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無慈悲な夜襲

 チキの真っ赤な炎の痰がファンクの残した尻の油に引火するのを見届けて、ラルクは昇降機のレバーを上げた。


 閉まりかける扉。

 その向こうでは尻油しりあぶらの導火線に火が伝っていくのが見える。


「見たいでしゅ! どうなるか見たいでしゅ!」


 駄々をこねるピピカをギルバートが抱きかかえていさめる。

「ちょっ、ダメですってば! 爆発に巻き込まれちゃいますよ!」


 扉が閉まり、昇降機で上昇していく。

 すると下の方から『パン! パパン!』という破裂音が聞こえてきた。


「フ〇ック! 大した事ねえな」

 ファンクが余裕をこいていると、やがて破裂音に『バン!』とか『ドン!』とか、大きな音が混じり始めた。


 ラルクが床を眺めながら冷静に言う。

「引火し始めたんだな。思ったより早い」

「ファ〇ク! 自慢じゃないが、俺の尻の油は燃えやすいからな!」


 床下からピカッと光が漏れだした。

 と、次の瞬間、『ドドン!』と、突き上げる衝撃があって昇降機が浮き上がる。


「うわっ!」「ファ〇ク!?」「いやっ!」「うひい!」「あいいい!」


『ドガドガズズン!』と、絶えず下から突き上げる爆音。

 急加速で上へ運ばれていく感覚。


 何が何だか分からないうちに、ラルク達は昇降機のかごから放り出されてしまった。


「痛って……」

 夜の冷たい空気に触れ、自分が転がっている土の触感で放出されたことにラルクが気付く。

 見ると大きな火柱が昇降機の穴から吹き上がっている。


『バババババッ!』

 黒煙を纏った火柱が、はるか見上げる高さまで到達している。


 火柱が周りを明るく照らす。


「フ〇ック! なんか外に出ちまったな!」

「死ぬかと思いましたわ!」

「あいぃぃ……」


 ラルクが立ち上がりながら顔を顰める。

「凄い勢いだな」


 次の瞬間、近くに何かが落ちてきて『ガッシャン!』と、砕け散った。

 よく見るとそれは昇降機の籠の残骸だった。


 ギルバートが青ざめる。

「こ、これは僕たちが乗ってた籠! もし、これが壊れて投げ出されていなかったら……」


「フ〇ック! 星になっちまってたな! ガハハ!」


 ラルクが苦笑いを浮かべる。

「星は大げさでも、花火ぐらいにはなってたかもな。まあ、火薬で筒からぶっ放す原理は大砲と同じだもんな」


 死にかけたというのに、暢気のんきな二人を見てギルバートが呆れる。

「二人とも危機感なさすぎですよ……まったく」


 そんな苦言は無視して、ラルクが改めて周囲を見回す。

「山の中腹あたりかな……ここは」


「ファッ〇! あの昇降機、こんな所まで繋がってたんだな」

「上まで登ってみよう。島の全景が一望できるかもしれない」


 ピピカの強制交換で立ち位置を入れ替えれば、道の無い険しい山でも頂上に到達するのは簡単だ。


 とりあえず、頂上まで移動して、島を見下ろす。


「ファ〇ク……すげえな!」


 ワルデンガ島は、山の真ん中がカルデラ型に窪んでいて、そこに平地があった。

 なので、平地は山に囲まれる形で、自然に要塞の体を成している。


 ギルバートが唸る。

「うーん、これは軍事拠点になるはずですよ……」


 平地の中央には立派な建物が鎮座していて、細長い施設が整然と並んでいる。

 講堂のようなものもある。

 そこには明かりが集中していて人の出入りが見られた。


「ファ〇ク! あそこでケガ人の治療をしてるっぽいな」


 おそらくは、ファンクの破壊光線で出たケガ人の治療を行っていると思われる。


 中心部から離れた建物を見てファンクが言う。

「ファッ〇! あれは竜舎じゃねえか?」

「みたいですわね。でも、大きすぎませんこと?」


 ギルバートも不思議がる。

「ハミマ本国と行き来するためにしては多すぎですね。何頭いるんでしょうか?」


 ところがラルクが難しい顔をする。

「いや、あれは移動手段だけじゃない。爆撃用かもしれない」

「え? そうなんですの?」


「ああ。前に聞いたことがある。大型飛竜に爆弾を積んで、上空から攻撃する戦法があるらしい」

「そうなんですの……飛竜をそんなことに使うなんて許せませんわね」


 チキが表情を曇らせるのを見てラルクが閃く。

「そうだ。あそこの飛竜、全部逃がしてしまおう」


「それがいいですわ!」

「フ〇ック! そりゃ、ゴキゲンだぜ!」

「あいい♪」

「怒られるだろうなぁ……そんなことしたら」


「そういえば、俺達が乗ってきた飛竜は逃げたかな? 繋いでないから大丈夫だと思うけど」

 ラルクは、この島に乗り付けた時の飛竜を心配する。


「大丈夫ですわ。飛竜は賢いですもの。それに、役目を終えたら直ぐにレンタル屋の所に戻るように訓練されていますし」

「そうか。だったら安心だ」


 ラルク達は山を下りて平地を目指す。

 勿論、ピピカのスキルでショート・カットしながら移動する。


 闇に紛れてラルク達は、竜舎に接近した。


 中を覗き込んでチキが目を丸くする。

「やっぱり! 飛竜が沢山いますわ!」


「凄い数ですねえ。百体ぐらいいますよ」

「よし。繋いである首輪を外してやろう」


 手分けして首輪を外して回る。

 やはり百頭近くも居るので、結構な手間がかかった。


 一通り自由に飛べる状態を確保してやったが、このままでは飛竜たちは逃げていかない。


 ラルクが少し考える。

「うーん。屋根が邪魔だな。ピピカ、取っちゃえ!」

「あい」


 ピピカは竜舎の屋根を見上げて、次に畑の方を向いて狙いを定めた。


「えい!」『ポフン!』


 次の瞬間、竜舎の屋根が消失した。

 その代わりに野菜や泥がボタボタ落ちて来た。


「いいぞ! ピピカ! けど、こいつら逃げないな? だったら、ギルバート!」


 ラルクに指名されて、ギルバートが、やさぐれ気味に返事をする。

「はいはい。分かりましたよ。すればいいんでしょう? すれば」


 ギルバートはスタスタと飛竜の前を歩きながら、小刻みに『プッ、プッ』とガスを漏らした。


 その悪臭に飛竜たちが即座に反応する。

『ギエェエエエ!』

『オエェエエエ!』


 パニックになった飛竜たちは、羽を広げると先を争うように飛び立った。

 屋根が取り払われた竜舎から、百体近くの飛竜が一斉に飛んでいく。


「フ〇ック! あの様子じゃ、二度とここには戻ってこねえな!」

 

「無理もありませんわ。こんな匂いを嗅がされてしまっては」

 鼻を摘まみながらチキは「ゲホッ」と、むせた。


 騒ぎを聞きつけて兵が何人か竜舎に向かって走ってくる。

 だが、竜舎に近付いたところで足を止める。


「くさっ!」

「うげっ!」

「おうぷっ!」


 そしてバタバタと倒れていく。


 その様子を眺めながらラルクが呟く。

「このまま、屁で制圧できるんじゃないか?」


「フ〇ック! やっちまうか?」


 ファンクの言葉にラルクが頷く。

「よし! みんな! 準備はいいか?」


「いいですわよ!」

「あいっ!」

「ファッキン・カモン!」


 ラルクは建物が集注する中心部を指さして指示を出す。

「ギルバート! 睡眠ガスを主体に突っ込め! お前が切り込み隊長だ」


「ええっ!? 僕が先頭ですか?」

「大丈夫だ。俺のテイムとピピカで援護する! 誰にも攻撃させないよう、お前を守る!」


「ほ、本当ですか? お願いしますよ……もう! やけくそですぅうう!」

 中心部に向かって走るギルバート。


 それをラルク達が追う形で、敵の本拠地を制圧することにした。

 


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