封印解除は満月の夜に
ファンクの依頼にブタジャーネは、即答でそっぽ向いた。
「嫌≪いや≫でビュー!」
「フ○ック! そこを何とか頼む!」
「嫌でビュー! 大魔王様の命令でもお断りどす」
東の魔王のブタジャーネは、半人半豚≪はんじんはんとん≫の美魔女だ。
「ファ○ク! 封印を解くには、お前じゃなきゃダメなんだ!」
「そんなもの舐めたくないデビュー!」
ラルクの封印を解くためには魔力を持つ半人半獣が、満月の夜に一晩中、呪印を舐め続けなければならない。
ラルクは下半身まる出しで訴える。
「頼む! 奴を倒すにはどうしても封印を解除しなきゃならないんだ!」
「ダーリン、脱ぐのが早すぎですわ。まだ、お昼でございますことよ?」
「あ! そうか。すまん。焦ってしまった」
満月は今夜は。舐める時に使う液体の材料は揃っている。
だが、どうしてもブタジャーネが首を縦に振らない。
「フ○ック! こんだけ頼んでもダメか……なら、しょうがない」
そう言ってファンクは、ブタジャキンの方に向き直った。
ファンクの意図を察してラルク達の視線が、南の魔王ブタジャキンに注がれる。
「え? ええっ!? なんで皆、僕を見るでブゥ?」
南の魔王は豚小僧。ブタジャーネの弟だ。
「ファ○ク! だってお前も半人半獣だろ」
「ブッ、ブヒィ! それはそうでブゥけど……」
「ファッ○! 男だろ! 黙って尻を舐めやがれ!」
ラルクが訂正する。
「いや、尻じゃないから。太股の裏だから。それに、そんなに脅したら可哀想だよ。こっちは、お願いする立場なんだから、もっと優しく……」
豚小僧は上目遣≪うわめづか≫いで嫌がる。
「やっぱり、嫌でブゥ。なんだか臭そう……」
臭そうと言われてラルクがキレる。
「臭くねえよ! このクソ豚! 焼き豚にすんぞ、こらっ! つべこべ言わずに舐めやがれ!」
ギルバートが、やれやれと首を振る。
「それにしても、なんて面倒な解除方法なんでしょうねぇ」
ネムも同意する。
「これ考えたナルゲン族の人、絶対、性格悪いよね……」
結局、南の魔王の豚小僧が、一晩中、呪印を舐め続けることで決着した。
* * *
幸い、夜になっても天候には恵まれ、満月の光を浴びるには絶好のコンディションだ。
ナルゲン族の考古学者に書いてもらったメモを確認しながらチキが頷く。
「準備万端≪じゅんびばんたん≫ですわ。いよいよですわね」
城の屋上には、ちょっとした広場のような箇所≪かしょ≫があり、儀式を行うにはピッタリだった。
それにしても奇妙な光景だ。
広場の真ん中に仮設ベッド。
その上では下半身をモロ出しにしたラルクが、四つん這≪ば≫いになって尻を突き出すポーズを維持している。
それを舐める為に豚小僧が、尻の付近にポジションを取っている。
その手元には特殊な液体で満たした壺が用意されていて、ブタジャーネがそれを塗る係として控えている。
仮設ベッドから離れた所にイスを並べて、チキ達がそれを見守る。
ネムは欠伸しながら暇そうにしている。
ピピカはギルバートの膝枕≪ひざまくら≫で熟睡中。
山賊の親分とトカゲの兄弟はカードゲームに興じている。
ファンクは、酒瓶を手にパタパタとベットの周りを飛び回る。
「フ○ック! さぼるなよ! しっかり見張ってるからな!」
「わ、分かってますでブゥ」
チキが懐中時計を見ながらカウントダウンする。
「23時まで、あと10秒ですわよ! 9、8……」
ラルクは気合が入っている。
「よっしゃ! バッチこーい!」
「ファ○ク……その恰好でそれはねえわ」
「3、2、1、今ですわ!」
それを合図に豚小僧が舌を伸ばして呪印を舐め始めた。
「うひぃい」と、ラルクが妙な声をあげる。
「フ○ック!? どうした? 大丈夫か?」
「い、いや。くすぐったいというか、生暖かくてヌルっとしてて、ザラザラする」
「ファック! 我慢しろ! 夜は長いぞ!」
「うぅうう……これを一晩中、やるのか……」
ラルクが情けない顔をする。
「お兄ちゃん、頑張れ!」
「ダーリン! 耐えるのですわ! 私に舐められていると思って!」
ギルバートは気の毒そうに呟く。
「ずっと舐められたら、皮が酷いことになりそうですね……」
ある程度、舐めたところでブタジャーネが壺の中の液体を柄杓≪ひしゃく≫で掬≪すく≫って、呪印の箇所にかける。
液体の中味は、油や樹液、キノコや珍しい虫のエキスなどを調合したものだ。
おそらく、適度にその液を補給することで、舐められる箇所の皮がダメージを受けるのを軽減するのだろう。
山賊の親分がカードをめくる手を止めて「すげえ」と、ベッドの光景を見る。
「魔王に尻を舐めさせるなんてなぁ」
トカゲ兄弟は、まだ着ぐるみを着たままだ。
本来は、寒さ対策だったが、すっかり気に入ってしまったらしい。
「兄ちゃん。あのブタの姉弟、魔王なんだよね?」
「ああ。まだ子供なのにな」
「魔王って偉いんじゃないのか?」
「ん? そりゃ、偉いだろ。みんなに怖≪おそ≫れられている」
「けど、尻を舐めるのが仕事なのかな?」
「そ、それは……なんだ。偉いから舐めるんだ」
「偉くなると尻を舐めなきゃなんないのか?」
「そうだ。偉くなればなるほど、たくさん舐めなきゃならないんだ」
「ええ~ オイラ、嫌だな。それなら偉くなりたくないや」
「何言ってんだ! あれは修行なんだよ」
「え!? 尻を舐めるのは修行なのか?」
「そうだ。修行して強くなったんだ。強い奴が、よく言うだろ? 俺のケツを舐めろって」
「兄ちゃん! オイラ、尻を舐めるよ! 一杯、一杯、尻を舐めるんだ!」
「いいぞ! その意気だ! 俺も負けないぞ!」
山賊の親分が変な顔をしてトカゲ兄弟のやりとりを聞いている。
トカゲ弟が親分に顔を向ける。
「親分! 尻を舐めさせてください!」
「ああっ! ずるいぞ! 親分の尻を独り占めする気か?」
「兄ちゃん! 一緒に舐めよう! 一緒に修行しようよ!」
「分かった! 親分! お願いします!」
「ちょ、ちょっと、お前ら……ああっ! こ、こら! 脱がせるな! あひぃい!」
山賊一味の騒ぎを横目にネムがチキに尋ねる。
「お義姉さん、お兄ちゃんの呪印が無くなったら、どうなるのかな」
「今まで塞≪せ≫き止められていた経験値が溢≪あふ≫れ出して、一気に成長するはずですわ」
「そんなにうまくいくかなぁ」
「きっと、ダーリンのテイム能力は進化するはずですわ」
「どんな風に変化するんだろ? 楽しみだねぇ♪」
ファンクはベッドの周りを飛び回りながら豚姉弟に、はっぱをかける。
「フ○ック! まだまだ夜は長いぞ! 頑張れ!」
四つん這いのラルクが呻くように言う。
「ファンク、どうだ? なにか変化は?」
「ファ○ク! 焦るな! まだ一時間しか経ってねえ! けど、少し文字が薄くなってきたんじゃねえか?」
「マジか? それじゃ、引き続き頼む。俺も耐えるから」
ギルバートはピピカにつられて、椅子に座ったまま寝息を立てている。
時計を手にベッドの上を見つめるチキ。
ファンクの羽音、そして豚小僧の舌がラルクの呪印を舐める『ぺちゃ、ぺちゃ』という音が延々と続く。
夜が明けるまでは、まだ6時間近く残っていた。