願い、あの嵐の中身を、この国に下さい。食べ物、植物の種や家を建てる材料、服、薬など、何もないこの国に、どうかお願いします。力を貸して!!! あの嵐に巻き込まれているすべてをこの国に~~~~!!!! 下さい! お願いします」
「全力! 魔法! 発動!!」