強行突破 ハミマで一休み
サブンに入国する際に通った国境は、幾分≪いくぶん≫か人の流れができていた。
入出国を規制する為に人払いを行っていた軍隊が居なくなったからだろう。
峡谷の入口付近に陣取っていたサブン軍の拠点は、3日前にラルク達が片手間≪かたてま≫に破壊してしまったので、今は焼野原になっている。
「フ○ック! こないだより民間人が戻ってきたんじゃねえか?」
「僕達が巡回した時は軍の関係者だらけでしたけどね」
「ああ。ファンクが火薬庫ごと陣地を爆発させちゃったからな。軍は撤収したんだろ」
「そのようですね。それに今はそれどころじゃないでしょうし」
「海軍も陸軍もボロボロだろうからな。軍本部に至ってはギルバートの『ミ』で当面は使い物にならないだろうし」
そういう意味で、軍を弱体化させたラルク達は、サブンの平和に貢献したといえる。
「ファ○ク! あそこの列が出国手続きじゃねえか?」
「みたいだな。あそこに並べばいいんだな」
ラルクが列に向かおうとしてチキが引き留めた。
「お待ちなって! 正式な手続きは止めておいた方が良いのでは?」
チキに指摘されてラルクが気付く。
「あ、そうだ。俺達、密入国だった!」
「ファ○ク! そういえばそうだったな! ガハハ!」
ファンクの突っ込みに、仲間内で笑いの輪が広がる。
そこでラルクがネムに声を掛ける。
「ネムネム。サブンで仲良くなったドラゴンを集められないか? 皆で一斉に突っ込めば、峡谷を抜けられるかもしれない」
「ダメだよ! 出るときはいいけど、ハミマに入った途端に攻撃されちゃうかもしれないでしょ! ドラゴン君たちが可哀想!」
「そうか。じゃあ、またファンクに頼むか」
「ファンクさんなら不死身だから幾ら撃たれても平気ですしね」
ギルバートは呑気にそう言うがファンクは嫌そうな顔をする。
「フ○ック! 死ななくても痛ぇんだぞ! 他人事だと思って簡単に言ってくれるぜ」
出国の方法は決まった。
あとは、ファンクがメンバーを一度に運べるように、軍が残した荷台を拝借することにした。
ラルク、ネム、チキ、ピピカ、ギルバート。
山賊親分にトカゲの兄弟が順に荷台に収まる。
「ファ○ク! みんな! 忘れ物はねえな? 一気に行くぜい!」
『エンッ!』と、匂いを嗅いで、『バフン!』と、大変身。
大魔王に変身したファンクは荷台を小脇に抱えて、飛行体勢に入った。
「うわっ!? 何だあれ!?」
「ば、化け物!?」
「ぎゃああ! 怖いぃい!」
入出国の民間人がパニックになる。
「そりゃ、驚きますよね……」と、ギルバートが苦笑い。
「ファ○ク! しっかり掴≪つか≫まってろよ!」
そう言って大魔王ファンクが飛び上がる。
『ギュン!』と、圧倒的な加速力をもって峡谷に飛び込んでいく。
周りの景色を眺める余裕など無い。
グングン進んで、あっという間に峡谷を抜けた。
「フ○ック! ハミマに入ったぞ! このまま行けるとこまで行くぞ!」
変身が解けるまでに出来るだけ遠くまで飛んでいく作戦だ。
謎の巨体の飛来にハミマ側の軍隊は大騒ぎになった。
だが、迎撃する余裕などない。
彼等がアワアワしているうちに、ラルク達は国境から随分と距離を取ることができた。
とりあえず、ハミマ共和国には戻って来た。
* * *
ハミマ国内は、ネムが呼び寄せたドラゴンに乗ってスムーズに移動できた。
「ファ○ク! この調子なら明日にはラーソンに戻れそうだな」
「ああ。満月には十分間にあう」
「材料は揃えておきましたわ」
「ファッ○! それじゃ、ブタジャキンの城に直行だな」
これでようやく呪印を解くことができる。
はやる気持ちを抑えつつ、ラルク一向は一路、ラーソンを目指した。
ところが、しばらく進んだところで前方に、どす黒い雨雲が現れた。
雲の下は激しい雨に雷が混じっている。
「あら。カミナリ雲ですわね」
「フ○ック! あの下を飛ぶのは危ねえな」
「お兄ちゃん、そろそろドラゴン君たちを休ませようよ」
「そうだな。下りて雨宿りするか」
雷雨の中を突っ切らなくても時間的に余裕はある。
ラルク達は3体のドラゴンを適当な所で降下させ、雨宿りできそうな箇所を探す。
お腹が空いたと騒ぐピピカのために、本当は町にでも立ち寄りたいところだが、雨を凌≪しの≫ぐには良さげな場所を発見して一息つく。
ちょうど良い大樹が丘の上にポツンと立っている。
その下なら雨を凌げるだろう。
雨雲が迫ってくるのを待ちながら大きな木の下で弁当を広げる。
弁当はナルゲン族の村を出る時に持たせてもらったものだ。
和気あいあいと皆で弁当を食べているときにトカゲの兄弟が異変に気付いた。
「あれ? 兄≪あん≫ちゃん、雨が降らないよ?」
トカゲの兄がモグモグしながら空を見上げる。
「ん? あれ? 雲が無い」
山賊の親分が「なに言ってだ! お前等」と、空を見まわす。
ギルバートが首を傾げる。
「確かに、雨雲がどこにもないですね」
「そんなバカな」と、ラルクも立ち上がって周囲を見る。
そして「本当だ……」と、立ち尽くす。
激しい雷雨を降らせた雨雲がどこにも無い。むしろ晴天だ。
「おかしいですわね?」
「ファック! キツネにつままれた気分だぜ!」
そこでトカゲの弟が兄に疑問をぶつける。
「兄ちゃん! キツネってつまみ食いするのか?」
トカゲ兄は呆れたような顔で弟に説明する。
「するに決まってるだろう! キツネは賢いんだ。人に見つからないように食べ物を奪うんだ」
「そっか! オイラ、また賢くなったよ! さすが兄ちゃんだ!」
ラルクが呟く。
「あの雨雲……どこにいった?」
皆が不思議がっていると、木の上から『ハッハッハッ』と、笑い声のような音が聞こえてきた。
「フ○ァック? 鳥か?」
「いいえ、誰か居るのではありませんこと?」
と、その時、『ザザザ』と、小枝を押しのける音がして『ドサッ』と、何かが落ちてきた。
「ななな! なんです!?」と、ギルバートが腰を抜かす。
何かが落ちてきたのではない。何者かが飛び降りてきたのだ。
突然、木の上から飛び降りてきた人物の出現にラルク達が固まった。
「誰?」と、ネムが目を凝らす。
現われたのは全身ピンク色の衣装に身を包んだ筋肉質な男。
ブーツに半ズボンにヒラヒラのシャツはすべてピンク色。。
帽子も手袋もピンク。
良く見ると化粧までしている。
「うーん、計画通り!」と、ピンク男は小指を立てた。
「ファ○ク! お前は!」と、ファンクが驚く。
ラルクが「知ってるのか」と、尋ねるより早く、ピンク男はギルバートに目を付けた。
「うほっ! いい男!」
ピンク男の視線にギルバートが尻込みする。
「な、なんですか……あなたは」
男は、ギルバートを舐めまわすように見てから、顔の横で『パンパン』と手を打ち、足を踏みならしながら歌う。
「♪ターイプ、タイプ いいオトコ~ アタシ好みのいいオトコ~
おめめパッチリ、鼻すっきり~ いい顔、いい腰、いいお尻~」
皆が唖然≪あぜん≫とする中、ピピカが冷静に「求愛ダンスでしゅ」と、呟く。
ピンク男は最後にクルリとターンして投げキッス。
「やらないか?」
それはギルバートに向けられた『お誘い』だった。
まったく状況が飲みこめない。
ラルク達が困惑していると、ファンクが苦々しそうに口を開いた。
「ファ○ク! なんでこんなトコにいやがるんだ? 西の魔王のお前が……」




