魔物
第10章
「薬の作り方は、ここで考えてもわからないので、一度、国に帰って長老たちに相談してきます」
「そうだよね。そんなに簡単にできたら、それは、それで本当に、すごいよ。うんうん!」
魔王とマリヒューイ、ケンティは、いつも明るいウインターノに、癒され、『そうだ』と言う顔で、今後の事を話し始めた。
マリヒューイは、ウインターノに、今後の計画を説明する。
「この国で、たくさんの薬草を栽培して頂いて、それを自国に持ち帰り調合して、製品に変え、必要な国に送ったり、売ったりする予定でした。栽培が上手く行くと、本当に、たくさんの人々が助かります。そして、私たちの国にも大きな利益をもたらします」
「その為に、絶対に、薬草の栽培には失敗して欲しくありません」
「でも……、わたし、農業の事など、本当にわからないです。何をするにもスマホで検索して、スマホに教えてもらっている状態で……」
「わかっています。だから、ケンティを置いて行きます。ケンティは、薬草を育てる事を長老から、すでに色々習っています。彼なら、きっと大丈夫だと思っています」
魔王は、ケンティを褒めるマリヒューイの事を睨んでいた。
「しかし、置いていくって……、どこに?」
「……リップスさんが、泊めて下さると、おっしゃってました」
「そう? では、リップス親子の家に、ケンティの為の部屋を増やしましょう」
ウインターノは、自分にあまり面倒を起こさないなら、マリヒューイの国の為に、薬草を栽培することに不満はなかったが、チラッと見た魔王は、ケンティへの不満は、なんとなく感じ取れて、もしかしたら、シスコンなのかとも思った。
ケンティは、幼いながら物凄く頭も、人柄も良く、働き者で、誰からも好かれる。こんないい彼氏を持っているマリヒューイを羨ましく思ったりもしていた。
魔王が、不機嫌そうにウインターノにたずねる。
「パソコンを使って、何をする予定だ?」
「え? リップスさんが役所みたいなのが欲しいらしくて、今、いる人達の人数くらいは、把握しておきたいと思って、スマホよりは、パソコンの方が仕事をしやすいでしょ?」
「役所を置くにしても、1からでは、大変な事だろう?」
「ええ、だから、体の不自由な人とか、シングルマザーとか、生活が厳しい人達に働いて欲しいと、思っていて、今回、マリヒューイさんからの薬草の仕事を頂いたお金で、現実に、創設できる可能性もでてきたでしょ?」
「こっちの国は、本当に平和だ。我が国と同じ時間が流れていると思えない程に、穏やかだ」
「あちらの国の人々は、まだ、戦っているのですか?」
「いいや、最近は、魔物を使って抑制しているので、殺し合いはなくなった」
ウインターノ、マリヒューイ、ケンティの三人は、同時に叫ぶ!
『魔物?』
「魔物って、極悪非道な感じで、すべてが真っ黒で、牙が生えていて……、そんな奴?」
「イヤ、大きいサイズのネズミだ。この国にはたくさんいるらしく、少しくらい魔族に変えても差し支えないだろうと思って、彼らに見張らせている」
ケンティが、
「それって、皆さんが食べているカピって、動物ですか?」
ウインターノは、カピに対しての絶対的な拒否反応があり、ケンティの口からカピと言う単語を聞いただけで、吐きそうになる。
「良かった~~、マジで食べなくて、絶対に無理だから、アレ、魔物なんだ……」
「イヤ、元々は、魔物ではなく、自分が魔法をかけて、働いてもらっている」
マリヒューイが、「どんな風に?」と、たずねる。
「報告、監視、仲裁、などかな?国内全部を一人で制圧する事は不可能で、魔物に助けてもらっている」
「でも、この国のすべての人達は、そのカピを主食にしていたんだよ……」
「食べられた魔物もいるかも……・」
「まさか、そんな間抜けは絶対にいない!」
「おおおぉぉ、絶対的な自信」
「でも、私は食べないけどね。やっぱり、ハンバーガーの方が安心する。ジャンクフード万歳!」
ウインターノが、鞄からハンバーガーを取り出し、3人にも分けると、みんな嬉しそうに食べて、
「カピを食べるよりは、やはり、美味しいよね」
「ああ、安定の美味さだ!」
「これ、温かくて、なんて美味しいのだろう……。すごいですねウインターノさん、初めて食べました。ピザと同じくらい美味しいです」
「ピザ? ケンティの国にはピザがあるの?」
「はい、あります。ピザも大人気でしたが、今は、ポテトの方がスゴイ人気で、毎日、行列が出来ています」
「ポテト?」
「はい、ウインターノさんのポテトを真似しました。すいません……」
「じゃあ、ポテトもあげましょうか?本当は、ケンティに、炭酸も一緒に飲んで欲しいけど……」
「流石に、炭酸飲料はないよね」
「流石にね……。それは、無理ですね。でも、今度、ピザを持って来ます」
「本当? 楽しみに待ってる。そうだ、この前の果物でジュースを作ったから、今、持って来ます」
4人は、ハンバーガーとポテトにジュースを飲みながら、今後の予定を話し、ケンティは、リップスの家に、快適な部屋を増設させてもらい、明日から作業に入る事にした。
「ウインターノさん、突然、押しかけて申し訳ありません。ケンティの事、よろしくお願いします」
「大丈夫、リップス親子は、本当に面倒見がいいから、大切なお客様だって、さっきも、はなしていたでしょ?」
「はい、エザルールが、本当に嬉しそうでした」
エザルールは、家に人がいる事を喜んで、何をするにもケンティを頼っていて、ケンティの話は、本当に真剣に聞いている。
魔王とマリヒューイが、自分の国に戻り、穏やかな日常がもどり、ウインターノは、パソコンで住民のデータを作り始めた。
しかし、パソコンがあっても本当に大変な作業で、近くに住む住人は、把握できても、地方の住人の存在を魔法で探す事は、困難を極めた。
「魔物の部下が欲しい…………」
考えて、考えて、考え抜いて、やはり、魔王に相談する事にして、ラインを送ってみる。
「既読……、アッ! ついた。うん? 来いって書いてある。行ってみるか?」
国と国の移動には、まだあまり自信がないが、きっと、魔王が誘導してくれたのだろう、この前よりもスムーズに、魔王のただ広いだけの部屋までやって来ることが出来た。
「お邪魔します。これ……、フライヤーであげたドーナッツです」
魔王は、席について、ウインターノに話しかける。
「カピは、苦手のようだったが、どうした?」
「自分の頭の中だけで、この広い国を監視する事は出来ませんでした。やはり、手伝いが必要になるとわかりました」
ウインターノが、話していると、す~~っと! ウサギとヤギを掛け合わせたような動物が、お茶を運んでテーブルに置いて行く。
「あ、あ、あれ! なんですか?」
「メイド、最近、自分もパソコンを使い始めて、色々、面倒になったので、メイドも一人雇う事にした」
「メ、メイドって、メイド……も、魔物?」
「そうだ。しかし、この国の動物は、魔物に変化しやすい動物が多く存在している。大体、このような動物を見たことがあるか?」
「……ありません。大丈夫なの?」
「動物自身には、魔力はなく、ただ、吸収する力が多く存在しているだけで、問題はない」
「私にもできるでしょうか?」
「まずは、少し魔法の勉強や訓練をした方がいい。今のままでは、自分の魔物に襲われる可能性もある」
「あ、ハハハハ……、そうですよね。ここまで来るのも大変で、マリヒューイさんみたいに大きな荷物を運んでくることなど、考えられません」
「荷物の輸送は、私が引き受けている。マリヒューイもまだそんなに力がある訳ではない。父上に頼んで、魔法学校などで使われていた教科書を貸す、それから実践訓練に入った方が自分の為だ。一歩間違うと、違う国に舞い降りる事になる。移動には、常に集中力が必要になる」
ウインターノが、魔王から知識と訓練の必要性をレクチャーされていると、どこからか『ガタ、ガチャーン、ガタガタ……。』と音が聞こえて来た。
「魔物、失敗していますよ」
「イヤ、最近、王室なのか?官僚か?この城に人が住み始めている」
「え~~~! 生き残り?」