カビの特性
第16章
「魔法って、魔法なの?」
「そうだ。この国には、魔力が存在する」
「私たちのせい?」
「まさか、ずっと、昔からだ」
「マリヒューイの国が属している7カ国に、高温の地熱を抱えたカオ国があった。マリヒューイや私達転生人が、この世界に現われなかったら、この世界は終わっていただろうと思う」
「ウインターノが見た爆発は、マリヒューイが長い間、爆発を抑える魔法をかけていたが、マリヒューイの力だけでは、防ぐことは出来なかっただろう」
「――」
「その爆発って、この前の雲?核兵器が落ちたような?」
「そうだ、君が横取りした雲だ」
「横取りって……、」(まったく、心が狭い。)
「そして、その反対に、この国の下には、水が溜まっている。おかしいと思わないか?」
「??」
「この二つの国は、水と火で、相反している。それは、ずっと昔に誰かが意図的にそうした様で、そして、どちらの国にも魔力が残っていた」
「じゃあ、この国の人達は、魔法が使えたの?」
「そうなる」
「エザルールが、神話を話してくれたけど、その神話では、昔は雨ばかり降っていて、その雨が地下に溜まったみたいな事言っていたけど……?」
「私が王宮に滞在しているのは、古い文献を調べる為だ。それは、ここ数十年間の不思議な内戦を読み解く事に繋がり、たまに現れる魔力を持った王室の人間謎にもつながる」
「ふ~~ん、大変だね……」
「興味がないのか?」
「今は、砂糖の事で頭がいっぱいで・・、砂糖、この国の人たちに広めてもいいと思う?」
「それは、まだ、考えた方がいいかも知れない。砂糖が麻薬みたいに流通する事は、望まないだろ?」
「実は、私も、本当にそう思っていた。う~~~ん」
「ーーうだな、この国のお茶は、少し苦いから、まずはお茶に入れるとかはどうだ?」
「あっ! それの方がいい、リップスさんにお茶のお店を出すように勧めて、お茶に砂糖を入れてみよう。ありがとうございます」
「マリヒューイが薬草の事を心配していたから、後でメールしてくれ」
「はい、わかりました。ありがとう」
ウインターノは、自分がこの世界に転生されて、魔法まで使える事で、既に十分驚いていたので、この世界に魔法が存在している事に対して、そんなに驚いていない。
「ここは、不思議な事がいっぱいで、退屈しない。でも、頭を使う事は、彼の仕事に思える。きっと、そうだ。彼は、きっと、頭がいい・・。彼に任せよう・・」
×××××
次の日、魔王と話した後、お茶に砂糖を入れて販売する計画を練っていると、リップスが、慌ててやって来た。
「大変です。薬草に地下の水をかけた人がいて・・。薬草が変色し始めました」
「え?どうしてそんな事するの?」
ウインターノは、理由がわからないと思いながら、急いで現場に駆け付けると、大騒ぎになっていた。
「ウインターノさん」
「ウインターノさん、どうしたらいい?」
「ウインターノさん、私達は、これから……。どうして……、こんなことを……」
現場のみんなは、やっとつんだ安定した生活が、音を立て崩れていくと感じているのか、泣き出す女性も多い。
薬草の作業は、基本、女性が担当する。小さい虫の駆除だったり、地面の温度の計測、カビ退治、芽を摘んで、立派な薬草に育てる事が、ケンティからの指示だったはずで、男性は基本、ギルドの建設に携わっている。
ウインターノが、近づくと、犯人の女性と子供が取り押さえられていた。あの魔法がかかっている水道の機材を持ち込み、薬草にかけたのだろう。薬草の畑に入るにあたって、持ち物検査などはしていないし、ましてや草や木が枯れた原因は、リップスが教えていると思っていた。
「誰かに頼まれたのですか?」
「――違います」
「なら、どうして?地下の水は塩分が濃くて、作物を育てる事が出来ないと、ご自分の身で、体験しているのに、どうしてこんなことをしたのですか?」
女性は娘を抱き、泣きながら話す。
「主人に・・、主人に、この子の父親に会いたいのです。王都に戻ってまた3人で暮らしたい」
「……」
「罪を犯せば、ウインターノさんが、王都まで飛ばしてくれると、聞きました」
「どうして、ご主人が王都で、無事に暮らしているとわかったのですか?」
その場のみんなは、誰も、話さないが、昨日、魔王が教えてくれたのでウインターノは、理解できていた。
「皆さん、ご存じの通り、あなた方は、少し魔法が使えて、王都の人々と連絡がとれるのですね?」
リップスは、口を開く、
「私達自身が、魔法を使えるかと言えば、使えません。しかし、カビを食べると、少し離れた人とも意志の疎通が出来ます。私は、王都までの距離は無理ですが、彼女は、きっと、できたのでしょう。私たちは、あの砂漠の中で生きる為には、カビと魔法が必要でした」
ウインターノは、
「あなたのご主人に会いたいと願う気持ちは、理解できます。しかし、大切な薬草を駄目にして、この薬草を待っている病人を殺した罪は、重いと思います」
「ケンティたちの国の人々は、きっと、薬草がもうすく収穫できると、心から待っています。その病人達にも、ご主人に会いたいが為に、薬草を枯らしたと言えますか?」
ウインターノの話を聞いて、誰も意見を言う人間は現れず、ウインターノは、
「ここの薬草畑は、今日で閉めます。今回、罪を犯した二人は、王都への追放と言う罪は与えませんが、この国の地方で、また、1から生きて下さい。あなたがまた大地を枯らすなら、私は、昔の状況に戻す事も考えます。この台地が、2年前に戻るだけです」
ウインターノは、二人を遠くの砂漠の地に移動させた。
その後、畑から人々を追い出し、薬草畑に結界を張り、被害状況を見て回った。そして、スマホを取り出し、マリヒューイに連絡して、被害状況を見てもらった。
「被害は、ほんの一部だけど、現時点でも結構成長しているので、このぐらいで収穫する事はできる?」
「ケンティに見てもらった方がいいと思う。私ではその判断が出来ないので、兄に頼んで、ケンティをそちらに向かわせます」
「お願い。この枯れてしまった葉っぱも、どうしていいかわからないからそのままにしておくね」
「はい、では、兄に連絡して、そちらに向かうようにします」
ウインターノは、一人、そのまま残りマリヒューイ達が来るこのを待った。今、家に戻っても頭の整理が出来ない事がわかっていたからだ。
「カビを食べると、魔法が使えるってどういう事?カビを食べると通信が出来るの?」
しばらくすると、マリヒューイ、ケンティ、魔王が登場して薬草畑の中で、話し合いが始まった。
「その塩水をかけた女性も、広範囲ではなかったから良かったけど、薬草が病気になってしまったら、すべてが台無しになってしまう時もあるから・・。ケンティの見解を待ちましょう」
「薬草も病気になるの?」
「そうなの、我が国でも目が届かないところで病気が発生して、すべての薬草を破棄しなくてはならなくなって、ウインターノさんの所にお願いに来ました」
「そうなんだ・・」
「しかし、カビを食べると魔力が使えるって、驚きました」
「ええ、私もびっくりです。だから、私がカビを食べないのに、魔法が使える事が、周りには不思議だったのかしら?」
「じゃあ、この国には、魔法を使える人間がたくさんいるって事?」
「しかし、彼らには、魔力がない。魔力を与えてくれるのは、大量に生息しているカビだけだ」
「マリヒューイは、この国で、カビを食べた?」
「いいえ、流石に……、アレは食べられません」
「魔王は食べました?」
「イヤ、食べていない」
「兄は、ウインターノさんと一緒で、ハンバーガーがあればいいらしいですよ」
「おお、そっか、気が合うね?私もこの国の物は、基本、食べていないけどね……。まぁ、しょっぱくって、無理なんだよね……」
「でも、ケンティは、リップスさんの家で、食べたみたいです」
「じゃあ、ケンティも魔法が使えたのかしら?」
「それはない!」
「ないわ~~」