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レジスタンスの村

 ナルゲンの女は、名を『クセーナ』といった。

 古いナルゲン語で『深い雪の下で生を育む花』という意味だそうだ。


 しかし、ギルバートの屁の後遺症が残る彼女を見ていると、『臭えな』という言葉を連想してしまう。


「アタシが案内するから誰かついてきて」

 クセーナは、ナルゲン族の反政府勢力が潜む村に案内するという。


「それはありがたいが、すぐに動いて大丈夫なのか?」


「ええ。まだちょっと臭い感じが残ってるけど」

 そう言ってクセーナは鼻をスンスン言わせて「臭っ」と、顰め面をみせる。


 それを見て皆の視線がギルバートに集まる。

「臭すぎでしゅ。鼻の破壊者でしゅよ」


「な、なんですか……悪いとは思ってますよ。でも加減ができないんだから仕方がないでしょう」


 そこでラルクがクセーナの提案を受け入れることにする。

「分かった。じゃあ、飛竜を借りて君の村に向かおう」


 ネムが心配する。

「ねえ、サーベルタイガーちゃんはどうするの?」


「それは大丈夫。あの子、賢いから自分で戻ってくるわ」

「へえ、そうなんだ。お利口さんなんだね♪」


 早速、チキが対応する。

「あら。では、人数分、飛竜を手配すればよろしいですわね?」


 ところがラルクは首を振る。

「いや。一度に大人数で移動するのは目立つ。軍に狙われているレジスタンスの隠れ家だろ? 飛竜で行くのは最少人数に絞る」


「それもそうですわね。では、どのようにします?」 


「チキ、とりあえず俺とクセーナの分を2体頼む。他のメンバーは陸路で追いかけてくれ」


「了解ですわ。飛竜を2体と、馬車を手配いたしますわ」


 そこでトカゲ兄が手を挙げる。

「おいらも行く! うぉえっぷ! あんちゃんだからな! うげっ」


 ラルクが困った顔をする。

「お前、酷い二日酔いじゃないか。飛竜に乗れないだろ?」


 弟の身を案じるトカゲ兄を元気づけるという名目で、山賊の親分とファンクと一緒に、この二日間、彼はずっと酒浸りだった。


「嫌だ! 絶対に行く、うぅおえええっぷ!」


「けど、飛竜の上で吐かれてもなぁ」

 ラルクが難色を示していると、ギルバートが口を出す。

「そうですよ。人前でゲロを吐くなんて品がない。恥ずかしくないんですか?」


 だが、チキの視線に気付いてギルバートが慌てる。

「ま、まあ、戦う為のゲロは、例外ですけど!」


 チキはジト目でギルバートを責める。

「あら。人前でおならをするのは下品じゃないのかしら?」


「う! そ、それも例外です。必要な時だけガスを出すのは許されるんです! 正義のガスです!」

「だだ漏れでしゅけど」


 ヨレヨレのファンクも立候補する。

「フ〇ック……俺は行けるぜ!」


 酒臭いファンクを見てラルクが言う。

「ファンクも無理しなくてもいいよ。後からゆっくり来ればいい」


「ファ〇ク! ナルゲン文字のことを調べるなら俺が居た方がいいだろ?」

「そうか……そうだな。じゃあ、俺とファンクで先に行くか?」


 ナルゲン族のレジスタンスに連れていかれたトカゲの弟は、たぶん大丈夫と思われるので、ラルクはナルゲン文字の解読を優先することにした。


     *   *     *


 寒さに強い飛竜2体を駆って、レジスタンスの村には、あっさり到着することが出来た。


 政府の目を逃れ、軍に見つからないように秘密にされた村は、クセーナの案内が無ければ、まず見つけることができなかっただろう。


「よく正確な場所が分かるな。雪のせいで真っ白にしか見えない」

「ファッ〇! 俺のセンサーでも発見できねえ」


 上空から見ると、雪山の麓に広がる森は白い絨毯のようだ。

 それに、谷や窪地のような高低差は、雪にかき消されている。


 そして、村そのものは地下に作られているという。


 ギリギリまで飛んでから飛竜を着地させ、カムフラージュされた洞窟の入り口から地中に入る。


 ずっとまとわりつかれていた吹雪から解放されてラルクが深呼吸する。

「ああ、生き返るな。寒すぎて顔がカチカチだ」


「フ〇ック! 暖かいな! 洞窟だから、もっと寒いと思ってたぜ!」


 先導するクセーナが得意げに言う。

「この洞窟は地熱のおかげで暖かいのよ」


「なるほどな。良い場所だ」


 地下に作られた村は洞窟内を掘削くっさくして整地されていた。

 天井は高く、広い空間を確保している。


 中央広場を中心に小屋のような家が計画的に配置され、隠れ家のような雰囲気がある。

 そのくせ閉鎖的な空気ではなく、子供のはしゃぐ声が聞こえてくるぐらいは平和だった。


 ラルクが目を細める。

「外に比べると天国だな。とてもレジスタンスの隠れ家とは思えない」


「一応、半年は籠城ろうじょうできるだけの設備や備蓄が用意されているのよ」


「ファ〇ク!? 半年も籠城できんのか!?」


「フフ。その気になれば、だけどね。ここは昔から引き継がれてきた村だから。ナルゲン族が血筋を絶やさないように、迫害から身を護るために」


 ラルクが眉をひそめる。

「迫害か……」


 400年前に国が滅亡してからもナルゲンの民は、細々と世代を繋いできたという。


 こんな秘密基地のような村を地下に築いて生活しているということは、それだけ彼等の歴史が過酷であったことを物語っている。


 その時、子供たちのはしゃぐ声が聞えてきた。

 見ると、広場のような場所で丸っこい黄色い物体が子供たちに小突き回されていた。


「フ〇ック! 探すまでもなかったな」

「ああ。居たな」


 ヒヨコの着ぐるみは子供たちに大人気のようだ。

 別にいじめられているというわけでなく、トカゲ弟は子供たちのおもちゃにされている。


 ラルクとファンクの存在に気付いたトカゲ弟が眼を輝かせる。

「あ! 先生のあんちゃん!」


 トカゲ兄弟はいつまでたってもラルクのことを、ネムの兄貴という認識だ。


 ヒヨコの着ぐるみが、こっちに走ってこようとするが、予想通り転んで、顔面を地面にしこたま打ち付けた。

 その背中に子供たちが『わーい』と、次々に乗っかる。


「微笑ましい光景だ。じゃあ、行こうか」

 ラルクは素の表情でその場を去ろうとする。


「待って! 先生の兄ちゃん! おいらを連れて行ってくだちい!」


「ファッ〇! 心配すんな! 後でお前の兄ちゃんが来るからよ」


 ラルクの目的は、まずは村のリーダー、すなわちナルゲン族のちょうに会うことだ。

 無事が確認できたトカゲ弟に用は無い。


 クセーナの案内で、周りの家よりも立派な建物に通される。

「ここがこの村の責任者の家よ。そして私の実家」


「え? クセーナの家でもあるってことは……」

「そうよ。父がこの村の長なの」


 クセーナはネムと年齢が変わらないということなので17歳だ。

 その父親ということは、村長はそれほど高齢ではなさそうだ。


 想像通り、クセーナの父親は40前後の筋肉質な大男だった。

 

「クセーナ! 無事でよかった!」

 村長は全力で娘をハグする。そして娘が嫌がる。

 よくある光景だ。


 ラルクは、簡単に自己紹介してから早速、本題を切り出した。

「古代ナルゲンの文字が分かる人間は居ませんかね? できれば、呪術の知識があると、なお良いんですが……」


「それなら適任者がいる。ドクじいさんを訪ねるといいだろう」


「やった!」と、ラルクが喜ぶ。

「ファッキン・ツイてるな!」

「ああ。こんなに早く手掛かりが見つかるなんてな!」


「クセーナ。案内して差し上げろ。じいさんも喜ぶだろう」

「そうね。今どき古代文字に興味がある人間なんて居ないもの」


 トントン拍子で話が進んで、ついにラルクは封印解除に大きく前進した。


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