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見覚えある姿

 ガッチリと顔をホールドして、全力で顔面を押し付けてくるチキ。


 唇を完全に塞がれ、呼吸が出来ずに苦悶の表情を浮かべるラルク。


「熱いっ!」

 ラルクがチキを押し返す。


 唇が離れる瞬間、彼女の唇から残り火が漏れた。

 ラルクの口からも火がこぼれる。


「あら、ごめんあそばせ。火炎草がまだ残ってたかしら?」

 そう言ってチキは口元を隠して笑う。


 ラルクが困惑しながら尋ねる。

「い、いきなり何を?」


 ところが、チキはその質問には答えず、ギャラリーに向かって宣言する。

「私は、この方をお婿さんに迎えます!」


「なっ!?」と、ラルクが唖然とする。


 ファンクとギルバートも驚きを隠せない。

「ファ、フ〇ァック!?」

「な、なんということでしょう……」

 

 しかし、メイドや執事達は大盛り上がりだ。

「これでアッチョンブリ家は安泰だ!」

「アッチョンブリ家、万歳!」

「チキ様! おめでとうございます!」


 唐突で一方的な結婚宣言に戸惑うラルクのことなど誰も気にしない。


 チキが皆に号令をかける。

「皆さん。盛大なパーティを開きますことよ!」


 それに呼応して「うぉぉおお!」という歓声。

 屋敷中の人間が集まってきているのだろう。


 もはや、ラルク達には流れにあらがうことは不可能だった。

 

 新しい当主の誕生と、その配偶者の決定!


 そういうテーマで繰り広げられた饗宴きょうえんは、狂宴といっても過言ではないほど盛り上がった。

 本当に三日三晩、どんちゃん騒ぎが繰り広げられたのだ。


 主役は勿論、チキだ。

 彼女は新しい当主として、ゲストをもてなし、自らも弾けまくった。


 時間がたつにつれ、アッチョンブリ家に関わりのある客人やら親戚やらが増えて、最終的には広い屋敷が人で溢れかえるに至った。


      *      *      *


 大げさなベッドの上で目を覚ましたラルクが驚く。

「え? なんで裸!?」


 記憶が無い。というか酒を飲まされすぎて、何度も脳を破壊されたような気がした。

 終わることが無いと思われた宴の最終日。限界を迎えて、このベッドに倒れこんだことは思い出した。


 天蓋付きベッドは5人ぐらい寝られそうな大きさで、布団が柔らかくて埋もれてしまいそうだ。


 ラルクは鼻を鳴らす。そして首を捻る。

「なんだろ? 体中が唾液臭い」


 ふと、人の気配を感じて、その方向に目を向ける。

「いっ!?」


 そこには長い髪の女が裸で眠っていた。

 髪で顔は隠れているが、それはチキに違いない。

 栄養ドリンクの効果が切れたのか、チキは出会った頃の姿に戻っていた。


 そこで昨夜の記憶がラルクの脳裏に押し寄せてくる。

「うわぁあああああ!」


 ラルクの叫びでチキが目を覚ました。

「う……ん。あ、おはよう。ダーリン」


「ちょ、ちょ、ちょ、な、なんで? なにをしたんだ?」

 動揺するラルクの質問にチキは顔を赤らめる。


「それは……夫婦として当然の行為ですわ」


 昨夜の出来事を思い出してラルクは頭を抱える。

 浴びるほど飲んだ酒のせいで前後不覚のところを襲撃された。

 チキがベッドに潜り込んできて、勝手に……。


 しばらく考え込んでから、ラルクが言う。

「分からない。なんで俺を配偶者にしようと思ったんだ?」


 チキは頬を染めながら嬉しそうに答える。

「私のために、テイマーなのに命がけで先頭に立って戦ってくださった姿に惚れましたの」


「いや。それって、単に前のパーティに騙されてただけ……」


「それに、私をお嫁さんにするために、あの兄弟に奪われまいと奮闘するお姿を見て、心に決めましたの。この運命に身を委ねようって!」


「えっと……え?」

 ラルクには理解できなかった。

 超ポジティブというか、思い込みというか……。


 そこで『バターン』と、扉が開く。

 そしてギルバートとファンクが室内に飛び込んできた。

「ラ、ラルクさん! 大変です!」

「ファッキン! 起きろ! 大変だ!」


「きゃあああ!」と、チキがシーツで裸を隠す。


 裸の二人を見てファンクが頭を掻く。

「フ〇ック! お楽しみのところスマンな……」


「ち、違うから!」と、ラルクが慌てて否定する。「で、どうかしたのか?」


「ファ〇ク! お前が探してた女が居たんだ!」


 それを聞いてラルクの目つきが変わる。

「なんだって!? どこに?」

 

 ギルバートが答える。

投射鏡とうしゃきょうでニュースを見てたら、紹介されていたんですよ!」


 投射鏡というのは、クラゲ系モンスターを原材料にした液晶モニタだ。

 チャンネルは少ないが、テレビ放送は存在する。


「ファッキン、売り出し中のアイドル女優だとよ!」

「たぶん、ラルクさんが探してたのは、その人ですよね? 元勇者パーティの白魔導士ティナって言ってましたよ」


 見る見るうちにラルクの顔つきが険しく変化する。

「ああ。間違いない。俺が『ざまあ』しなければならない対象の一人だ」


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