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要塞化された島

 ラルク達は妖精の村を出て、早速、最寄りの町で飛竜をレンタルした。


 ラルクはピピカとファンク、チキとギルバートはそれぞれ単独で、3頭の飛竜に分乗して、ワルデンガ島方面に急行した。


 途中休憩を除いては、ぶっ続けで飛び続け、夕刻前にはワルデンガ地方に到達する。


 ラルクが地上を見下ろしながら顔を顰める。

「みんな避難している……そんなに酷い状況なのか」


「フ〇ック! 思ってたより大事おおごとになってんな」


 ワルデンガ島に近付くにつれ、避難する人々の数が増えていった。

 街道は人や馬車で溢れかえっていて、上空から見た避難民たちの列は川の流れのように絶えず続いている。


 目一杯の荷物を抱える徒歩の人、満杯の荷馬車を引く人、中には歩かされているケガ人や病人も混じっている。


 避難してくる人達の流れに逆行する形で、ラルク達はワルデンガ島を目指す。


 すると、前方に飛竜が現れて、急上昇しながら接近してきた。

 どうやらラーソン軍の飛竜のようだ。


 飛竜に乗った軍人が怒鳴る。

「馬鹿野郎! お前等、何やってんだ! 戻れ! この先は飛行禁止だ!」


 おそらく、戦線に近い区域は立ち入り禁止にしているのだろう。

 だが、ラルク達はそこに行かなくてはならない。


 軍の飛竜を避けて強行突破しようとすると、軍人が付いてくる。

「止まれ! 軍の命令だ! 戻れ! 馬鹿者!」

 

 振り返りながらラルクが嫌な顔をする。

「うるさいな。ピピカ、頼む」

「あい」


 次の瞬間、『ポフン!』と、やかましい軍人の姿が飛竜の背中から消えた。


 軍人は近くにあった木のてっぺんに放り出されて唖然としている。

 その代わりに飛竜の背中には、木のてっぺんに止まっていたカラスが乗っている。


 強制交換されたカラスも気の毒なことに状況が飲み込めずに『カァ?』と、間抜けな鳴き声で首を捻った。


 邪魔者を排除してラルク達は、さらに飛ぶ。


 やがて、前方に黒煙が上がっているのが目に入った。

 それもひとつや二つではない。

 海岸線と並行して幾つもの黒煙が連なっている。


「これは酷い……」


 ワルデンガに近い町は、軒並み砲撃を受けてボロボロだった。

 崩壊しているのは建物だけでなく、公園や農地にも着弾と爆発の跡が散在する。


「超遠距離で無差別に撃ってきたようだな」

「ファ〇ク! 命中は二の次なんだろ。にしても滅茶苦茶だな、おい」


 おそらく、ハミマ軍は、陸軍を進軍させるために、その通り道を無差別に破壊しようとしているのだろう。


 右手には海。その先は夕日に染まりオレンジが煌めいている。

 西日を背にしたワルデンガ島の全景が見えた。


「ファ〇ク! 見えてきたぜ!」

「ああ。できるだけ接近しよう。このままギリギリまで飛ぶ」


 よく見ると、ワルデンガ島に向かって進む船団がある。

 その数、数十隻。細長いシルエットから軍艦を連想させた。


「ファッ〇!? ラーソン海軍か?」

「みたいだな。島を奪還するつもりかな?」


「フ〇ック! 珍しくラーソン軍がその気になってやがるぜ!」

「凄い数だな。海軍を集結させてるのかもしれない」


「ファ〇ク! そう上手くいくかねぇ……」


 ここからではワルデンガ島と船隊の距離感が掴めない。

 ただ、一触即発であることは分かる。


 高度を維持したまま、ラルク達は海岸線を進む。

 ワルデンガ島に接近するにつれ、前方右手で展開する構図が、徐々に2時の方向に移行する。


「フ〇ック! 妙だな? ハミマの大砲はこの辺りまで余裕で届くみてえだが、まだ撃たないのか?」

「たぶん命中精度を上げる為に出来るだけ引き付けているんだろう」


 ラルクの予測通り、ラーソン艦隊が、ある海域に達したところでハミマ軍が一斉砲撃を開始した。


 ワルデンガ島の沿岸付近から放たれた砲弾は、雨あられのようにラーソン艦隊に降り注ぎ、水柱を作りだす。


 ラーソン軍も砲撃を開始した。


 両者が激しく撃ち合う『ドン! ドン!』という音が海風に乗って流れてくる。

 

 ハミマ軍の砲撃は正確ではないが、その圧倒的な手数でラーソン艦隊に打撃を与えていく。


 ここからでは被害状況は不明だが、黒煙と炎を吐き出す艦の数がどんどん増えていく。

 それに対して、ワルデンガ島の黒煙は僅かに見える。


「ファ〇ク! 圧倒されてんじゃねえか!」

「ボロ負けだな。このままだと全滅は時間の問題だ」


「フ〇ック! 助太刀するか?」

「どうやって?」


「ファッ〇! ちょいと変身して、一発、ぶちかましてやらぁ!」

「相手は大砲だし、距離もあるぞ? できるのか?」


「ファッキン・できらぁ!」


 ファンクは懐から例の小瓶を取り出すと、軽く匂いを嗅いでから飛竜を飛び降りた。


「ファッ臭っ!!」

『バフン!』


 ファンクが大変身、というか大魔王の姿に戻った。

 そして翼を広げて飛び始める。


「デカい! 羽を広げるとこんなにも大きいのか!」


 ラルクが驚いているとピピカが小さい声で呟く。

「チン〇チンは小っちゃいでしゅけど」


 後方では事情が分からないチキとギルバートが飛竜の上で驚愕している。

「な、なんですの!?」

「ファンクさん、いったい何を!?」


 大魔王ファンクは、バッサバッサと羽ばたきながら大きく息を吸い込み、気合を入れる。

「フ〇ック! それじゃ、一発!」


 そして『フンッ!』と、赤い目から光線を放った!


 ピンク色の光線がワルデンガ島に向かって行く。

 そしてファンクの首の動きに併せて光線が左から右に動く。


 光線が到達して数秒後に『ズオッ!』と、島の輪郭が揺らいだ。

『ズバババババッ! ズゴーン!』


 猛烈な爆発音と熱気がここまで押し寄せてきた。

「うわっ!」と、飛竜にしがみつくラルク。


「きゃあああ!」「あれぇええ!」と、後方でも悲鳴がした。


『ズズズズズ……』


 島の沿岸には火柱と黒煙が帯のように広がっている。

 まるで、島が窯の中で焼かれているパンのように見える。


 ラルクが呆れたように言う。

「なんて威力だ……けど、やり過ぎ……」


「地形が変わっちゃうでしゅ」


 やがて爆発音は収まったが、煙の勢いが衰えない。


 ファンクはウィンクしながら舌をチロッとのぞかせる。

「フ〇ック! 少し出し過ぎちまった! てへっ♪」


 大魔王の『テヘペロ』にラルク達は言葉を失った。


 当のファンクは、効果が切れて『ボフン』と、妖精の姿に戻る。


 飛竜の背中に戻ってきたファンクにラルクが文句を言う。

「やり過ぎだぞ、ファンク! ネムネムが居たら巻き込まれたかもしれないじゃないか!」


「それなら大丈夫ですわ」

 ラルク達の飛竜に接近しながらチキが言う。

「ネムさんは、まだハミマで足止めされているようですわ」


 ラルクがホッとする。

「良かった……」


 ファンクの破壊光線の被害は、沿岸部に集中しているようで、島は原型を保っている。

 

 島からの砲撃は完全に止んだ。

 それに対するラーソン艦隊も完全に沈黙。

 というより壊滅状態といった方が正しい。


「ファ〇ク! ラーソンの戦艦は半分ぐらいしか残ってねえぞ」

「ああ。ファンクが助けなかったら確実に全滅していたな」


 ギルバートが、ため息をつく。

「やれやれですね。8年前の再現じゃないですか……」


「そうですわね。歴史は繰り返すと言いますけど」


 ラルクが島を見つめながら提案する。

「よし、混乱に乗じて島に乗り込もう!」


 ハミマ軍によって要塞化されたワルデンガ島。


 ファンクの破壊光線で沿岸部の砲台は全滅したと思われるが、島には敵が大挙しているはずだ。


 ラルクは気を引き締めて飛竜の手綱を握り締めた。



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