傀儡政治が始まる。
第17章
3人で話していても、自分が落ち込んでくるのがわかる。
「平和を味わうと、当然だけど、身内を心配する事は、否めません。しかし、今回のこのような方法は、間違っていますが、これからは、このような不満がたくさん湧いて来るでしょう」
「そうだよね。でも、それを私に言われても困る……」
魔王が、
「その心配は、もしかしたら解決できそうだ」
マリヒューイとウインターノは、びっくりして魔王を見る。
「この国の皇子が王宮に戻り、執務を始めた」
「戻って来たって、どこに行っていたの?」
「ここと違う国ではないか? 彼が戻るまで待ったかいがあった。2年も国をあけていれば、国民同士の殺し合いも終わっていると思ったのだろう……」
「??」
「この国には異世界に通じる橋が架かっていた。私たちが、どうしてその橋を発見できなかったかは、不思議でならないが、実際、ウインターノも、そこからこの世界に送り込まれている」
「??」
「その皇子って、ウインターノの婚約者だった、アシガー皇子?」
「知っているのか?」
「そんな噂を聞きました。内戦を起こしどうしようもない人間らしいけど……、ウインターノは、この国の為に婚約したらしいです」
「ウインターノの父上は、アシガー皇子が、魔法で国民を戦わせている事に気づき、何とか辞めさせるために、当時、彼が恋していたウインターノ嬢との結婚を認めさせることにしたと文献には残っていた」
「……それって、生贄?」
「生贄と……言っていいのかわからないが、彼にとっては、時間稼ぎでもあった。お父上は、この国のどこかに、皇子が、魔力を得ている物を探す事に重点を置きたかったのだ」
「カビ?」
「カビの事は、君以外、ここの国民すべてが知っている。だから、カビ以外の何かだ。彼は、自分の父親である国王も暗殺して、後は、自分がこの国の国王に即位するだけで良かった。なんとかアシガー皇子の即位を止めたかったバンダ家を罠にはめて、ウインターノは、砂漠地帯へ幽閉されたと書かれていた」
「なぜ、王都ではなく砂漠地帯かと言うと、安全だからだ。食事や身の回りの事は、皇子自らが、指示を出し援助を行っていた」
「うゎ~~、気持ち悪い!」
「それで、アシガー皇子の魔力の元は何だったの?何を食べて、人々を戦わせたの?」
「彼は、生まれつき魔法がつかえたのだよ。皇子だと名乗ったのは、ただ、王族への憧れかららしい」
「兄上、整理すると、そのアシガー皇子は、例の異世界から侵入して、この国全部に魔法をかけ、争うように仕向け、また、違う世界に移動して、最近、戻って来たという事?」
「そうだ。もしかしたら、時空が歪み、彼にとっては2,3分かもしれないし、何十年かも知れないが、彼は、きっと、この国には、勝ち残った人間しか存在しないと思って、戻って来たのかも知れない」
「今でも、そっちの国は、今でも、戦っているの?」
「いや、そうでもない。ウインターノのジャガイモを食べた人間たちは、徐々に正気を取り戻している」
「マリヒューイが、ウインターノの所から、野菜やお茶なども持って来てくれた物も、すべて地方に分散して植えてみたが、作物が育つと、人々は、収穫を始めて産業を興し、市場で売る人間も出て来て、最近では、争いはそんなに起きていない。まぁ、魔物のカビも一生懸命に働いているがなぁ……」
「兄上は、それ以外、何もしていないの?」
「そうだ。調べ物にも時間がかかるし、島の整備もして、マリヒューイの仕事も手伝っていて、おまけに、こっちの国の手伝いもしている。それで充分だろう?」
「ええ……、十分ですけど、本当に、あの国では、魔法を使っていないのですね?」
「ああ、勿論だ。人間と魔法の共存は難しい。ただ、あの皇子の帰りを待って、入り口を閉鎖しただけだ。だから、もう、彼は、どの世界にも行く事は出来ない」
「……結界が張ってあっても、その入り口は、有効だったのですね?」
「それなら、こちらの国にもその入り口は存在するのでは?」
「いや、彼がこの国から消えたのは、君がこの国に来て物凄い嵐が起こった時だ。君が来て、逃げ場がなくなった彼は、その入り口に、飛び込み逃げたのだろう」
「兄上、その入り口は、今はどこに?」
「今は、この手の中にある。携帯できるように改良した」
「おおおぉぉ……」
「それで、彼に、王族としての使命を果たしてもらおうと思ってる」
「薬草を枯らせた親子と同じように考える人々は、今後は増えてくるだろう。しかし、二つに割った地面を元に戻す事は出来ない」
「やっぱり……」
「それに、このままでは、争いをやめてもこの二つの国は存続できない」
「王都の国は、男性ばかりで、女性が少ない。少ないと言うより、年寄りの女性しか残っていなくて、こっちの国は、女性ばかりで、結婚して子供を増やさないと、どちらも人がいなくなると、調査結果がでた」
「調査結果って、もしかして、魔物を増やして調査させているの?」
「当たり前だ。統計を取り、傾向を探り、未来を予想する」
「??」
「私達の家系は、魔法が使えるほかに、未来も予想する事が出来ます。予言者ではないのですが、進む道だけがわかるのです」
「マリヒューイも?」
「そうです。私は、その占いの力が備わっていますが、魔力はそんなにありません。しかし、2兄には、占いや予想などの力が全くありません」
「……彼は、未来が見えないのです。だから、アシガー皇子が、戻ってくるまであの城に滞在していたのでしょう」
「未来が見えないって、普通の事でしょう?それが、コンプレックスなっておかしい……」
「コンプレックスではない。キチンと統計を取り、傾向を調べ、対策をとっていれば、今回のように、バカは、やはり戻って来た」
「う~~ん、そうなのかな?」
「じゃあ、マリヒューイは、薬草を駄目にする人が現れるとか?わかっていたの?」
「いいえ、わかっていません。わかる事は、この国が存在している意味があると言う事です」
「私は、あまりにも酷い行いの独裁者が存在していたり、その国すべてが毒にまみれているなど、どうにもならない国を破滅させる事が出来ます。しかし、その判断は、やはり難しく、その国で、人生を過ごさないとわかりません。そのためには、やはり、道しるべが必要で、きっと、その様な能力なのでしょう」
「しかし、前任の担当者は、この国を残しています。そして、水や塩を与え人々が生きて行ける様に細工をしています」
「でも、前任者のずさんな仕事は、大きな災害に繋がり、多くの人々の命も奪いました。だから……」
「だから?」
「だから、僕たちが、この世界に呼ばれて、後始末をしています」
「全くわからない!」
「……ウインターノさん、わたくしが、今、言える事は、ごめんなさいです。しかし、本当に、この世界に、ウインターノさんがいらして下さって、感謝しています」
「ウインターノ、アシガー皇子の魔力は、びっくりする程に少ない。恐れる事は何もない。ただ、彼には王族と言う看板がある。それを使って両国に為に働いて欲しいと思っている」
「フフフ、傀儡政治の始まりだ。だから、今回の事件を悔やむ必要はなし、住民の裏切りも気にすることはない。そして、今後も起きる沢山の要望は、この国の人々が叶えて行けばいい」
「我々は、人間の欲の為に働く事はない。君が今までして来なかったように、これからもそうして過ごせばいいのだ。これから、人々の要求にこたえるのは、アシガー皇子の仕事だ」
その後、ケンティが戻って来て、「薬草は、今日、収穫しましょう」と笑顔で手を振っているのを見て、魔王は、あっという間に熱弁を止めて、不機嫌になった。
「ケンティ、君は、このままでいい。本当に、このままでいて下さい」とウインターノは、思って、ケンティに手を振った。
「――」