ベアドック登場
第13章
身分証明書の秘密がわからないまま、日常は過ぎて行き、毎日に業務にも慣れてきた。
「この裏の◎とか△が消えると、賃金を払った仕組みは、本当にいいよね?」
「ええ、貯めてから受け取る人もいるし、毎日、受け取る人もいて、おかげで一人でも大丈夫そうです……。多分……??」
「大体、身分証明書も一度作ってしまえば、魔法で印をつけるだけだし……。初日に印の仕掛けがわかった時には、二人で大喜びしたのが、なまなましく記憶に残っているけどね……」
「あの後、教科書を読み直して見ろと言われて、確認すると、初級の中の初級の魔法で、二人で思いっきり落ち込んだのも、いい思い出です。こちらが、少し落ち着きましたので、ケンティを連れて、自分の国に帰ります」
「そうだよね。マリヒューイさんは、国王だった。忙しいのに魔法の勉強に付き合ってくれて、ありがとうね。薬草が収穫出来たらメールするね」
「楽しみにまっています。ありがとうございました」
マリヒューイとケンティがリカの国に戻って、気まずい魔王と二人が残された。
「あの……」
「とにかく、私も国に戻る事にする。……?ところで、どうだ?わかったか?」
「全然、わかりません……」
「では、今日は、魔物の作り方を伝授する」
「え?いきなり、魔物?カードの秘密もわからないのに?」
「多分、魔物を作る方が君には合っていると思う」
頭の中では、『なぜ?』が、回っていたが、優秀な教師には従う事しか出来ずに、うん、うん、うんと、ずっと、頷いていた。
「この国に生息しているカピを一匹思い浮かべて……」
「浮かんだか?」
「はい、カビは苦手なので、結構、遠くにいるカピでいいですか?」
「自分が魔物にした魔物たちが、異常や危険を感じた時に、24時間どんな時でも教えてくれる。だから、その覚悟がいるけど……。いいか?」
「イメージを送ってくれるってこと?」
「イメージや言葉」
「言葉も話せるようになるの?」
「マリヒューは、まだ無理だが、我々くらいなら、言語や人間の日常など、殆んど人間と変わらない魔物を作る事ができる」
「どうして、このカビを選んだかも、後からわかるようになる。さぁ、目を閉じて、カビに力を注いで、ゆっくりと、そう、そうだ。カビを胸に抱えるように……。そう、あたたかくなって カビと目があったらそのカビは、ウインターノの専属魔物になる」
「なんだか、おかしい、心まで、温まるような感覚?なんだか変な感覚?」
「1度、自分の魔物にしたカビは、これからウインターノに忠誠を誓う、だから、大切にしてやって欲しい。彼らは、いつも、君と共にある」
「それから、1日も早くクマを魔物にして欲しい。クマは君にとって特別な存在だから」
ウインターノは、愛しい、愛しいクマをみて、魔王を見て決心がつかない。それを察した魔王は、ウインターノを説得を始める。
「普通の犬は、寿命が短いが、一度、魔物にした生き物は、生涯一緒にいられる、それだけでもクマを、魔物にする価値があるのでは?クマはずっと君に寄り添う」
ウインターノは、前世の事を考えていた。年を取った両親は、遅くに子供を授かって、二人とも自分たちは、健康だと思っていたに違いない、しかし、結局、二人とも病に倒れ、亡くなっている。自分もどうやった死んだのかは不明だが、今では、両親の病気の遺伝ではなかったのかとも疑っていた。
「もう、一緒に暮らしている家族を失うのは嫌だ……」
「本当に? 本当に、生涯一緒なの? クマはどこにも行かない?」
「ああ、そうだ。君が死ぬときは、クマも一緒だ」
ウインターノは、クマを抱きしめ、
「魔物になる事が、あなたにとっていい事なのかわからないけど、もう、一人になるのは嫌なの。ごめんね。クマ……、私とずっと一緒にいてね。お願い、私の魔物になって~~~!!」
ウインターノが、クマを魔物に変える時に、魔王はウインターノの手を握り、一緒に魔力を送った。その結果、クマは人間の姿に代わり、イケメンの執事のような風貌に変化した。
「本当に、……に、に、人間に変えたの?」
「ああ、基本は、犬の状態だが、ギルドの受付の時は、人間の姿にする。後は、君に危険が及んだ時にも、立派な兵士になるように仕組んである」
「それって、もしかして?クマには、カードの発行ができて、私には出来ないってこと?」
「勘がいい、そうだ。君は、まだ、あのカードの秘密を探せていない。それに、私も、毎日、ここに出勤するのも限界がある」
「……」(教えてくれればいいのに……。)
「こんなイケメンのクマ……、嫌だな~~。なんだか、恥ずかしい……」
「大丈夫だ、イケメンにしたのは、君の頭の思考で、クマは、女性だ」
「そうだよね。クマはメスだった。そうだ、、、残念だったが、メスなのだ。そうだ、そうだ」
その後、クマは、身分証明書を作り、印を記入して、支払いを完了して、印を消す作業まで完璧にやり遂げ、魔王からお褒めに言葉を頂き、魔王は自国へ帰って行った。
夕方の支払いが終わると、ケンティに頼まれていたので、雨を少し降らして、いつもの様に家に戻り、夕食にしようと思っていると、クマは、既に、夕食の用意をして待っていた。
「クマ……、今日一日疲れたでしょう?夕食とか、本当に大丈夫だよ、私にはハンバーガーがあるから、クマも好きだったでしょ?」
この瞬間から、イケメン執事が、本当に、オカンの心を持った女性だと実感する事になる。
「ウインターノさん、今までは、確かにハンバーガーしかありませんでしが、最近は、色々な作物が出来上がって来ています。だから、ハンバーガーを食べるのは、これからは減らして行きましょう」
「え~~! どうして?」
「健康の為です。大体、犬にハンバーガーは、絶対に駄目です。マリヒューイさんが、色々な調味料や鍋、食材も持って来てくれてます。これからは、私が料理をしてウインターノさんにお出しします」
「……、でも、忙しかったら言ってね?ハンバーガー、いつでも出すよ!」
「……」
健康に良さそうな薄味の夕食を食べて、そのまま寝ようとしていると、
「折角、お風呂があるので、入浴して下さい。それに、たまには洗濯も必要です」
次の朝は、マジで早起き……。
「おはようございます。朝は、果物とパンのお粥にしてみました。今まで、朝食をとっていなかったですよね。今日からは、少しでいいので、朝食は、必ず召し上がって下さい」
「クマ!! どうして、こんなに意地悪なの? 今までの生活が不満だったの?」
「……ウインターノさん! ウインターノさんが、生活習慣病で早死にすると、私も死にます」
「……そうだよね……。それ、魔王に聞いたの?」
「……だから、これからは健康第一の生活に変えて行きます」
「ねぇ、魔王は、他に何か言っていた?カードの秘密とか?」
「いいえ、良く、ウインターノさんにお仕えするようにと、申されていました」
「……」
×××××
次の日、ウインターノの家の前の特設ギルドカウンターに、二人は並んで業務を行う。
朝、一番に出勤してくる隣に住んでいるリップス親子は、クマを不思議そうな顔で見ていたので、
「こちら、新しい従業員の……、ベアドックさんです」
「ベアドックさん?」
「そう、ベアドックさん、身分証明書の発行を手伝ってくれます。簡単に言うと、私がいなくても、彼がいれば、すべてが完了する。そのように立派なお手伝いさんです」
「お手伝いさん?メイド???」
ウインターノは、自分が、こんなにも説明する事が出来ない駄目な人間だと実感しながらも、リップス親子には、どうか、この状況を飲み込んで欲しいと心から思った。
「ベアドックさんって、昼間は何をしているの?」と、エザルールは聞く。
「はい、ウインターノさんの家で家事を担当しています。今日は、これから大掃除と洗濯をしようと思っています」
「でも、いつも、ウインターノさん家って、綺麗だよね」と、エザルールは話す。
リップスは、ウインターノが、洗濯も掃除もしていない事は知っている。見た目はきれにしていて、体も部屋も服も洗っていない。それに、こんなに作物が豊富になっても、料理をしている所も、見たことがなく、たまに差し入れしている物以外は、ハンバーガーとポテトで過ごしている事も、知っていた。
リップスは、ウインターノの表情で察知して、ウインターノの不安を脱ぎ去るように、言葉をかける
「でも、若い娘さんが、一人で暮らして行くには、これからは危険でしょう。ベアドックさんのような、素敵な方と一緒の方が、安心安全です」