ベアドック登場②
第14章
リップス親子を何とか納得させてからその日の業務を行う。ギルドで、印を押してもらう人々は、◎は、ウインターノの席へ、△は、ベアドックの席に並んで、その間、不思議な顔をしてベアドックを見ていた。
そして、勇気のある人は、遂にたずねる。
「ベアドックさんは、ウインターノさんのご主人ですか?」
その場の空気は、ピーンと張り詰め、ウインターノの返事を待つ。
「いいえ、執事です。彼は、遠くからわたくしを探しに来てくれて、今後は、また、わたくしに仕えてくれます。だから、これから、市場にも顔を出して、買い物などもすることがあると思いますが、どうか、皆さん、快く迎えてあげて下さい」
「わぁ~~、それは、よかったよ。ウインターノさんは、我々に仕事やお金をくれが、ご自分では買い物もしていない。本当に心配していたんだ。何を食べているんだろうって、ねぇ、貴族様は特別な食事なのかと噂してました……」
「ハハハハハ……、必要な物は、リップスさんが買ってくれてましたから……、ハハハ……」(汗)
(そっか、ヤッパリ、不思議がられてたんだ。そうだよね。全然、お金を使わない事業主って、存在する?)
「やはり、貴族様の娘さんだけあって、ご自分では、出来ない事も多いでしょう。良かったですね。これからは、執事さんが、仕えてくださって、本当に心配していました。良かった。良かった」
集まった人々と、話をすることはあまりないが、みんなが、ウインターノの生活を不思議がっていた事が実感できて、ベアドックが魔物になってくれて、良かったと心から思った。
朝の仕事が終わると、ベアドックは、本当に掃除と洗濯を初めたので、簡易的な洗濯機を作り、ウインターノも、魔法でベアドックを助けた。
そして、この家から掃き出されたホコリを見て、見た目だけの掃除は、後からつけがやって来ることを悟った。
「やっぱり、ホコリって、魔法でなくしても結構、残っているんだね。うん、うん、納得しました。そうだよね。掃除は、本当に一度もしていないから……」
「はい、これから、まだまだ、掃き出しますから、散歩にでも出かけて下さい。そうしないと、本当にホコリまみれになりますよ」
実際、この世界に来てからは、散歩もあまりしていない。クマを飼っていたが、クマは、散歩をしなくても、朝、出かけて、夕方には戻って来て、途中で、エザルールに、ご飯ももらっていたお利巧なペットだった。
「散歩……?」
「――走って体力をつけろとは言いません。でも、どうか、少しは歩いて下さい。町に出て、様子を見るのもいいでしょう。畑に出て、成長を見る事も大切な事です」
「散歩……、散歩か、そういえば家から全然出かけないで、町中の様子を見ていたから、この町並みに違和感は感じられないが、やはり、外に出ると全く違う……」
砂漠の台地は、2年未満で、木や草が増えて、砂漠地帯に出来た本当のオアシスの様で、歩いている道は、それなりに綺麗で草も生えていない。
よく見ると、道の草は、鳥やヤギ、その他の動物たちの餌にする為に、奪い合うように抜かれているみたいで、散歩する道だけを考えただけでも、人間の生命力に感心できる。
木が育つと、日陰もできて、その下には、魔王から奪い取った廃材で、家を建て人々は暮らし始めている。
「ウインターノさん、こんにちは、珍しいですね」
「はい、たまには散歩するのもいい事だと実感している所です」
子供達は、子供同士で遊び、初めてこの地に降り立った時とは別世界?
「ウインターノさん、こんにちは、今日はポテトを売るの?」
「いいえ、今は、ギルドの仕事が大変だから、お休みしています。また今度ね~~~」
子供たちの大きな期待の目を向けられても、今は、ハンバーガーの鞄も持っていなくて、何もあげる事が出来ない。
「こんな時、飴でもあれば、あげられるのに……、そうだ、てんさいで作った砂糖、アレで飴でもつくってみようかしら……。こう考えると、人間って、暇な時間なんてないのかも知れない……」
その後も、道で会う人々を驚かせながら、挨拶して、散策して、珍しいものばかりを集めている雑貨店みたいな所に入ってみる。
「ここにある物は、どうしたの?」
「こんにちは、ここにある物は、色々な人達が持ち寄って来たものです。それぞれで売るのも大変ですし、私が買い取った物だったり、場所だけを貸している品物もあります」
「ええ、意外に……、なんでも揃っていますね?」
「多くの国民は、役に立たない物でも、こっちに避難するときに手離す事ができなで、何度も戦火の中へ、取りに戻った人もいます」
「そうなんだ……」
「後は、その辺で、拾った物で、商品を作っている人達もたくさんいます」
「あああぁぁ、そうなんだ……。何か困っている事はありませんか?」
「ありません。大丈夫です。戦争のない空の下で商売できる。これ以上の望みはありません」
「――」
掃除の時間を作る為の散歩の最終目的地は、自分の畑のてんさいを見に行く事で、流石に結界を張っている畑だけあって、カピも虫も存在していないほぼ工場生産のてんさいを、魔法の力で収穫して、魔王にもらった空間ポケットに入れて、帰宅する。
帰宅すると、ベアドックは、既に、夕食を用意しながら、夕方のギルドの準備まで終わらせていた。
「クマ……、そんなに働かないでいいのよ。人間型なんだから、のんびり過ごしましょうよ」
「ウインターノさん、あなたはこのままでは、立派な大人になれません。明日からは、料理や裁縫なども少しずつでも覚えて下さい」
「いやいや、クマがいれば、必要ない事でしょう?」
「しかし、お嫁に行ったら必要です」
「わたし、多分、お嫁には行けません。大体、この町に年齢があう男性がいないのは、クマが一番知っているでしょ。後は、物凄い年下の子供達しかいません」
「でも、このままでは、本当に、ウインターノさんの将来が心配です」
「心配ないよ。ずっと、クマと一緒にいられる。それだけで、心配ない!」
最後の言葉が効いたのか、クマは、ウインターノの再教育熱が冷めたのか、夕方の支払い業務が終了すると、一緒に食事をとり、普通のクマの姿に戻って、眠りについた。
その姿は、本当に可愛いクマの本来の姿で、ウインターノは、そのままクマを抱き、ベットにダイブして、お風呂も入らずに、歯も磨かず、ウオッシュ&乾燥、着替えも魔法で済ませて、引き込まれるように眠った。
「ああぁ、こんなに深い眠り……、久しぶり、もう、目を開けたくない……」
この日、初めてこの世界に来てからの深い眠り、犬だけど、犬ではないクマが家の中にいるだけで、ウインターノは、安心して眠りにつけていた。
隣国の魔王は、ウインターノが、ゆっくり眠れたので、自分もぐっすり眠った。クマの存在は、この二人にとっては、大変、有難い存在になったのは、確かだった。
次の朝、ベアドックになっていたクマは、少量の優しい朝食をウインターノに用意していて、ウインターノも嬉しそうに食べ、ギルドを開け、業務を行う。
9時以降は、当然のように暇時間で、人間のクマと過ごすには、気まずい時間になる。そこで、
「クマ、これからてんさいを使って砂糖を抽出して、その砂糖を煮詰めて、飴を作ります」
「飴、飴ですか?」
ウインターノは、魔王がクマにどの位の知恵を与えたかは知らないが、クマが考えている様子をみると、飴という存在を理解できたと確信した。
「こっちの部屋には入れる?」
二人で、ウインターノの格納部屋に入っていくと、ベアドックも入る事ができて、そのてんさいの量の多さにびっくりしていたが、てんさいを煮詰めるプラントにもう一度、びっくりしていた。
「前に、一度、砂糖まで作る過程を試しているから、砂糖までは作れる、その後、この砂糖を煮詰めて、飴を作りたいの……」
「この乾燥した果物は?」
「それも、本当にたくさん余っているから、飴の中に入れようと思ってます」