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無慈悲なテイム

 真魔王カロン・アシュフォードの出現にラルクが身構える。

「なんでこんなところに……」


 カロンは、ざっと周囲を見回してから吐き捨てる。

「愚か者が!」


 それがラルクに向けられたものなのか、ピンクの魔王に向けられたものかは分からなかった。


 丘の上では、まるで鮮やかな黄緑色を汚すかのように、破壊されたアンデッドの黒い残骸が無数に散らばっている。


 ネムが恐る恐るラルクに近付いてカロンを見つめる。

「お兄ちゃん……この人が、お父さん……なの?」


「ああ。そうか。ネムネムはワルデンガ島の時に居なかったからな」

 ワルデンガ島を奪還したのはネムと合流する前だった。


 カロンがチラリとネムに目を向ける。だが言葉は無い。

 

「お父さん……どうして……」

 ネムは潤んだ目で訴えかけるが言葉が続かない。


 ネムの言いたいことは分かった。

 なぜ、家族を捨てたのか? 

 ネムが聞きたいのは多分、それだ。


 無反応なカロンにラルクがイラつく。

「おい。ネムネムだぞ? 娘にすら興味はないのか!」


 ラルクの言葉にカロンはそっぽを向く。

「フン。興味だと? あるわけがなかろう」


「酷い……」

 ネムは少なからずショックを受けたようで、ヘナヘナと座り込んでしまった。


 それを支えながらラルクが怒鳴る。

「貴様! それでも人の親か!?」


 カロンは冷たい目で答える。

「くだらん。親の情だと? そんなものは唾棄≪だき≫すべき価値観だ。わずらわしい。いっそのこと死んでくれた方が清々する」


「な、なに!? クソが……」

 ラルクは木槌≪きづち≫を握り締めながらテイムを発動する。


「むう!?」

 偉そうに胸を張っていたカロンが、ラルクの動きをトレースさせられて頭を下げる。


 その無防備な頭に向かって、ラルクが木槌を振り下す。


『ガッ!』

 

 木槌が止められた。

 というより、木槌を持つ手首がカロンに掴まれたのだ。


「なに!?」と、ラルクが驚愕する。


 タイミング的には間に合っていたはず。

 だが、カロンはラルクのテイムを途中で解いていた。


「フン。まったく成長しておらん」


「な、なんだと?」


「まあ、呪印が効いているということだな。ただ、一瞬といえども、この私を操るとはな。やはり我が野望には邪魔になるやもしれん。念の為に排除しておくか……」


 カロンはネムをチラ見してからラルクに命じる。

「そいつを殴れ!」


「うっ!」

 ラルクは必死に抵抗を試みるが、カロンのテイムは言葉だけで相手を完全に操ることができる。


 可愛い妹を木槌で殴るなんてラルクには出来るはずが無い。


 それなのに、ネムに向かって振り下す木槌を止めることができない。

 カロンのテイムを上書きして解放されるには時間を要する。


「うわあああ!」

『ポフン』

『ゴチッ!』

「はがっ!」


 思わず目を瞑≪つぶ≫ってしまったラルクが、恐る恐る目を開ける。

「ん!?」


 見るとギルバートがラルクの隣で頭を押さえて「イタタタ」と、呻≪うめ≫いている。


 ギルバートは涙目でピピカに抗議する。

「なんで僕なんですか! 交換するなら、あのバカ兄弟でいいでしょう! 着ぐるみ着てるんだから」


「なんだ。ピピカが機転を利かせてくれたのか」と、ラルクは安堵≪あんど≫する。 


 トカゲの弟がギルバートの言葉に怒った。

「ああっ! 兄≪あん≫ちゃん、あいつ、オイラたちのことバカって言った!」


 トカゲ兄も怒りの表情をみせる。

「屁コキ野郎のクセに許せんな! バカって言う方がバカなんだ」


「兄ちゃん! そうなのか? じゃあ、バカって言う方がバカって言う方がバカって返されたら?」

 

「そ、そりゃ、バカって言う方がバカって言う方がバカって言う方がバカ! って言い返してやるんだ!」


「そんじゃ、バカって言う方がバカって言う方がバカって言う方がバカって……」


 バカ兄弟のくだらないやりとりにカロンがイラつく。

「ええい! うるさい! 黙れ! バカども!」


 ヒヨコの着ぐるみを着た弟がそれに気付く。

「あ! あいつもバカって言った!」


 ペンギンの着ぐるみの兄が頷く。

「今だ! 言い返してやれ! せーの、バカって言う方がバーカ!」


 カロンは、一瞬、顔を引きつらせてからトカゲ兄弟を無視した。

 そして再びラルクに向き直る。

「訳の分からん仲間を引きつれおって! ここでまとめて始末してやろう!」


 そう言ってカロンは左手を頭上に掲≪かか≫げる。


 その手の平から、真っ赤な湯気が立ち上がり、数メートル上で円形に広がった。

 それは赤い雲のような形態で、黒い閃光をバチバチと孕≪はら≫んでいた。

 

 ラルクが青ざめる。

「魔法だと!? テイムだけじゃないのか!?」


 カロンは無慈悲な笑みを浮かべて答える。

「当然だろう。真の魔王となった私がテイムしか使えないわけがなかろう!」


「ファ○ク! ありゃ、ヤバイぞ!」

「見たこともない魔法ですわ!」


 カロンはニヤニヤ笑う。

「ラルクよ。テイムとはこうやって使うのだ。テイムで動けなくして、確実に魔法をぶつける」


 カロンのテイムは言葉だけで複数の対象を操ることができる。

 それは、ワルデンガ島で遭遇した時に喰らってしまった。


 あのとき、カロンのテイムを解除するのに相当な力と時間を要してしまった。


「マズい! 命令される前に何とかしないと!」


 しかし、カロンは「終わりだ」と前置きして、テイムを発動する。


「ひざまず……」『ポフン』


 成す術もなく固まっていたラルクが異変に気付く。

「え? 何が起こった!?」


 確かにカロンは『跪≪ひざまず≫け』と言おうとした。

 だが、それと同時に消えてしまった。


「ふぃいい」

 ピピカが息をつく音で理解した。


「ピピカ! 飛ばしたのか?」


「あい」と、頷いてピピカが丘の上の大木を指差した。


 ずっと先の方にある大木の上の方で、枝や葉が動いている。

 何かが枝に引っ掛かりながら落下しているようだ。

 

 恐らくは、あれがカロン。


「ファ○ク! 今の内に逃げっぞ!」


 ネムが急いで呼び寄せたドラゴンに飛び乗る。


 全速で逃げて、辛うじて難を逃れた。


「フ○ック! まさか、あんなところでカロンの野郎に再会するとはな!」


 ラルクが悔しそうに呟く。

「ああ。今のままでは勝てない。この呪印を解かないと……」


 言葉だけで操る強力なテイム。

 それに抗≪あらが≫うには、同等以上の強力な力がないと対抗できない。


 隣のドラゴンでは、チキがネムを抱きしめて慰めている。

 それを見てラルクは唇を噛んだ。


 カロンに対する怒りがフツフツと湧いてくる。

「あのクソ親父……絶対に許さん。必ず『ざまあ』してやる!」


 単に敗北の屈辱を味あわせるだけでは足りない。

 奴の野望を完全に打ち砕く!


 そしてそれは、世界を救うことにもなる。


 ラーソンに向かいながら、ラルクはカロンへの『ざまあ』を固く決心した。


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