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王都、バンダ家

第18章

 ウインターノは、その日からしばらく姿を消した。ギルドは閉鎖、家にもいなかった。


 薬草畑は、外から見るとすべて収穫されているのがわかったが、人々は決して近づく事はできなかった。


 ――リップス親子の落胆は、多くの人々に影響していた。

 「お母さん、もう、ウインターノさんは、帰って来ないの?」


 「わからない……、貴族のお嬢様です。知らない事もたくさんあったでしょう。そして、それを私達は、あえて教えなかった。エザルール、お母さんは、ずるい人間です。ウインターノさんの親切心を利用したの、ウインターノさんの魔力が強くて、恐ろしくて、だから……」


 「ウインターノさんは、私たちを嫌いになったの?」

 「――多分……、この町も、私たちも……」


 エザルールは、大粒の涙を流し、床に座り込んで泣いた。

 「お母さん、どうして意地悪したの? この家も、緑の大地も、すべてウインターノさんがくれたのに、どうして……。わ~~~~!!」

 

 エザルールは、手が付けられない程に泣き叫び、リップスは、エザルールを抱きしめる事しかできなかった。


 そして、その日は、珍しく1日中、雨は止む事はなかった。


 ×××××


 その頃、ウインターノは、魔王の国に滞在していた。


 「……どうやら、ここがバンダ家のよう、どこから入るのかしら?」


 「見た感じは、意外と綺麗だわ……、庭は、うん、枯れているけど、屋敷の入り口は、一体、どこ?前任のウインターノさんの記憶が全くないから、どこから入っていいかもわからない」


 今回、魔王に言われて、しばらくこちらに滞在する事にしたのは、魔王の傀儡政治を手伝う為。王宮に住む事も考えたが、魔王と同じところに住むのは、気が引けたので、元のウインターノさんの屋敷をお借りする事にした。


 大体、顔も年齢も前世のままなのに、どうやって、ウインターノだと認めてもらうの?ここには、本当に誰もいないのかしら?そんな不安を抱えたままウインターノは、屋敷の鉄格子と戦っていた。

 

 「開かない!」

 「お嬢様?」

 「え? お嬢様……?」(それって、わたし?)


 今日は、王都で着る服がわからなかったから、家のクローゼットから、前任のウインターノの服を借りてここまで来たが、記憶もなく、容姿も違うウインターノを、お嬢様と呼ぶこの人は、いったい誰?


 「ごめんなさい、私を知っているの?」

 「はい、私は、長年、こちらのお屋敷の厨房で働いていました。ジョジョです」


 前回、魔王が話していたように、ジョジョさんは、随分、お年を召している方で、多分、ウインターノの着ているドレスだけで、判断したのだろう。


 「ああぁ、お嬢様……、大変だったでしょう?大丈夫でしたか?お父様もお亡くなりになって、こちらの屋敷も、今まで以上に、荒れ果ててしまいましたが、年寄り3人でお嬢様のお帰りをお待ちしていました。最近は、争いもなくなり、3人で、少しずつ片づけをしています」


 そのジョジョと言う年寄りは、ゆっくり歩き始め、その後をウインターノはついて行くと、枯れた木の間から敷地内に入る事ができた。外から見ても広いが、中に入っても広い敷地に大きな屋敷が立っていた。


 「貴族の屋敷……って、こんなに大きいんだ。すごい!!スッゴイ、枯れてる」


 ウインターノは、所々、修繕が必要だとわかるボロボロの屋敷内に入って行くと、古い学校の臭いがして、少し埃っぽかった。


 「これって、廃墟不法侵入ではないかしら? 大丈夫?」


 そのまま、他の二人が住み着いている厨房に案内されると、そこは、外気の光は入っていて、生活できるレベルまで清掃された場所に、本当にご老人が二人のんびりと座っていた。


 ジョジョが、

 「お嬢様がお帰りになりました」とウインターノを紹介すると、残りの二人の老人たちも、ウインターノに、近づいてきて。


 「お嬢様、よくぞ、ご無事で戻られました」

 「王都の街も最近は、落ち着き始め、王宮では、アシガー皇子の姿も、お見受けられたようで、きっと、アシガー皇子がお嬢様をお守りして下さったのでしょうか?」


 「いいえ、まったく、それはありません。ここまでたどり着くには長い年月がかかりました」


 3人の老人は、ウインターノを囲みながら泣き始め。少し困っていると、マイシルと言う老人が、

 「お嬢様、お茶しかありませんが、お茶を召し上がって下さい」と言ってくれた。


 怪しい雰囲気の中、小さい木の椅子に座り、お茶を入れて貰ったが、リップスの濃いお茶に慣れているのか、このお茶しょっぱいと、心の中で思っていた。


 ウインターノが、

 「わたくしの部屋は、まだ、ありますか?」と聞くと、


 もう一人も老人のバクルスが、

 「はい、お嬢様のお部屋は、ご主人さまが大切にされていましたので、わたくしも、毎日、お掃除をしています」


 話を聞くと、このバクルス老人は、掃除などを担当して、ジョジョは、料理、マイシルは、メイドの仕事をしていたようだ。


 その後、マイシルに部屋を案内してもらって、結構、埃っぽい部屋に入った。ウインターノは、手でその埃を避けながら、初めて生前のウインターノさんの部屋だと言う所に入っている。


 バクルス老人は、

 「お嬢様、今日は、掃除をまだしていません。申し訳ありません」


 「大丈夫です。後から、ベアドックと言う執事がやって来ます。彼が、今後、この屋敷で指揮をとってくれますので、今後は、彼に従って下さい」


 「わかりました。それでは…………」

 「あっ、大丈夫です。もうすぐ、彼が食料など、今、必要な物を運んできます。その材料で、食事などの支度をして下さい」


 「わかりました。これで失礼します」


 マイシルが、退出すると、部屋の埃を、いったん魔法で片付け、外のベアドックに指示を出し、どうにかベットに座る事が出来た。


 「ベアドック……。あなた、これから、仕事が大変だ。幽霊屋敷と老婆3人……。ごめん」


 ウインターノは、部屋を見回して、生前のウインターノさんの写真や絵画を探す。


 「写真は、やはり、ないよね……。自分の部屋にないなら……、どこかにある?」


 屋敷内を探索してみると、絵画が並ぶ廊下が見えたので、そこに移動してウインターノの本当の姿を探すと、

 「この絵、この絵が、一番、新しい絵だけど……。あまりにも幼い」


 比較的新し絵は、両親とウインターノの3人の肖像画で、きっと、争いの起こる前に描かれたのだろう。幸せが溢れている肖像画だった。


 (これでは、大人になったウインターノの姿がわからないけど、意外に、自分の小さい時に似ているとも、思った。)


 ウインターノは、スマホを取り出し、その肖像画をカシャっと撮り、保存した。


 「どうせ、今日の夜には、アシガー皇子に会う、その時、本当のウインターノさんの事を聞けばいい」


 馬車の音が響き、数台の馬車が見えた。

 「どうやら、ベアドックが、大量の荷物と一緒に、登場したようね」


 ベアドックは、どこから手に入れたかわからないが、馬車にたくさんの荷物を積み、どこかで見つけた男性の使用人も連れて、華々しく登場してきた。そして、使用人達に指示を出し、テキパキと搬入を終えて、ウインターノの部屋にやって来た。


 「ご苦労様、大変でしたね?」

 「荷物の用意は前日からしていましたので、大丈夫でしたが、使用人たちを雇い入れるのに、多少時間がかかりました。しかし、どうにか心が澄んでいる人間を見つける事が出来ました」


 「そう?」

 「はい、王都はすでに色々な事が動き始めています。2年前の悲惨な王都ではありません。働きたい人間は、やはり、地方からでも、王都を目指してやって来ます。王都門の所で、交渉する人間も存在していました」


 「スゴイね。あの魔王、何もしていないのに……」

 「ただ、本当に食料不足は大変で、たった一つのパンの為に、暴動が起きそうな場面もありました」


 「では、簡単に食事をとって、王宮に向かいます。支度をお願いします」


 「かしこまりました」


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