風の谷のファンク
前方から雨あられと降ってくる無数の砲弾。
逃げ場はない。
せめて川に飛び込もうとしたが間に合わない。
『ズドドドドドドド!』
耳をつんざく爆音の連鎖に思わず身を縮める。
終わった! と誰もが覚悟した次の瞬間、時が止まったかのような間が空いた。
「え?」と、ラルクが目を開ける。
反射的に守ろうとしたネムは、ラルクの腕の中でぎゅっと目を閉じている。
一瞬、ピピカが強制交換で場所を入れ替えたのかと思った。
だが、立ち位置は先ほどと変わらない。
「あっ!」と、チキが声を上げた。
ラルクはチキの見る方向に目を向ける。
「な!? 壁!?」
砲弾が飛んできた方向を遮るような形で、目の前に紫色の壁があった。
「フ〇ック! 大丈夫か?」
力強い声が降ってきた。
声の発生源を見上げながらラルクが「ファンク!」と、顔をほころばせる。
紫色の壁だと思っていたのは大魔王に変身したファンクの背中だった。
「それにしても、デカくないか?」と、ラルクが苦笑する。
「ファ〇ク! 慌てて変身したからな! まあ、大魔王にとっちゃ、身体の大きさなんて、まるで無意味だがな!」
そう言いながら立ち上がったファンクは、さらに見上げる高さだ。
チキが土埃にむせながら感謝の意を述べる。
「助かりましたわ! 爆発から守ってくださったのね!」
ギルバートはピピカを抱えながら感嘆する。
「凄いです! まるで巨人じゃないですか!」
「うう……匂うでしゅ」と、ピピカはギルバートの腕の中で顔を顰める。
「庇ってあげたのに酷い言われようですね……」
ギルバートはゲンナリする。
大魔王に変身したファンクを見てネムが「ひ、ひぃいい」と、腰を抜かす。
「大丈夫。ファンクだよ。元は大魔王なんだ」
ラルクの説明にネムは目を見開く。
「だ、大魔王!? う、うそ……え? あの中年妖精が?」
「クソ親父のせいで妖精に変えられちゃったけど、特別に臭い匂いを嗅ぐと一時的に元の姿に戻れるんだとさ」
「なにそれ? お兄ちゃん、大魔王と知り合いだったの?」
チキが匂いの元となる液体が入った小瓶を拾い上げる。
「ダーリンの交友関係は素晴らしいですわ」
山賊の親分とトカゲの兄弟は言葉が出ない。
巨大なファンクを前に固まっている。
親分の右腕に抱えられたトカゲ弟が声を発する。
「兄ちゃん、これ、夢なのかな?」
左腕に抱えられたトカゲ兄が答える。
「ああ、夢だな。魔王? そんなもの居るはずがない」
「兄ちゃん。でも、おいら、漏らしちゃったよ」
「おいおい。いい年こいて『おねしょ』かよ」
「ごめん。兄ちゃん」
「いいんだ。俺もズボンがビチョビチョだ」
そこで山賊親分が「夢じゃねえ!」と、両脇に抱えていたトカゲ兄弟の頭を『ゴッツンコ』する。
「あいた!」「痛でっ!」
親分が怒鳴る。
「おめえら、起きてんなら自分で歩け!」
頭をさすりながらペンギンの着ぐるみが言う。
「あででで……夢じゃなかった」
ヒヨコの着ぐるみが背伸びしながら声を張り上げる
「夢なのに! 夢じゃなかった!」
弟の台詞を聞いてトカゲ兄も真似する。
「夢なのに! 夢じゃなかった!」
同じ言葉を繰り返して走り回るトカゲの兄弟を放置してラルクがファンクに尋ねる。
「ファンクは大丈夫なのか? だいぶ砲撃を食らったみたいだけど?」
「フ〇ック! クソ痛かったぜ! 別にダメージはねえがな!」
不死身の大魔王には大砲の集中砲火も効かないようだ。
ファンクは前方を見ながら忌々《いまいま》しそうに言う。
「ファッ〇! サブンの奴等、いきなりぶっ放しやがって! どうやら、崖のあちこちに大砲を設置してるらしいぜ」
「そうなんですの? 崖の上から狙い撃ちするなんて卑怯ですわね!」
「ああ、谷底には逃げ場が無いもんな」
「ファ〇ク! 焼き払っちまうか?」
「いや、崖が崩れるだろ。そしたら先に進めないじゃないか」
「ファッ〇! それもそうか! そんじゃあ……」
巨大化した大魔王ファンクは、しばし考えてから鼻をほじり始める。
「え? ファンク、何を?」
ファンクは鼻をモゾモゾさせて息を吸い込む。
そして……。
「ファ、ファ、ファックショォオオオイ!」
爆発的なクシャミを発するファンク。
だが、ただのクシャミではない。
巨大化した大魔王のツバキを飛ばしながらのクシャミは、衝撃波を伴って峡谷を駆け抜けた。
強烈な風が、崖のあちこちを削る! 抉る!
ファンクのクシャミは、一陣の風となって峡谷の先の方まで届いた。
「うわっ!」「ひっ!?」「なんですの!?」
その威力にラルク達が驚愕する。
「ファ〇ク! たぶん、これで大丈夫だ」
ファンクは得意げにそう言うが、鼻からは一筋の鼻水がデローンと垂れている。
そのあたりは威厳の欠片もない。
ラルクが前方に目を凝らしながら言う。
「敵は全滅したのかな?」
「ファッ〇! 念のために乗ってくか?」
ファンクは背中の羽を開いて飛ぶ準備をする。
そして左手を地面に下ろしてラルク達に乗るように促した。
「大きな手のひらですこと!」
チキが驚くように、ファンクの手のひらには余裕でラルク一行が乗れるだけの広さがあった。
「フ〇ック! そんじゃ、ひとっ飛びするか!」
巨大化したファンクは谷底を見下ろしながら悠々と飛行する。
サブン連邦側からの砲撃は無い。
岸壁を見ると、所々に砲台の跡が存在した。
おそらく、そこから砲撃してきたのだと思われるが、それらはファンクのクシャミで一様に使い物にならなくなっていた。
ギルバートが鼻をスンスンいわせて顔を顰める。
「なんだか唾液臭くないですか?」
ラルクも匂いに気付く。
「ホントだ。確かに唾の匂いがするな」
「フ〇ック! クシャミだからな。しょうがねえ!」
「それもそうか。ハハハ」
ラルクは納得して笑っているが、他のメンバーは微妙な顔をする。
5分ほど快調に飛行したところで、峡谷の終わりが見えてきた。
その向こう側はサブン連邦の領土だ。
「うえっ! 真っ白じゃないか?」と、ラルクが嫌そうな顔をする。
「フ〇ック! 雪国だからな! 寒そうだ」
巨大化しているファンクは防寒具を着ていない。
「ファ〇ク! なんか、ションベンしたくなってきた」
「ええ? 今ですか?」と、ギルバートが怪訝な顔を見せる。
「ファッ〇! このまましちまうか。立ちションならぬ飛びションだ! ガハハ!」
そんなやりとりをしている間に前方から『ドン!』と、一発の砲弾が飛んできた。
『ドガァン!』
ファンクの肩口で砲弾が爆発する。
「フ〇ック! 痛ぇな! おい!」
峡谷の出口付近が『ワーワー』と、騒がしい。
「フ〇ック! このまま突っ切るぜ!」
そう言ってファンクは左手を自らの胸に当てるようにラルク達を隠し、飛行スピードを上げた。




