本当の悪役令嬢をお見せしましょう
私は公爵令嬢、ハーティア・チップ。
つい最近酷い風邪をひいて数日間高熱におかされた際、驚く程鮮明な夢を見たのです。
それは、私の婚約者である王太子ルマン・ブルボが男爵令嬢ラコア・マーチと愛を育んだのです、それはまだ良いでしょう、元からおつむの弱い王太子に恋愛感情はございません、政略結婚ですし。
それにしても悪い夢でした、ラコア嬢に私何もしてないのに嫌がらせをしたということで、3ヶ月後に行われる学園の卒業式に殿下に断罪をされ、国から追放されてしまうのです。
朝から夕方まで城で王妃教育を受けている私にいつそんな暇があると?学園には籍を置いてありますが、入学式の日に式典のみ参加してずっと学園長の執務室で籍だけ置くための手続きをして、それからは学園に行っておりませんし。
後、本当に嫌がらせをするなら公爵家の権限で男爵領を奪い、家族共々炭鉱に送りますわ。
先程も言った通り、私は殿下にこれっぽっちも関心がございませんので、婚約破棄自体は喜ばしいものですが、そのせいで私はあの方と会う事ができなくなるなんて…。
幼少の頃から憧れていたあの方のそばに少しでもいられるなら…と割り切っていましたが、あの方の傍にいられるチャンスを潰すなら私にも考えがございます。
ーーー
王城で王妃教育の授業を受けてる最中、超絶ナイスミドルな陛下がやってまいりました。
「ハーティア、頑張っているか?」
「御機嫌うるわしゅう、陛下」
今は王妃教育の最中、本来ならば鉄仮面を貼り付けて自分の今の心情を悟られないようにしなければなりませんが、陛下へのご挨拶の後に表情を曇らせてみました。
「どうした?ハーティア」
「…なんでもありません、ご心配ありがとうございます」
「そうか?いつも凛としているそなたが顔を曇らせるのは珍しいと思ってな…王妃教育はそれほどまでに厳しいか?」
「いいえ陛下、ここにいらっしゃる方々の指導は優しく王妃教育は苦ではありません………っ!」
私はわざと両手で顔を覆い、自分の顔を見せないようにしながらも、悲しんでいる、怯えているという感情をわかるように振るまいました。
そんな私を見た陛下は人払いをし、二人だけにしてくれました。
私はチャンスとばかりに、陛下に夢の話を悲壮感たっぷりに話したのです。
この国は予知夢や、転生者が少なからず存在しているので、私の話はきっと予知夢だと陛下がおっしゃりました。
なんでも、1年程前に商家のマーチ家が男爵になったばかりで更にラコアという娘がいるそうな。
夢の話の後、陛下は私が卒業式にそんな目に合わぬよう殿下との婚約を白紙に戻し、今後の事も考えてくれました。
さあひと安心、これで3ヶ月後の卒業パーティが待ち遠しくてたまりません。
ーーー3ヶ月後
私は陛下のエスコートで、卒業式後のダンスパーティが行われるホールへと向かいました、皆私と陛下を拍手で迎えてくれます、そして会場にはルマン殿下とラコア嬢はおりません、まあそれは後に話すとして……。
「「「「「国王王妃両陛下!この度は卒業式だけでなく、パーティにも出席していただきありがとうございます!」」」」」
私、いえ私達は3ヶ月の間に結婚致しました!
話せば長くなりますが話しますね、あれは私が陛下に夢の話を打ち明けたその後…。
ーーー
「ハーティア…すまない…亡くなった王妃に似てあいつは傲慢な人間になってしまった…身分によって役割も生活も違うという事を勉強してもらうために学園へと入れたが間違っていたようだ……」
「いいえ、むしろ殿下は身分などかなぐり捨てて人を愛しました」
いいえ、かなぐり捨ててなどおりません、むしろ彼女を王太子妃にするつもりでしょうし、彼女もその地位を狙っているのは確実……だって夢の中の彼女は殿下に抱き締められながら、私を笑っていましたから。
「ハーティア、あやつがそなたに破棄を告げる前に婚約を白紙に戻す、そしてそなたに新たな婚約者を探そう……」
陛下がそう仰られた時、私は陛下を見つめ目を潤ませながらこう言いました。
「……私は、申し訳ありませんが殿下への愛は生まれませんでした、まるで弟の様だと、その様な気持ちでおりました、でも……殿下との婚約は………ある方の傍にいられるからと……だから私は婚約者がいるのに他の男性を愛していたのです…だから…ラコア嬢と殿下を責められる立場ではないのです…そんな私が新たな婚約者を決められてもきっとまた愛する事はできないでしょう…それに………愛した男性に…他の男性を薦められるのは…辛いです…」
「ハーティア……もしやそなた…」
「陛下…幼少の時から…ずっと…お慕いしておりました…」
「ハーティア…」
ーーー
そう、私が愛したあの方というのは陛下の事でございます。
その後は早かったですわ、殿下との婚約白紙から陛下との婚約は一日で手続きは終了、もちろん私の両親は反対などありません。
そして殿下とラコア嬢ですが…私が言った『身分などかなぐり捨てて人を愛しました』を真に受けた陛下が殿下を廃嫡、男爵家に婿入りさせた上で男爵家は王都へ近づく事は許されなくなりましたが殿下は愛した女といられるという事で意外にも納得しておられました、でもラコア嬢はどうでしょうね?まあお二人の幸せを願っておりますわ。
皆さん、私は自分の夢を愛する人に話しただけ、そして愛を打ち明けただけ、なーんにも相手を悪く言っておりません。
これが本当の悪役令嬢の復讐と幸せの掴み方ででございます。
最後まで読んでいただきありがとうございます。