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虐殺部隊の王

 洞窟内に隠されたこの村が、サブンの軍隊に見つかってしまった。


 開戦を控えたサブン連邦は、国内の抵抗勢力を粛清しゅくせいしようとしている。

 当然、レジスタンスの秘密基地であるこの村もターゲットにされてしまう。


 急いで洞窟の入り口に向かう中、クセーナが走りながら説明する。

「奴らが入り口を塞いでいるの! 投降とうこうしろって言ってるわ!」


 彼女を追いかけながらラルクが問う。

「けど、投降するつもりは無いんだろ?」


「当たり前よ! 相手はあのアパチャイ中佐かもしれないのよ。白旗をあげたって無駄。どのみち虐殺されてしまうわ。それがあいつの手口なの!」


「フ〇ック! そいつは酷えな。無抵抗の人間を虐殺するなんてよう!」


 村内を横切る途中でチキ達とすれ違った。

「あら! ダーリン!」


 足を止めずにラルクが振り返る。

「ああ、みんな着いたのか」


「先ほど到着したばかりですわ」

 チキ達は、まだ雪まみれで到着して間もないことが一目で分かる。


「それじゃ後で」

「お待ちになって! どちらに行かれますの?」


 入り口に向かって急ぐラルクを見て、チキ達も後に続く。


「フ〇ック! お前等の到着直後に軍が現れたってことは、つけられてたんじゃねえか?」


「ああ。確かにタイミングが良すぎるな」

 ラルクも同じ感想を持ったようだ。


 チキが走りながら狼狽ろうばいする。

「そ、そんな! さ、細心の注意を払ってましたわよ?」


 クセーナも頷く。

「アタシ、随分と手前まで迎えに行ったのよ? 尾行されないように気をつけて偽装工作もしたんだけど……」


 ラルクは首を捻る。

「妙だな。何か痕跡こんせきを消し忘れてたのか?」


 チキ達はクセーナと合流して直ぐに馬車を降りたという。

 その後は、ピピカの強制交換でショートカットしながら徒歩でここに誘導されてきた。


 強制交換による場所移動を駆使することで足跡は殆ど残っていないはずだ。

 しかも、外は相当に吹雪ふぶいている。


 チキは意気消沈する。

「まさか、つけられていたなんて……ごめんなさい」


 そんなチキをラルクがなぐさめる。

「気にするな。軍隊だろうが何だろうが、強制排除するだけだ」


「ダーリン……」


 目をうるませるチキを見たクセーナが何か言おうとして口をつぐんだ。


 そして一行が洞窟の入り口手前まで到達する。

 応急処置的に設置されたバリケードの手前では、既に何人かのレジスタンスが戦闘態勢に入っている。


 クセーナが障害物に身を隠しながら仲間に尋ねる。

「どういう状況? 敵はまだ侵入してくる気配はないの?」


 色黒の青年がそれに答える。

「1時間以内に降伏するかどうかを決めろと言ってやがる」


 クセーナが眉を寄せる。

「それで? あとどれぐらい?」

「残り20分てところかな」


「で、敵はどこの部隊か分かったの? やっぱりアパチャイ中佐?」

「ああ。最悪だ。アパチャイの虐殺部隊で確定だ」


 青年の回答にクセーナが「うっ!」と、絶句する。


 そこに村の長であるクセーナの父親が近づいてきた。

「最も恐れていた奴に目を着けられてしまった。これは長期戦を覚悟せねばならんかもな」


 だが、クセーナは首を振る。

「どうかしら……相手は虐殺部隊の王よ。そんな悠長なこと、許すはずがないわ」


 青年が唾をのむ。

「容赦なく殲滅せんめつしにかかってくるってことか……」


 緊張が高まるレジスタンス達の様子を見守っていたラルクが口を開く。

「んじゃ、俺が話をつけてくる」


「お前は何を言っているんだ?」と、村長が目を丸くする。


 クセーナは信じられないといった表情でラルクの顔を見る。

「ちょ!? アンタ、気は確かなの!?」


 だが、ラルクは表情一つ変えずに答える。

「ん? だって、どのみち、あいつらをぶっ潰さないと困ることになるんだろ? おとなしく虐殺されるわけにはいかないだろ」


「そ、それはそうだけど……相手はあの残虐なアパチャイ中佐の虐殺部隊なのよ?」


「知らんがな」

 そう言い残してラルクはファンクを連れて、バリケードの前に出た。


 バリケードから30メートルほど離れた位置では、敵の部隊が睨みを利かせている。

 さらに移動式大砲や金属製の大きな盾が洞窟の狭い入り口を塞ぐ形で並んでいた。


 そこにラルクが無防備に出てきた形になる。


 ラルクとファンクが丸腰で出てきたのを確認して、敵部隊の指揮官らしき人物が顔を見せた。


「おやおや。早々に降伏する気になったのか?」

 指揮官らしき男は、偉そうな口ぶりでそう言った。


 ラルクが質問で返す。

「お前等、どうやってこの場所を突き止めた?」


 指揮官は「ん?」と、意外そうな表情を見せてから頷く。

「ああ。匂いを辿ってきた。ナルゲンの娘を追っていたが、途中で見失ってしまった。ところが、悪臭があちこちに残されていることに気付いたのだ」


 その言葉にチキ達の視線がギルバートに集まる。

 お前のせいかよ! という冷たい視線。


「だ、だって、お腹が冷えちゃったんです! 仕方が無いじゃないですか」


 ギルバートの言い訳にピピカが「お漏らし野郎が……」と、吐き捨てる。


 ラルクが脱力する。

「せっかく足跡を消しても残り香があったのか……」


 敵の指揮官が得意げに言う。

「ワシに見つかったのが運のつきだ。抵抗しても無駄だぞ?」


 指揮官の顔を見てピピカが叫ぶ。

「あ! ドングリ野郎でしゅ!」


「ドングリ?」と、ラルクが首を傾げる。

「フ〇ック! こいつ、馬から落ちてケツにドングリが刺さった野郎だ!」


 それでラルクも思い出した。

 サブンに入国した直後に移動手段が無かったので、軍の馬と馬車を拝借した。

 あの時の偉そうな軍人がこの指揮官だった。


 指揮官がムッとする。

「誰がドングリ野郎だ! ワシはアパチャイ中佐だ!」


 ラルクが中佐を睨む。

「ああ、お前があの有名なアパチャンか。虐殺が趣味とかいうクソ野郎なんだってな」


「アパチャイだ! 馬鹿者! それと虐殺とは人聞きが悪い! ワシは国家のために反乱分子を排除しておるにすぎん!」


「は? 民間人を手にかけているクセによく言うよ。お前は只の人殺しだ」


 ラルクのあおりに対し、アパチャイ中佐は不敵な笑みで返す。

「フン! 知らんのか? ひとり殺すのは単なる殺人者だが、数百人殺せば英雄だ。ワシは反逆者を何百人も殺すことで出世してきたのだ」


 珍しくファンクが真顔を見せる。

「ファ〇ク……お前は存在してはならない生き物だ」


 それを聞いてアパチャイが高笑いでバカにしてくる。

「ガハハ! だからどうした? 無力なお前等に何ができる?」


「ファッ〇! 全滅させる!」

 

 ファンクの言葉にアパチャイ中佐だけでなく、虐殺部隊の面々から笑いが漏れる。


「ばっかじゃねえの? ザコ共が何か言ってるぜ」

「中佐! 早くやっちまいましょうよ! このゴミくずどもが、もがき苦しむところを早く見たいっす!」


「今回はどうします? 焼き払うのも毒をくのも飽きてきましたよね」

「強酸をぶち込んでやりましょうや! 久々に肌がデロデロになるのを見たいですなぁ」


 ラルクが静かな怒りをまといながら吐き捨てる。

「虐殺部隊……聞きしに勝る腐れっぷりだな」


「フ〇ック! 久々にキレちまったぜ」


「ファンク、こいつら相手なら遠慮しなくていいぞ」


 余裕をこいている敵の部隊を睨みながらファンクが小瓶を取りだす。

「ファ〇ク! 言われなくてもそのつもりだ」


 アパチャイ中佐が部下に指示する。

「よし。強酸弾を装填そうてんしろ! 今日は強酸パーティを見物するとしよう」


「やったぁ! これが見たかった!」

「その冷酷さに痺れるっ! 憧れるぅ!」


「これが終われば中佐は昇進確実ですね!」


「これこれ。まだ決まったわけではないぞ」と、アパチャイは満更でもない様子。


「決定ですよ! 大佐への昇進、おめでとうございます!」

「ナルゲンのゴミどもを派手に壊滅させて昇進祝いの手土産てみやげにしましょう!」

「汚物は消毒だぁ!」


 パーティ・ピープルのようなノリで虐殺の準備をするアパチャイ中佐の虐殺部隊。


 ファンクが小瓶のふたを抜きながら言う。

「てめえら……言い残すことはそれだけか?」


 あのファンクが「ファ〇ク」と口にしなかった。

 その違和感にラルクはファンクの本気を感じ取った。


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