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歴戦の峡谷

 峡谷の入り口は、山が縦に裂かれたような形状をしていた。


 入り口に向かって立つと右も左も垂直な崖がずっと先まで続いている。

 それを峡谷が分断している。


 ラルクが崖を見上げながら感心する。

「すごい崖だな。上の方は雲で見えないぞ」


 ギルバートが解説する。

「大昔に地震で出来た断層ですね。ハミマ側の大地が地盤沈下して、逆にこの山が隆起したんですよ」


「聞いたことがありますわ。それをこの川が数千年かけて峡谷を作ったのですわね」


「フ〇ック! さすがに、この崖は登れそうにねえな」


 かといって峡谷の入り口はハミマの軍隊が封鎖している。

 そして、出国できない人々が兵士たちに追い返されて立ち往生している。


 峡谷の入り口近辺は、崖を背に宿屋が連なっており、土産物屋、飲食店といった店も豊富で、それなりに発展している。


 だが、今は人の流れが停滞していて、町中がそわそわしている。


 ラルク一行は、兵士たちが等間隔で並ぶ入り口に近付いて周囲を観察する。

「やはりここはギルバートの出番だな」


 ラルクの言葉を受けてギルバートが嫌そうな顔をする。

「ええっ? 見つかったら僕だけ悪者になっちゃうじゃないですか」


「大丈夫だ。お前が兵士を失神させているうちに、ピピカのスキルで中に入ってしまうから」


 ラルクの作戦に従って、ギルバートが兵士の列に派遣される。

 オドオドしながら兵士たちの前を横切るギルバート。


 兵士たちの視線にたじろぎながらギルバートが急にお腹を押さえてしゃがみ込む。

「うっ! きゅ、急にお腹がっ!」


 それを見守りながらファンクが呆れる。

「ファ〇ク! あいつ、下手な演技なんかしやがって!」

「すかしっ屁でいいでしゅよ」


 チキが推理する。

「ガスが出るのは腹痛のせいだとアピールしたいのでは? 兵士に怒られたくないから」


 ラルクは苦笑い。

「あいつなりの自己防衛なんだろ。それに、出す前にちゃんと予告するなんて立派な騎士道精神じゃないか?」


「ファッ〇! 予告っつたって威力が桁違いだがな」


 それを聞いてトカゲの兄弟が顔を見合わせる。

 

 ペンギンの着ぐるみを着たトカゲ兄がヒヨコの背中をバンバン叩く。

「おい! 『ミ』が出るかもしれねえぞ! 見逃すな!」


 ヒヨコの着ぐるみの弟が頷く。

「兄ちゃん! チャンスだね! 伝説の武器が見れるね!」


「ああ。伝説の『ミ』だ! 出るぞ出るぞ『ミ』がでるぞ!」

「兄ちゃん、おいら、興奮してきたよ! 『ミ』が待ち遠しいよ!」


 トカゲの兄弟は、ギルバートの『ミ』を何か凄い武器だと勘違いしているらしい。


 だが、それを耳にしてラルクが変な顔をする。

「ミが出たら困るんだけどな……」


 一方、腹痛を熱演するギルバートが兵士たちの目の前で「うっ!」と、呻く。

『プ……プゥ、プスッ』


 それを聞いて兵士たちが嫌そうな顔でギルバートを睨む。


「フ〇ック! 出た! 茶色の屁!」

 

 ラルクがネムの手を引く。

「ネムネム、風上に移動するぞ! 息を止めろ」


 ギルバートの茶色い屁は激臭。

 それを知っている面々は口元を押さえて、無言で風上に逃れる。


 茶色いガスが拡散すると共に、兵士が次々と嘔吐した。

「うげっ! おえええっ!」

「く、臭え! な、なんだ!?」


 騒ぎ出す兵士。だが、長くは続かない。

 なぜならギルバートの屁を吸い込んで意識を保てるはずがないからだ。


 バタバタと倒れていく兵士たち。

 とばっちりで近辺に居た人々も次々に気を失ってしまう。


「兄ちゃん! 臭いよ! 鼻が痛いよ!」

「うげげ、この匂い! 酷い! 臭すぎる!」


 トカゲの兄弟は少しガスを吸ってしまったらしい。

 彼等は列車強盗の時にギルバートの屁を一度経験しているので失神は免れた。

 だが、頭がクラクラするのか足元がおぼつかない。


 そこで山賊の親分、登場。

「おめえら! 大丈夫か!?」


 親分はトカゲ兄弟を両脇に抱えて風上に連れ出す。


 頃合いを見計らってラルクがピピカに指示する。

「ピピカ、あの辺りに!」


「あい」


 ピピカが強制交換のスキルを発動して、ラルク達の足元と峡谷内部の地面を交換する。

 一瞬で周りの光景が切り替わり、ラルク達は峡谷内にワープした。


 ギルバートのガスで沈黙する入り口をしり目に、ラルクは先頭を切って歩き出す。

「よし、うまくいった。行くぞ」


 ラルク、ネム、ファンクが先頭を進み、チキとトカゲ兄弟を抱えた親分が続く。

 その後にピピカが続くのだが、後方からギルバートが追ってきた。


「待ってくださいよぉ! 僕を忘れないで!」


 ピピカが振り返って顔を顰める。

「臭いから離れて付いてくるでしゅ」


「そ、そんなぁ。酷い!」


 川の両サイドに道があるが人通りは無い。

 所々に建物があるが、軍の詰め所なのだろうか大砲や馬具が放置されている。


 しばらく進んだところでファンクが警戒する。

「フ〇ック! 前方に気配があんぞ! 気をつけろ!」


 それを受けてラルクは前方に目を凝らしながら慎重に歩く。


 峡谷の底をゆっくりと進む。

 やがて両サイドの崖に抉れたような箇所があることに気付く。


 道の脇には真新しい落石が散在する。

 そして、あちこちに砲撃の跡が見られるようになった。


「ファ〇ク! 黒焦げじゃねえか! こりゃ、最近の……」


 その時、前方上空から『ヒュルルル』と、空気を裂く音が近づいてきた。

 

「ま、まさか!」と、ラルクが身構える。


『ドッ、ガガーン!!』


 進行方向の数十メートル先で爆発が生じた。


「うわっ!」「きゃっ!」「ファ〇ク!?」


 先行していたラルクとネムが爆風で吹き飛ばされそうになる。

 大柄な親分ですら後ろに流されそうな爆風だ。


「あいいい!」と、小柄なピピカは転がりながら最後尾のギルバートに激突する。


 尻もちをついたチキが驚愕する。

「な、な、な、なんですの!? 今のは?」


 先頭のラルクが怒鳴る。

「砲撃だ! サブンの奴等かもしれない!」


 ラルクは隠れる場所を探そうとするが、右は川、左は崖と逃げ場はない。

 そもそも峡谷の底を這う道に逃げ場はない。


「ファッ〇! まだ来るぞ!」


 その言葉の通り、『ヒュルルル』と、音を引く砲弾が次々と迫ってきた。


 ラルクが焦る。

「ちょっ! 多すぎる! 避けられない!」


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