ドングリ交換祭り
グングン加速して飛行速度を上げる大魔王ファンク。
ラルク達を守るために手のひらを胸に押し付けるのはいいが……胸毛が凄い。
ラルクとネムがロープのように太い胸毛に纏わりつかれて困惑する。
「うわっぷ! なんだこれ!?」
「いやん! 気持ち悪い!」
密林に捕らわれたかのように周りはモジャモジャの胸毛だらけだ。
「なんですの!? 何も見えませんことよ!」
なにがなんだか分からないが、外界では爆発音と風を切る音がひっきりなしに喧嘩している。
「フ〇ック! どけどけどけぇ!」
ファンクは迫りくる砲弾をものともせず、低空飛行で峡谷を抜けきった。
だが、飛び出た先は一面の銀世界。右も左も真っ白だ。
「ファ、ファ〇ク! さ、寒ぃ!」
飛行中のファンクは身震いする。上半身裸の身に、この寒さは堪える。
「ファ、ファックション!」
そして、くしゃみの拍子に『ボフン』と、変身が解けてしまう。
「ファッ〇!? ありゃ?」
ファンクが突然、妖精サイズに戻ったせいでラルク達が宙に投げ出される。
「うわあ!」「きゃっ!」「あらっ!?」
「ええっ!?」「あいっ!?」
「はぐわっ!?」「へっ!?」「兄ちゅわぁああん!」
低空飛行だったとはいえ、飛行中に放り出されたのでラルク達がパニックになる。
『ボフッ! ボフ、ボフボフ!』
訳が分からないまま、分厚い雪に頭から突っ込む面々。
雪に埋もれたラルクが『ぶへぇ』と、顔を出す。
「冷てぇ!」
続いてチキ、ネムが雪まみれの顔を覗かせる。
「訳が分かりませんわ!」
「もぉ、最悪!」
ギルバートは雪から這い出ながらボヤく。
「参りますね。急に縮んでしまうんですから……」
ラルクが毛皮の雪を払いながら言う。
「けど、助かった。下が雪で」
幸い、誰もケガは負っていないようだ。
しかし、山賊の親分は頭から深く雪に突っ込んだらしく、両足だけを雪の上に突き出してもがいている。
その足をトカゲの兄弟が懸命に引っ張っている。
「兄ちゃん! 親分が死んじゃう!」
「もっと強く引っ張れ!」
「でも、引っ張り過ぎたら足が取れちゃうよ!?」
「取れるもんか! ズボンが脱げるだけだ!」
「いいのか!? 兄ちゃん! 親分、フルチンになるよ?」
「構うもんか! 死ぬよりはフリチンの方がマシだ!」
「そうか、兄ちゃん! 死んだらフリチンになれないもんな!」
「そうだ! フリチンぐらいどうってことない!」
だが、大柄な親分が雪に埋もれているのをトカゲ兄弟だけで引っ張り上げるのは無理だった。
「しかたないでしゅねぇ」
そこでピピカがポケットから取り出したドングリを雪の上に放り出した。
そして「エイ!」と、強制交換を発動。
『ポフン』と、ドングリと入れ替わった親分が雪の上でジタバタする。
「ふぎぃいい! はひぃいい!」と、必死でもがく親分。
救出されたことに気付いていない。
それを見てギルバートが呆れる。
「まるで釣り上げられた魚みたいですね」
「汚ったない魚でしゅ」
なんだかんだいって無事にサブン連邦には入国できた。
しかし、周りは一面の雪景色で、灰色の空はいつ吹雪いてもおかしくない雰囲気だ。
「寒いですわね……想像以上ですわ」
ネムがブルっと震える。
「お兄ちゃん、凍え死んじゃうよ!」
周囲を見回してラルクが溜息をつく。
「参ったな。どこか町まで行きたいところだけど、移動手段がな……」
「ファ〇ク! 右方向に進めば、峡谷に続く道があるぜ!」
ネムがファンクに懇願する。
「こんなに深い雪の中を歩くなんて無理! もう一回、変身して運んでよ!」
「ファッ〇! 無茶言うな! 一回変身すると時間を置かなきゃなんねえんだ」
ラルクがピピカの頭を撫でる。
「ピピカ。悪いが、出番だ」
頭を撫でられたピピカは「あい」と、素直に頷く。
道の無い雪原は積雪が深すぎて、まともに歩けそうもない。
そこで小まめに強制交換で場所を変えて、道のある場所を目指す。
「フ〇ック! あの林の向こうに道があるはずだ!」
「ピピカ、頑張れ! あともう少しだ」
「ふぃいい。あい」
ピピカは少し疲れた顔を見せながらも皆を林の所まで移動させる。
チキが何かに気付く。
「待って! 何か来ますわ!」
「ファ〇ク! 隠れろ!」
確かに林の数メートル先に道があった。
定期的に除雪しているようで、両脇に灰色の雪が積み上げられている。
その道に馬が3頭、馬車が一台、峡谷の方面に向かって移動している。
ラルクがそれを凝視する。
「何か物資を運んでいるのか?」
「ファ〇ク! 前を行く馬、乗ってる奴は軍の幹部か? なんか偉そうだ」
ギルバートが頷く。
「ずいぶん、のんびりしてますもんね。峡谷の方は今頃大騒ぎでしょうに」
「ピピカ、あの馬と馬車。奪えないか?」
ラルクに言われてピピカがポケットをモゾモゾさせる。
「まだドングリあるでしゅ」
例によってピピカがドングリを『ポン』と、放り投げる。
そしてお約束の強制交換!
先頭の馬にふんぞり返っていた軍人が『ポフン!』という音と共に尻から落ちた。
「はがっ!?」と、尻から落下した軍人が悲鳴を上げる。
そして尻を押さえながら飛び上がる。
「あっー! 何か刺さったぁ!」
ラルクが頷く。
「ドングリだな」
「ええ。ドングリですわ」
「ファッキン・ドングリだ」
乗っていた馬が消えて困惑する軍人たち。
立て続けに馬が『ポフン!』『ポフン!』と消えて、最後に馬車まで消失した。
唖然とする軍人たち。
その一方では林に隠れたところで馬たちが、きょとんとしている。
ギルバートが布袋におならを注入して、ピピカに差し出す。
「騒がれると面倒なのでこれを」
ピピカが嫌そうな顔をする。
「ばっちいでしゅ! ないない!」
『ポフン』
ピピカの手元には軍人の帽子。
偉そうな軍人の頭にはガスの詰まった布袋。
うまい具合に物々交換が成立した。
だが、彼等にとっては最悪な物々交換。
漏れ出た匂いに速攻で失神させられてしまう。
チキが軍人たちに同情する。
「まあ、臭そうなこと! 気の毒ですわね……」
「ンコよりくちゃいでしゅ」
「フ〇ック! けど、この馬を借りなきゃ、俺等が凍え死んじまう!」
こうしてラルク一行は、馬と馬車に分乗して、峡谷から離れる形で道を辿ることにした。
だが、馬車の積み荷を狙う別な勢力に監視されていることを、ラルク達は知る由もなかった。




