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謎の襲撃

 深く雪に埋もれた光景は、どこまで行っても変わり映えがしなかった。


 大きな道を進めば町に着くと期待していたが、2時間経ってもその気配は無かった。


 ラルクが尋ねる。

「なあ、ファンク。こっちの道で良かったのか?」


「フ〇ック! 反対側は人の気配があったが、ありゃ、軍の駐屯地だ」


 軍の馬と馬車を拝借はいしゃくしている以上、敵の真っただ中に飛び込むのはまずい。


 先頭の馬にはラルク、ネム、ファンク。

 ネムは眠いのかラルクの背中に顔をうずめてグッタリしている。


 続く馬にはチキとピピカ。

 チキはお嬢様だけあって乗馬のたしなみもある。

 それに、退屈そうなピピカを宥めながら、従順についてきてくれる。


 ギルバートも「久しぶり」とは言っていたが、馬を上手に操っている。

 ただ、こちらも疲れのせいか冴えない表情だ。


 最後尾の馬車は、何の積み荷なのかは分からないが、3頭の馬を親分が操り、荷台にはトカゲの兄弟が乗っている。

 

 トカゲの兄弟は比較的元気だ。

「兄ちゃん、腹へったな。この積み荷、食料じゃないのかな?」

「ちょっと開けてみっか! 食い物ならラッキーだぞ」


「これはダメだな。兄ちゃん、これ、大砲の弾だよ?」

「うーん。こっちは変な瓶だけだ。何か液体が入ってるな」


「兄ちゃん、それ、飲めるのか? おいら、喉が渇いちゃったよ!」

「ちょっと待て! こりゃ駄目だな。色が青いから飲めない」


「青いと飲めないのか?」

「バカだな。お前は。青い飲み物は毒と決まっているんだ」


「毒なの!? 青い飲み物は毒なんだね! じゃあ、何色ならいいんだ?」

「白と赤だ。緑は身体によくない。黄色や黒は飲めなくはないが苦い!」


「色を見れば飲めるかどうか分かるなんて、天才かよ!」

「おっ? こっちのは茶色っぽいけど甘い香りがするな」


「兄ちゃん! 茶色は? 茶色は飲めるのか?」

「騙されるな! 茶色はウンチの色だ。甘酸っぱい匂いがしても飲んじゃいけない」


「あぶねえ! 騙されるところだったよ! 兄ちゃんは物知りだな! 兄ちゃんといれば一生、安心だ!」

「ああ。分からないことは何でも聞け。俺は兄ちゃんだからな!」


 そう言って胸を張るペンギンの着ぐるみを着たトカゲ兄。

 尊敬の眼差しを向けるトカゲ弟はヒヨコの着ぐるみ。


 妙な着ぐるみ同士がバカなやりとりをしている様はシュールだ。


 やがて、道の左右に段差のある地点に差し掛かった。


 ファンクが顔を顰める。

「フ〇ック! さっきからずっと気になってたんだがよう。俺達、つけられてるぜ」


 ラルクが驚く。

「え? まさか軍が積み荷を取り返しに来たのか?」


「ファッ〇! いいや。違うな。つかず離れずで、ずっとついてきやがる。それに、どうもけもの臭い」


「獣……何体ぐらいだ?」

「ファッキン・10体ぐらいだな」


「妙だな。俺達を襲うつもりなら幾らでもチャンスがあっただろうに」

「フ〇ック! 獣と人間の集団だと思うぜ」


 と、その時、前後で同時に『ドサドサドサ!』と、音がした。


 大量の雪が段差から落ちて来たらしい。

『ヒヒィーン!』と、馬が驚いて後ろ足で立ち上がる。


「チキ! ギルバート! 大丈夫か!?」と、後続を確認するラルク。


「だ、大丈夫ですわ!」


「ぼ、僕も、ちびっていません!」

 そう言ってギルバートが後ろを見て、「あっ!?」と声をあげる。

 

「どうした! ギルバート!」


「雪が! 雪が雪崩みたいに落ちてきて道を塞いでいます! 馬車が見えないです!」


「チッ! 山賊の連中か」

「フ〇ック! あいつ等、埋まっちまったかな?」


 ギルバートが耳を澄ましてから報告する。

「いいえ! 雪の向こうでトカゲが騒いでます。なんて言ってるかまでは聞き取れませんけど!」


 その時、ネムが段差の上を指さした。

「お兄ちゃん! あれ!」


 見ると大きな牙を持った虎かひょうのような白い生き物がこちらを見下ろしていた。


「モンスターか!?」と、ラルクが身構える。


「あら!? 人が乗っていますわよ!」

「何!?」


「ファ〇ク! ありゃ、サーベルタイガーだ!」


 サーベルタイガーは背中に人を乗せたまま段差から飛び降り、ラルクに向かってきた。

 そしてその背に乗っている人間が槍を振りかぶっている。


「仕方ないな」と、ラルクがテイムを準備する。


 ラルクはサーベルタイガーの姿勢に合わせて四つん這いになる。

 そして、テイムを発動!


 四つん這いから立ち上がり、身体を震わせる。

 それにつられてサーベルタイガーが後ろ足で立ち上がる。


 その拍子に「うわっ!?」と、乗っていた人間が投げ出される。


 チキが素早く飲み込んでいた雷草を吐き出す。

「ぼげぇえ!」


 チキが放った電撃でサーベルタイガーがマヒする。


 乗っていた敵が起き上がって槍で攻撃してこようとするが、それにはギルバートが対処する。


「おとなしくしてくださいっ!」


 ギルバートは『にぎりっ屁』の要領で敵の顔に手のひらを押し付ける。


「くさっ!」

 にぎりっ屁を食らった敵は、短くそう言い残して卒倒した。


 一連の連係プレイを見ていたネムが感激する。

「お兄ちゃんたち、凄い連携だね! 息がぴったり!」


 ラルクが倒れている敵を観察する。

「こいつ、何で俺等を襲って来たんだろ?」


「フ〇ック! 俺達というより、軍の積み荷が目当てなんじゃねえか?」


 ギルバートの屁を嗅いで失神した敵は動物の皮を被っていた。


 ラルクが、そのフェイスマスクをまくって驚く。

「女……」


 それを聞いてギルバートが、ハッとする。

「しまった! レディになんてことを! 紳士として恥ずべき行為をしてしまいました!」


 ピピカがジト目で突っ込む。

「恥ずかしいのはいつものことでしゅ」


 とりあえず目の前の敵は黙らせた。


「ファ〇ク! 問題は馬車の方だな!」

「あ、そうか。忘れてた。チキ、その雪の塊、溶かせるか?」


「やってみますわ。炎じゃダメですわね。でしたら溶岩を」


 チキはポシェットから取り出したドラゴン草と火炎草をムシャムシャと食べる。

 いつもより念入りに、たっぷりと咀嚼そしゃくして飲み込む。


「これぐらいで、よろしいかしらね」

 そう言ってチキが、人の高さまで埋まった雪の塊に向かう。


「ぼ、ぼげぇっ、おええぇ……」


 盛大にゲロをぶちまけるチキ。

 その口から吐き出されたオレンジの溶岩が見る間に雪を溶かしていく。


「おーい! 大丈夫か? 山賊ども!」

 ラルクが声を掛けながら、雪で遮断されていた道を進む。


 そしてラルクが目にしたもの……そこには山賊の親分とペンギンがうつ伏せで倒れていた。


「あっ!」


 馬車は無い。その代わりに、はるか前方を馬車が駆けていくのが目に入った。


「ああ。馬車、奪われちまったな」


「フ〇ック! やっぱりあっちが目当てだったか」

「まあ、いいか。軍の積み荷なんて、どうでもいいし」


「あら? 一匹、足りませんことよ?」

「そういやそうだな」


「ヒヨコが居ないでしゅ」

「そうですね。黄色いのが見当たりませんよ?」


 その時、倒れていた山賊の親分が呻いた。

「に、荷台に……乗ったまま……」


 ラルクが顔を顰める。

「え? トカゲの弟の方か? あいつ、連れていかれちゃったのか」


 ネムが怒った顔で言う。

「なにやってんのよう。まったく、世話が焼けるわね」


「残った馬で追いかけるか? けど、面倒だな」

 ラルクはあまり乗り気ではない。


「ファッ〇! いや、こっちも人質を取ってるからな。すぐに追わなくても大丈夫だろ」


「それもそうか。さっき倒した女、たぶん奴等の仲間だろうから、後で居場所を聞き出せばいいか」


「あら。でも、当分、目を覚まさないかもしれませんわよ」

「あ! そうか。ギルバートの屁を吸っちゃったからな」

「臭すぎでしゅ」


 ラルクは首を竦める。

「面倒くさいけど仕方ないか。このクソ寒いのに寄り道なんて……」


 そこでファンクが言う。

「フ〇ック! 無駄足ではないかもよ?」

「なんでだよ?」


「ファ〇ク! さっきの獣の皮を被ってた女。サーベルタイガーを乗りこなしてただろ?」

「ああ。そうだな」


「ファッキン・テイムの能力だ」

「そう言われてみればそうだな。あんな化け物を乗り回すんだから、そうなのかもな」


「ファッ〇! それとあの格好。あれは、ナルゲン族の民族衣装だ」

「なんだって!? それって俺の封印を解く鍵になるっていう……」


「フ〇ック! そうだ! ナルゲンの末裔かもしれねえ!」


 ラルクの能力を封印するナルゲンの古代呪術。


 トカゲの弟がさらわれてしまったが、これもケガの功名か、何かの縁か……。


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