ファッキン『ざまあ』
『バン!』という破裂音と共に、封印が解けたファンクの巨体が蒸気と共に出現した。
上気した紫の肌に眼光鋭い赤い目。
攻撃的な角と牙。威厳を保つ強靭な肉体と黒い羽。
「フ〇ック! お前等、覚悟しろよ?」
大魔王の突然の出現に驚愕する妖精たち。
酔いが醒めるどころの話ではない。
皆、一気に顔面が蒼白になる。
「ひっ! ひゃああ!?」
「だ、だ、大魔王さまっ!?」
「い、いつ、お戻りになられたので!?」
「お、お、お帰りなさいませ。長らくご不在で……」
「ファ〇ク! 不在も何も、記憶を失ってただけで、しばらく、ここにも居たじゃねえか!」
「え? ど、どういうことで?」
「ここにおられた? えっ!? いつ……でございましょう?」
「フ〇ック! まあ、妖精に姿を変えられてたからな。お前等、気付かなかったろ? おかげで随分、世話になったがな!」
勘の良い一部の妖精たちは、薄々と状況を把握したのかガタガタ震えだした。
そうでない妖精たちは動揺しながらも、現実が受け止められない様子だ。
「あ、あれ? ブサイクが消えた?」
「えっ? えっ? どういうこと?」
「あのブサイクが? まさか? 大魔王様?」
「う、嘘!? てことは私達が迫害してたのは……」
妖精たちが戸惑うのも無理はない。
自分たちが散々、虐めていた醜い妖精が大魔王だったのだ。
「ファッ〇! 今まで散々、いたぶってくれたな? 礼を言うぜ!」
「あ、あ、あ……」
「も、申し訳ございませぇええん!」
マッハで土下座する妖精たち。
「フ〇ック! お前等、一列に並べ!」
ファンクに言われたとおりに、妖精たちが大慌てで並ぶ。
そして、すぐさま平伏す。
あまりの恐怖に泣き叫ぶことすらできずに、土下座しながらも失禁が止まらない妖精たち。
失禁の連鎖が止まらない。
ファンクは、『ぶっ殺すぞ』と息巻いていたリーダー格のイケメンを人差し指の爪先で引っ掻けて持ち上げる。
「フ〇ック! お前、また飲み込んでやろうか? 前に閉じ込めた時は2時間で発狂寸前になってたよな?」
イケメン妖精は泣き喚く。
「も、もっ、申し訳ございましぇぇん! それだけは! それだけは! うわぁああん!」
「ファ〇ク! なんなら200年ぐらい入っとくか?」
ファンクの脅しにイケメン妖精は『いやぃひっ!』と、白眼を剝いて気絶した。
ファンクはゲラゲラ笑う。
「ファ〇ク! 俺の胃は広いぞ! お前等の100や200、余裕でブチ込めるぜ!」
「ひぃぃぃ! お許しをぉおお!」
「終わりだぁ! いっそ、ひとおもいに殺してくだひゃいいい!」
パニックに陥った妖精たちは、見ている側が気の毒に思えてくるぐらい取り乱していた。
ギルバートが眉を顰める。
「ファンクの胃の中って臭いんでしょうね。そんな所に幽閉されたら精神を病んでしまいますよ」
ラルクは、「お前のガスも大概だけどな」と、冷静に返す。
ファンクは土下座する妖精たちに通告する。
「ファ〇ク! お前等、みんな格下げな? お前は動物の糞の精、お前とお前は生ごみの精、お前は……」
ファンクは次々と妖精の新しい役職を任命していくが、そんな物に妖精が付いていたのか? というようなものばかりだった。
「ファッ〇! 俺は人間界が気に入ってるんだ! 旅して回るのは楽しいぜ! その人間界を支えるのが、てめえら妖精の仕事だってことを忘れんな!」
チキが感心する。
「あら、ファンクは意外と良い大魔王なんですのね」
ラルクは首を竦める。
「まあ、今はそうかもしれないけど、いつか人間に愛想を尽かす時が来るかもしれないぜ」
「怖いですわ。そうなったら人間にとって大魔王が恐怖の対象になってしまいますわね……」
「ああ……そうならないことを願うよ」
意気消沈した妖精たちに向かってファンクが言う。
「フ〇ック! それから、ここは閉鎖する。今すぐだ!」
太っちょの妖精が、恐る恐る口を開く。
「お、お言葉ですが、それはやりすぎでは?」
「ファ〇ク? お前、口答えすんのか?」
「い、いえいえいえ! 滅相もない!」
「ファッ〇!」
ファンクが左手の人差し指で、ほじりだしたハナクソを『ピン』と放つ。
放物線を描いたハナクソは『カッ!』と、破裂して、妖精の園が紫の炎に包まれる。
禍々しい紫の炎は、一瞬で物体を焼き尽くす。
自慢の楽園が一瞬で消し炭になってしまったのを見て、妖精たちが言葉を失う。
「フ〇ック! お前等ご自慢の楽園なんて、俺のハナクソ以下なんだよ! 所詮、魔法で作った偽りの楽園だ」
「あわわわわ……我々の楽園が……」
「僕たちのユートピア……」
「ファッ〇! もう、パーティできないねぇ……」
妖精たちが好き勝手やってきた楽園は、ハナクソひと粒で消滅した。
これから妖精たちは、ファンクから与えられた新たな持ち場で、粛々と過酷な任務にあたる日々が始まる。
ラルクの父に魔力と記憶を封印され、醜い妖精に姿を変えられてしまったせいで、ファンクは、この楽園で酷い扱いを受けていた。
幾ら記憶が無かったとはいえ、本来は自分の部下である妖精たちに蔑まれた日々は、ファンクにとって屈辱だったことだろう。
しかし、立場は完全に逆転した。
ファンクはニヤリと笑って、妖精たちを一瞥する。
そして満足そうに一言。
「ファッキン・ざまあ!」
留飲を下げたファンクの清々しい表情とは対照的に、楽園を失った陽キャラ妖精たちは途方に暮れている。
ラルクは腕組みしながら苦笑いを浮かべる。
「まあ、仕事をさぼって人間を見下してたんだから自業自得だな」
「ですわね。これを機に心を入れ替えて欲しいものですわ」
とりあえず、迫害されていたファンクの『ざまあ』は達成された。
ファンクは、ホッとしたのか『バフン!』と、元の妖精の姿に戻ってしまった。
ギルバートが尋ねる。
「さっき瓶の匂いを嗅いでましたよね? ひょっとして『酷い匂い』が、封印を解除する鍵になってるんですか?」
「フ〇ック! そうなんだよ。だからオマルの中身を持ち歩くことにしたんだ」
ピピカが「いっそのこと飲み干してしまえばいいでしゅよ」と、そそのかす。
「フ〇ック! 無茶言うなよ! 腹こわしたらどうすんだよ!」
そこでチキが怪訝な顔をする。
「普通、おなかを下すどころか死んでしまいますわ……」
「フ〇ック! ガハハ! ギルバートみたいに『ピーピー』になっちまうぜ!」
ギルバートは不満顔だ。
「なんか失礼ですね。僕は常に『ピーピー』なんかじゃないですよ」
「でも、プープーでしゅ」
「そ、それも失礼だなぁ! もう!」
いつものように下らないことで笑い合っていたところで、ファンクが思い出したように言う。
「ファ〇ク! そうだ! 『おばば』に会いに来たんだった」
ラルクも目的を思い出した。
「呪印解除のヒントを探りに来たんだったよな?」
「ファッ〇! 『妖精界の物知りばあさん』なら、呪印の解除方法を知ってるに違いねえ!」
だが、この辺りの妖精たちは、皆、先ほど処罰してしまった。
「あら。それらしき妖精は居ませんでしたわよ?」
そこで、適当な妖精を捕まえて尋ねたところ、物知りばあさんは、楽園の乱痴気騒ぎに嫌気がさして、離れた所で独り暮らしをしているらしいことが分かった。
「フ〇ック! しょうがねえな。そんじゃ、ばあさんに会いに行くぜ」
それでラルクのスキルの成長を妨げる呪印が解除できれば良いのだが……。