-2-不思議な女の子
すぐ投稿しようと思ってたのですが投稿し忘れたりついでに修正したりで時間かけてしまいましたね……
この作品を通してその悪癖も改善していこうと思ってます。
それはそうと、今回ちょっとお試しではあるんですけども、登場人物の名前をカタカナにしてみました。
今まで通り日本名っぽいのは漢字にした方が良さそうであれば修正しますが、しばらく様子を見ていきたいと思います!
*一人のはずの朝
まず、ユズトは寝起きが悪い。
朝、目が覚めたとしてもそれは彼にとっては目覚めていないようなもの。半分くらいは意識があるものの、また半分くらいはどこか夢の世界を散歩しているからだ。
住み慣れた学生寮の部屋は、彼にとって目を隠してでも歩き回れる程、頭のなかで高い再現度を誇っている。
俺は目が覚めると、再度目蓋を閉じてから体を起こそうとする。
俺の遮光性十分なまぶたは、普段と変わらず無意識に、差し込む朝日を遮ろうとしてくれる。
目を瞑ったまま、体を起こそうとする。
いつも通りの行動なので、当然なにも問題は起きるはずはないのだが……違和感がある。
(ん? なんか、体が重い気がするな。心なしか体の左側が温かい……!?)
身に起こっている現象を一通り確認して、違和感から俺は今度こそ目が覚める。
朝日を受けて一瞬顔をしかめるが、そんなことはお構いなしで、すぐに温度を感じる自身の左の方へ勢いよく振り向くと、恐るべき事態が目の前には広がっていた。
重い? そりゃ当然、と言わざるを得ない。
左側が温かい? もちろんそうなるでしょうよ、と。
何故か俺のベッドには、一糸まとわぬ女の子が一緒に寝ていた……つまるところの同衾状態だったのだ!
「な、なんでだよ!?」
「誰だ!?」とかがお決まりだったのかもしれないが、今の俺にはこの状況にツッコミを入れることで精一杯だった。いやむしろここでツッコミを入れられた自分のツッコミ力の高さを評価すべきだろう。
などと無駄だらけな思考が一瞬よぎるが、とりあえず慌てて離れようとする。
ベッドの上だという事がすっかり頭から抜けてしまっている俺は、謎の女の子を引き剥がした勢いのまま、ベッドから思いっきり転げ落ちる。
鈍い痛みに思わず顔をしかめながらも、なんとか立ち上がり、改めて女の子の顔を確認してみる。
整った顔立ち。血色は良く、日に当てるのはもったいないと感じてしまうほどの透き通った肌。彼女の綺麗な肌を引き立てるだけには留まらず、見たものは必ず釘付けにされそうな美しく黒い髪。
年齢は幾つくらいだろうか。今、毛布からはだけて見える体躯から推測するに、十一か十二歳といったところか。
いや、どこを見て判断したとかそういう話はなんというかそのですね!
頭の中で誰にするわけでもない言い訳を並べ始めたところで。
女の子の目がゆっくりと開く。
思わず目が合ってしまう。
いや、その眼に見入ってしまったのだ。
青い……いや、蒼い眼。
初めて人の眼がこんなにも綺麗だと思った。
日に当たったことが無さそうな、ほんの少しの淀みもない肌。
そして肩より少し下まで伸びた黒髪が彼女の瞳をより一層際立てていることを感じた。
などのように、衝撃を受けていた俺であったが、彼女はとても不思議そうな表情で小首を傾げ、こう言った。
「あなたはだれ?」
それは俺が聞きてえよ。
そう言いたかった俺はごくりと、冷静でいようとする意味も含めて言葉を飲み込んだ。
だがしかし。
こんな容姿端麗な美少女?があられもない姿でベッドに現れたということを、どう幼馴染に説明すれば良いものだろうか。
部屋に差し込む朝日は、徐々にその強さを増していき、登校時間が迫りつつあることを柚斗に教えるのだった。
*侵食
たくさんの椅子。四角い部屋が何個も詰まったそれなりに大きな建物。
所々にある魔法と魔術の文字が目に入る空間。
ユズトとユナが通う仙王学園は、魔法と魔術を教える学校だった。
朝日が顔を出してしばらく経ったこの学び舎で、彼は一人で職員室にいた。
彼は職員室の隅に、文字と図形が描かれた羊皮紙を貼っている。
四方の隅に貼り終わると、周囲にあるキャスター付きのクリアケースなどを羊皮紙が周囲の目に触れないよう動かしておく。
職員室の窓から外を見る。
日は昇り、学園の正門には出勤する教員の姿があった。
満開の桜には目もくれず、彼は席に座って笑みを作る。
自分はいつもにこにこしている優しい先生という事にしたので、決めたからにはそれなりに演じる必要がある。
間もなく、職員室のドアが開く音がする。
入ってきた教員は彼を見てこう言った。
「おはようございますコウノ先生、今日も早いですね」
コウノはもちろん何食わぬ顔でこう返した。
「おはようございます。こうやって一番乗りするのが僕の日課ですからね」
続々と職員室へ入ってくる教員たちは、まだ気付かない。
*訪問者
学生寮。とある一室では朝から声が響き渡っている。
「だーかーらー! 気が付いたらここにいたの!」
ぶかっとしたワイシャツを来た女の子は、ベッドに腰掛けてユズトに対して何かを必死に説得しているように見える。
「あのな、そんなわけあるかアホ」
言葉に合わせて女の子の顔に毛布を投げつける。
「わっぷ!」
「わっぷ」ってなんだよ、俺は女の子の不思議な反応に、思わずそうツッコミを入れたくなる衝動に駆られるがなんとか抑える。
俺は今、突然人んちのベッドに現れた謎の少女Xを尋問していた。
簡単にはがせるはずの毛布をもごもご言いながら苦戦しつつはがすと、女の子はぜぇぜぇと息を切らす。
「だ、だから……なんも覚えてないんだって……わたし」
「……」
俺は無言で彼女の瞳を見つめる。
美しい蒼眼には、どこか不安の影がチラついているように見えた。
考えすぎだろうか?
(まあ、すっげーあやしいが……話してみてから考える方が早いか)
「わかったよ、とりあえず俺はパンでも焼いてくるから向こうで座っててくれ」
そう言いながら隣のリビングを親指で差すと、女の子は頷き無言で従った。
……さて、改めて。
この女の子をどうユナに説明するかが問題なのだ。
いや、もっと言えば、この女の子を病院に連れていくべきだろうだとか、やるべきことや考えるべきことはたくさんありそうに思える。
とりあえずご飯や着替えなどの身支度を整えながら考え続ける。
高校生1日目にも関わらず、すでに課題が山積みだ。
思考に埋め尽くされるのを止めるかのように「チンッ」とトースターの音がする。焼いていたパンの良い匂いで部屋中満たされ、見計らったように空腹ってやつはやってくる。
そういえば俺の住むこの世界は、元々科学技術がそれなりに発展したところだったらしいが、魔法が広まり、科学技術によって生まれたものに魔法技術、つまり魔術をそのまま置き換える事が広まったらしい。
交流が盛んな世界同士でも、文化の違いなどは大きくあるようだ。
何が言いたいかというと、どこかの世界ではあの女の子みたいなのがたくさんいるっていうクレイジーな文化が……あるかもしれない。
「流石にないか……ないよな?」
この繋がった世界では十分にあり得そうで、思わず自問自答してしまった。
傍から見ていた女の子が、こちらを見て首を傾げているのに気が付く。
なんでもない、と女の子に軽く手をかざし、焼きあがったパンを取り出す。3枚焼いた平たいパンを取り出した皿に乗っけて、リビングのテーブルまで運ぶ。
女の子をリビングに手招きして座らせると、平たいパンを食べるよう進める。
「とりあえずこれ、食っていいぞ」
女の子は頷いて、焼きたてのパンを手に取る。そのまま小さく口を開き、ぱくりと一口。
「……何も付けないのか?」
この平たいパンは具材をのせたりジャムを付けたりするのが一般的だ。そういう自分もマーガリン程度しか付けないのだが。
「うん、なにも付けなくても美味しいし、良いかなって」
女の子はそう言うとまた平たいパンにかぶりつき黙々と食べ続ける。
その整った容姿はパンを食べているだけでもかなり絵になるのだが……ふむ、俺は何故とりあえずでワイシャツを着せたのか。普通にTシャツとかにすれば良かったかなとか、いま後悔し始めている。
あらかたパンも食べ終えて、女の子を具体的にどうするか考え始めたところで家を訪ねるチャイムの音が鳴る。
この時間にチャイムを鳴らすのはユナしかいないので、リビングから少し声を張り上げて彼女に合図を送る。
「いいよ」
俺の声を合図にガチャリと、ドアの開く音がする。中等部時代から平日は毎日やっていた習慣。幼少期からの仲にはこの程度のコミュニケーションで色々と伝わるからすごい。
「お邪魔します」と丁寧に断りを入れてから靴を脱ぐユナ。
「それにしても休み明けにちゃんと起きているなんていつぶりな、の……って、え?」
リビングに入って来たユナは、長い黒髪をかき上げながら部屋を見渡す。いや、見渡す必要すらなく、自分の幼馴染が部屋に自分の服を着せた女の子を連れ込んで、朝食を取っている最中だとわかる。
「え、あの……え?」
完全に思考停止へ追い込まれたユナは、髪をかき上げる動作のまま、体を硬直させて言葉にならない声が漏れる。
俺はてっきりユナなら「何してんの変態!」的な言葉が思いきり飛んでくるかと思っていたが、予想とはかなりかけ離れたリアクションが返ってくる。そして明らかに誤解をしてそうな気がするのだが、彼女の顔が紅潮しているのが伺える。
いや、誤解とも言いきれないが……。
とりあえず今朝起きた事を包み隠さずユナに伝える。
その後、椅子に座らせてお茶を飲ませたりと少し落ち着いてもらい、なんとかユナが話せる状態になるまで回復した。
「で、女の子がいる理由だけど」
「それはさっき説明した通りなんだよ」
俺の言葉にムムっとした、疑いの表情を浮かべる。
ユナの反応はもっともで、俺が逆の立場でもそうしたと思う。だが、これ以上ない事実なのでどうにか納得してもらいたいが……。
そう考えていると、ユナの表情が諦めのものに変わりため息をつく。そしてボソッと「分かったわよ」と少し小さな声で言う。
「え、いいのか?」
聞き返す俺に頷く。どうやら本当に納得してもらえたらしい。納得というよりは諦めが近そうだが、むしろ折れてくれたことに感謝をしなければならない。
「ありがとな」
制服の乱れを直し、座り直すユナ。お茶を一口飲み、俺に向けた表情は、綺麗で整った顔に一番よく似合うと、俺は思っている冷静さをその眼に宿したいつものユナだった。
「まあ私たちなら別に慣れっこでしょ、違う?」
ユナの切り替えの早さに驚かされつつ、俺は頷いた。いつも彼女の冷静さには本当に助けられている。幼少期から一緒に過ごしてきた信頼関係は並々ならないものだ。
確かな絆に内心嬉しさで満たされながら、空いた食器を自分の所へ集めつつ立ち上がる。
「家族会議!」
この言葉を合図に、俺は少し前かがみになる。
結那も座ったまま少し前かがみになり、テーブルの中央へ顔を寄せる形となる。
突然の事にキョトンとしている女の子を手招きし、戸惑いながらも女の子はテーブルの中央へ寄った。
「今日のテーマは突然現れた謎の女の子をどうするか、だな」
「なんだか久しぶりだね、こうやって家族会議開くの」
そう言いながらユナは、女の子の頭をそっと撫でて笑いかける。
この『家族会議』というのは、幼少期からひとつ屋根の下で一緒に暮らしていた、俺、ユナ、俺の姉であるアテ姉の3人で使う全員集合の合図だった。俺と結那が12歳になる前まで『メリ』という世界で一緒に暮らしていた頃、よく何かあるたびに聞いていた馴染みのある号令だったのだが、アテ姉の元を離れて今の学園に通い始めてからはめっきり使わなくなってしまっていた。
……本当に何年かぶりだ。
「3人ってのも久しぶりだしな、アテ姉じゃないけど」
『アテ姉』という単語に首を傾げ俺を見つめてくる女の子。「俺たちの姉さんなんだよ」と義姉の存在を教えつつ、再び中央へ向き直り、話の続きをする。
「本題に戻るけど、この子をどうするよ?」
結那は目を瞑り「うーん」と唸りながら考える。
どうするべきか。それは誰が決めるべきなんだろう? そういえば考えてみると、この子の親を探すのが最優先じゃないのか。
そこまで考えた所で、ユナは一つ聞き忘れていたことを思い出す。
「ねえキミ」
呼び掛けに応じて結那を見る女の子。
「?……なーに?」
俺も結那が何を言うつもりか検討がつかないので、彼女の顔をじっと見つめている。
それは当然のことだった。
というより初対面の人に話しかける時は大抵まずそこから始まるのではないだろうか。
「キミ、名前はなんて言うの?」
そうじゃん、完全に忘れてた!
こういう大事なことが抜けてたりする時、大抵ユナにどつかれる俺だけど……。
案の定ユナの眼は、巨大な魔獣の如く俺を鋭く睨みつけていた。
次回はそんなに時間かけたくないですね。
まあこの2話も1話投稿時点で書けていたんですけど、なぜこんなにも遅くなってしまうのか。
多分この悪癖にはストックしてるかは関係ないって事ですね……