制圧! だが、しかし……
ギルバートは、敵の司令部に向かって走る。
まるで小さい子が突撃するみたいに、無駄に両腕を振り回して泣き叫びながら。
「うわぁあああん!」
異変に気付いた兵士たちがバラバラと建物から出てくる。
ギルバートの単独での特攻に敵も戸惑う。
なんだこいつ? という空気。
気が触れた者が暴れているようにしか見えないのだろう。
「フ〇ック! あいつ、何で大声出すんだ? 黙って攻めりゃいいものを」
ラルクが半笑いで首を振る。
「ミスったなあ。指示が良くなかったか……」
しかし、ギルバートにはガスがある!
半ば呆れ気味に近づいてくる敵兵がギルバートの周りでバタバタ倒れていく。
少し離れた位置の敵兵ですら鼻を摘まむ激臭。
ようやく襲撃されていることを理解した敵兵たちが騒ぎ出す。
チキが鼻と口を押さえながら訴える。
「酷い匂いですわ! これでは私たちも近づけませんわ」
ラルクが頭を掻く。
「そっか。やっぱ、この作戦は良くないな。じゃあ、ピピカ」
ラルクは司令部の建物を指さす。
「ピピカ、ギルバートをあそこに飛ばせ」
ピピカは「うーん」と、建物を見てから「あい」と頷いた。
そしてギルバートに目を向けて「えい!」と、スキルを発動。
『ポフン!』
そこでギルバートの姿が消えて、旗がヒラヒラと地面に落ちた。
その代わりに、司令部の屋上に設置してあった旗のポールにギルバートが出現した。
「ぎゃああああ! なにコレ!? ここはどこ!?」
伝令役としてファンクがピピカの強制交換でギルバートの位置に瞬間移動する。
ファンクは、ポールに抱き着いて泣き喚くギルバートを落ち着かせる。
「ファ〇ク! 騒ぐな! 俺達はこの建物を占拠すんぞ!」
建物の上からガスを撒き散らしながら下へ向かう。
それで中に居る人間をノックアウトする作戦だ。
ギルバートとファンクを送り込んだところでラルク達は、表に出てきた敵兵を相手にする。
テイムで動きを止めてから木槌でガツン!
チキはドラゴン草を飲みんだゲロで近付いてくる兵たちを一蹴する。
ピピカは強制交換で建物の位置をデタラメに強制交換して、建物と建物を積み木みたいに重ねてしまった。
ピピカはキャッキャと喜んでいるが、施設内の建物が縦一列に積まれてグラグラしている様は壮観だ。
おまけに最上段の司令部の建物では、ギルバート達がガスを撒き散らしながら下に向かっているはずだ。
「ピピカ、滅茶苦茶やりやがったなあ」
「まとめて『くちゃい、くちゃい!』でしゅよ」
確かに、建物を一か所にまとめて、ギルバートのガスを浴びせれば一網打尽だ。
それにしても、やり方が普通ではない。
一番上の司令部の玄関から出てきたギルバートは唖然としている。
「どどどどど、どうなってんの!? たかーい! こわーい!」
ラルクがそれを見上げながら大声で指示する。
「おーい! ギルバート! そこで茶色の屁を出しまくれ! あとで拾ってやるから!」
ギルバートは玄関の柱にしがみつきながら叫ぶ。
「も、もうっ、訳が分からないっ! やけくそですぅっ!」
「やけくそで『み』が出るでしゅ」
「嫌ですわ! それはご容赦願いたいですわね!」
ギルバートは『プピピピップピプッ!』と、茶色いガスを大量に放出する。
ガスは、ゆっくりと広がりながら、下の建物を飲み込むように沈んでいく。
「中に居る人は全滅ですわね」
「ああ。一週間は匂いが取れない。というか、数日間は目が覚めないんじゃないかな」
茶色い屁の威力はラルクも身に染みている。
チキが一息つく。
「やれやれですわ。これでこの要塞は無力化できましたわね」
「そうだな。あとはラーソン軍をここに上陸させて島を奪還させればいい」
そこに強制交換で帰還したギルバートがヘトヘトになって帰還する。
「もう! 死ぬかと思いましたよ!」
ラルクがギルバートを労う。
「ご苦労さん。大活躍じゃないか」
「そうですわよ。この島を取り戻したらハミマ共和国も侵略を諦めるかもしれませんわ」
「ファッ〇! どうだかな? けど、少なくともハミマの奴等の計画は狂うだろ」
ラルクは首を竦める。
「我々にできるのはここまでだ。あとは、ラーソン軍に任せよう」
あくまでもラルク達の目的はハミマ共和国を縦断して北の国サブンに行くことだ。
ラルクの封印を解くために……。
朝を待って出発しようかと話していた時だった。
上空で『キィィィン』という高音がした。
何だろうと音がする方向を見てラルクが驚く。
「な、なんだ? あれは!」
見上げると、お皿のような形の物体が宙に浮かんでいて赤く光っている。
眩い光にラルク達が目を薄める。
「ファック!? なんか変なもんが浮いてやがんぞ?」
ギルバートが素っ頓狂な声をあげる。
「え? ひ、人が!? 乗ってりゅ?」
確かに赤い光で見えにくいが、得体の知れない物体の上には人影がある。
その不気味な人影は周囲を眺めまわしている。
何とも言えない沈黙。
ラルクが「誰だ!?」と、沈黙を破る。
すると、浮いている人影が声を発した。
「頭が高い。跪け!」
その言葉を耳にした途端、ラルクの意識に閃光が過った。
その反応は他の仲間も同様だ。
「うっ!」と、眩暈を覚えながら、身体が動いているのを自覚する。
そして気が付くと……。
「え!? な、なんだ!?」
いつの間にかラルク達は全員、跪いて首を垂れていた。
「ファッ……ク……なんだと?」
「な、なんですの……なんだか身体が勝手に」
「貴族の僕が何でこんな屈辱的な姿勢を……」
「あいぃ?」
皆、異変に気付いた。体が言うことをきかないのだ。
それどころか、謎の人影に命じられた通りに跪かされている。
ラルクが下を向いたまま呻く。
「こ、これじゃ、まるっきり……」
隣でファンクが言葉を繋ぐ。
「ファッキン・テイムじゃねえか……」
動けないラルク達の頭上から声が降ってくる。
「どういうことだ? このザマは? これはお前たちの仕業か?」
口だけは動かせるが、身体は動かせない。
顔を上げることすら出来ずにラルクは声を振り絞る。
「だ、だったらどうする?」
ラルクの反抗的な言葉に謎の人影が反応する。
「ほう。面白いことをするな。どういう手を使ったかは知らんが。顔を上げよ!」
再び、意識に霹靂が生じて、今度は全員が顔だけを上に向けた。
チキが苦しそうな声を出す。
「そんな……操られていますの? 私たち」
ギルバートが顔を歪める。
「み、みたいですね……ガ、ガスが漏れそうなのに出ません」
「フ〇ック! 出すなよ!」
謎の人影は問う。
「まさかこれはお前達だけでやったというのか?」
そこでファンクが気付く。
「ファ〇ク……てめえは……カロン! カロン・アシュフォード!」
その名を耳にしてラルクが激しく動揺する。
「ななな、なんだって!?」
「フ〇ック! お前の親父だよ! この能力! どう考えてもお前と同じテイムじゃねえか!」
チキが困惑する。
「ダーリンのお父様なら嫁としてごあいさつを……でも、動けませんわ」
しかし、ラルクは目の色を変える。
「親父……だと?」
ギルバートも珍しく険しい顔をみせる。
「父上の仇……」
跪かされて顔を上げた体勢のまま、ラルクは憎むべき相手を前に、怒りをあらわにした。




