北の国へ
飛行能力と寒さへの耐性で選抜した4体のドラゴンに乗って北のサブン連邦に向かう。
分乗の内訳はこうだ。
先頭のウィング・ドラゴンにはラルクとネムとファンク。
ゴリアテ・ドラゴンには大柄な山賊親分。
ミスリル・ドラゴンにはトカゲの兄弟。
最後尾のヒューイ・ドラゴンにはチキ、ギルバート、ピピカの三人だ。
ファンクの勘を頼りにラルクが進路を決定し、ネムのテイムでドラゴンを動かす。
仮にハミマの空軍に遭遇したとしても、十分に撃退できる態勢を維持してグングン飛ぶ。
ミスリル・ドラゴンの背中ではトカゲの兄弟が騒いでいる。
「兄ちゃん! 落ちそうだ! 落っこちちゃうよ!」
結構なスピードで飛行するドラゴンの背中に乗っていると、猛烈な風に押し流されてしまいそうになる。
トカゲ兄がドヤ顔で弟に尋ねる。
「バカだな。俺達の爪は何のためにある?」
トカゲ弟が元気よく答える。
「鼻くそをほじくる時に使う!」
「違う! もっと、こう……あるだろ?」
「あ! お尻がかゆい時に掻くと気持ちいいっ!」
「違う! こうやって引っ掻けるためだ」
そう言ってトカゲ兄はドラゴンの鱗の隙間に爪を差し込んでみせる。
「兄ちゃん、それは!?」
「お前もやってみろ。安定するぞ!」
「兄ちゃん、頭、いいな! さすがオイラの兄ちゃんだ!」
その時、ドラゴンの大きな鱗がポロリと剥がれ、「おろっ?」と、トカゲ兄が傾いた。
鱗を抱えてドラゴンの羽の上を転がるトカゲ兄。
「あ、兄ちゃぁああん!」
弟の絶叫も虚しく、トカゲ兄はドラゴンから転がり落ちる。
そして後方に流されながら落下していく。
後ろを飛んでいたギルバートが声をあげる。
「あ! 落ちた」
そこでピピカが強制交換を発動。
トカゲ兄とトカゲ弟のズボンを『ポフン』と、入れ替えた。
下半身丸出しの弟の尻にしがみつくトカゲ兄。
それに対して、トカゲ弟のズボンは、ひらひらと落下していく。
トカゲ兄がゼイゼイしながら復帰する。
「うえええ! 死ぬかと思った!」
「兄ちゃん、おかえり! よく無事で戻ってこれたね!」
「お、おお。何でか知らんが助かった」
「ああっ! 兄ちゃん! おいらのズボンが無い!」
「お、おおっ!? どおりで生あったかいと思った」
「兄ちゃん! どうしよう? おいらフリチンだよ! スースーするよ!」
「し、心配すんな! 兄ちゃんが新しいの買ってやる」
「いいのか? 兄ちゃん! 兄ちゃんは、やっぱ頼りになるな!」
トカゲのバカ兄弟の会話は聞こえてこないが、チキが強張った笑みをみせる。
「な、なんだか知りませんけど、良かったですこと」
ギルバートが感心したようにピピカを見る。
「ピピカさん、やさしいですね」
するとピピカはニコリともせずに答える。
「バカ兄弟は見てると面白いでしゅ」
「あ、ああ、そうなんですか。別に仲間だから助けたわけではないんですね……」
チキが、やれやれといった風に首を振る。
「先が思いやられますわね……」
* * *
ハミマ共和国を縦断する形で、随分と北の方までやってきた。
日が暮れると急激に寒さが押し寄せて来た。
ドラゴンの背中で風を浴びているとなおさらだ。
ラルク一行は、宿をとることと防寒着を調達する目的で北の町エビラに寄ることにした。
地方だと指名手配の影響が無いのか、ネム達が町中をうろついていても、警官に目を着けられることはなかった。
宿に落ち着いたところでラルクが皆に提案する。
「今夜はゆっくり休んで、明日は冬支度を整えよう」
「賛成ですわ! 暖かい服を買いに行きましょう。ネムさんにも素敵な毛皮を買って差し上げますわ」
「ほんと? ありがとう義姉さん! 買い物、楽しみ♪」
「うふふ。私も義妹とお買い物ができるなんて嬉しいですわ!」
盛り上がる女たちを横目にラルクがファンクに相談する。
「サブンに入国したとしても、ナルゲンという国はもう無いんだろ?」
ラルクの呪印にはナルゲンの古代文字が刻まれている。
物知りおばばのウィキッペが言うには、ナルゲンは400年前に滅んでいるので、その末裔を探すか、大きな図書館で文献を見つけないとならない。
「フ〇ック! だいたいの場所は分かる。そこにずっと住んでる奴に話を聞いてみることだな」
ギルバートが顎を撫でながら言う。
「きっと手掛かりはあるはずですよ。ラルクさんに封印を施したのはカロン・アシュフォードです。おそらく、あの人もどこかでナルゲンの呪術を知ったはずですから」
「そうだな。完全に失われた情報というわけではなさそうだ。行ってみないと分からないけど」
「ファ〇ク! そのついでなんだがよう。北の魔王のところに寄っていこうぜ」
「北の魔王?」
「ファッ〇! ああ、カロンの奴、おそらく北の魔王にも接触してやがるはずだ」
ラルクがその意図を察する。
「なるほど。それはあり得るな。となるとサブン連邦も、いずれ軍事行動を起こすと?」
「ファッ〇! たぶんな。だから大魔王として、奴に一言、言っておかないとなんねえ!」
ギルバートは乗り気ではない。
「ま、魔王なんでしょ? む、無理に接触しなくても……」
「フ〇ック! そういうわけにはいかねえ!」
「同感だ。北の魔王を牽制して戦争を回避するべきだと思う」
「ファ〇ク! もう手遅れかもしれねえがな。サブンまで戦争を、おっぱじめやがったら、カロンの思うつぼだ」
ギルバートが少し考えてファンクに尋ねる。
「もし、魔王が裏で糸を引いているのなら、ハミマ共和国の侵攻も止められるのでは?」
「フ〇ック! 西の魔王だろ? けど、奴にはカロンがついてる。あいつに対抗するためには、あのテイムをなんとかしねえと!」
そう言ってファンクはラルクに視線を送る。
ラルクも頷く。
「分かってる。この呪印を解除して、奴のテイムと対決できるようにならなくてはな」
ラルクの父、カロン・アシュフォードの能力は、ラルクのテイムの上位互換だ。
大魔王のファンクでさえ操ることができるテイム。
しかも、言葉で命令するだけで。
ワルデンガ島で実際にそれを喰らったラルクは、レベルアップの必要性を実感していた。
「大丈夫ですわよ」
いつの間にかチキがラルクの側に居て、にっこり微笑む。
「そうだよ。お兄ちゃんのテイム、封印さえ解ければ凄いことになるって!」
ネムも楽観的な感想を口にする。
「ファ〇ク! あながち間違いじゃないかもな。妹のテイムですらアレだ。ラルクのテイムも、きっと進化するはずだぜ!」
「だといいんだがな……」
ハミマ共和国とサブン連邦の国境は、すぐそこだ。
しかし、その先は未知の領域だ。