童話・ユメノギセイ
「そうだ。そうだ。キリンは夢を追いかけた。空に夢を求めたのだ。だからな、キリンの首は月に向かってドンドン伸びていったのだ」
『じゃ、象の鼻も?』
「そうだ。そうだ。象は夢のニオイを嗅ぎつけようとしているうちに、ぐんぐん鼻が伸びていった」
『ほかにもいる?』
「チーターは夢を追いかけているうちに、あんなに足が速くなったのだ」
『じゃ、おいらも夢を追いかければ何か変わる?』
「変わるさ、変わる。けどな、夢は一つでなくてもいいのだぞ。いくつあったっていい。たくさん持って、たくさんかき集めるが良いぞ。夢の手繰り寄せ方は皆それぞれだ」
かれは自分の夢を数えた。8つあった。
かれはその夢にひたすら手を伸ばした。逃すまい逃すまいと伸ばし続けた手は8つになった。
つかんだ夢はぜったいに離すまいと思ったその手には、吸盤がついた。
夢のことでいっぱいになった頭は、赤くま~るく ふくらんだ。
もう少しで夢に手が届く。
そのときであった。
かれは人間という動物の釣り針に引っかかった。
「いてててて~」
吊り上げられたのだ。
ポッチャンッ
バケツに落とされた。
「やった!やったぁ!父さん!夢が叶ったあ!タコを釣ったぞ~!釣り上げたあ!」
「やったな、ボウヤ!タコを釣る夢叶ったな!」
バケツの中におさまったかれは考えた。
おいらは、このボウヤの夢の犠牲になったのだ。
夢の犠牲になったということは、おいらはぼうやの夢そのものだったのだ。
おいらは追いかけられていた夢の方。
かれは嬉しくなった。
「父さん、どうしよう?このタコ」
「ボウヤ。おまえの夢は叶ったんだ。このタコにも夢があるかもしれないよ。逃がしておやり」
ボウヤはバケツをつかむと、堤防の先からタコを放った。
ポっちゃ~ん!
かれは頭から落ちると、8本の足を思い切り伸ばしスイ~スイ~っと海の底に向かった。
岩場に転がっていた素焼きのタコつぼにスルリと入った。
かれは学んだのだ。夢は与えるものだと。
夢には犠牲があり、犠牲者には新たな夢を与えねばならぬと。
それからというもの、かれはタコつぼの前を泳ぐ者みんなに真っ黒なスミを吐いた。
襲って来る敵にさえ吐いてあげた。
それは「夜」を吐いていた。
「夜」をみんなに配っていた。
みんなが、たくさん良い夢を見れるように。