『ざまあ』は続く
まだ復讐しなければならない相手が居る!
ファンクの言葉は、念願の『ざまあ』を達成したばかりで喜びに浸っていたラルクに冷や水を浴びせた。
ラルクが戸惑い気味に尋ねる。
「ファンク、どういうことだ? 誰に復讐するんだ?」
「フ〇ック! お前の親父だ!」
「な!? 俺の親父だと!? いや、しかし、親父はとっくに……」
「ファ〇ク! 生きてんだよ!」
「馬鹿な……親父が?」
ラルクの父はワルデンガの戦いで戦死したとされている。
「ファッ〇! お前の親父、名前は『カロン・アシュフォード』だろ?」
「そ、そうだけど……なぜ知ってる?」
「フ〇ック! お前、親父のことは話したがらなかったな。けど、思い出したんだよ! 封印された時のことを!」
ラルクは信じられないといった表情で呻く。
「ま、まさか……あいつが生きていただと……」
「ファッ〇! 封印されるときに操られたんだよ! あの野郎、今思えばお前と同じテイムで俺を操りやがったんだな」
「俺と同じ……テイムを?」
そこでギルバートが口を挟む。
「ファンクさん! それが事実だとすると、その人間は僕にとっての仇でもあります!」
「ファッ〇! そうだったな!」
「はい! 父上の穴を傷つけた憎き相手です!」
ギルバートの父は、ラルクの父に決闘を挑んだ際に尻の穴を刺されて敗北した。
その結果、当主が恥をかかされ、失踪してしまったヒョターン・ツギィ家はあっという間に没落してしまった。
言葉を失うラルクにファンクが、はっぱをかける。
「フ〇ック! 奴は、お前と妹を捨てたってことだぞ!」
その言葉にラルクが、ハッとする。
ラーソン軍の将軍だった父が亡き後、ラルクの家も一家離散となってしまった。
ラルクや妹のネムが苦労したのもそのせいだ。
ファンクは畳みかける。
「フ〇ック! それと、お前の太ももの裏! あの封印は奴の仕業じゃねえのか?」
「な!? なんだって!? そうだ。忘れてた!」
ラルクは自らに呪印を押すようグランに指示した人間が居ることを思い出した。
この呪印のせいで、ラルクのテイムはレベルが上がらない。
ラルクが「おい!」と、グランを見る。
「え? なんだ?」と、びしょ濡れのグランが間抜けな顔で返事をする。
「お前、何やってんだ? びしょ濡れじゃねえか!」
グランはブタジャキンの汚物魔法でウンコまみれになってしまったので、バルガードの水魔法で身体を洗っていた。
ラルクが顔を顰めながら言う。
「お前、結局、俺に押した呪印のスタンプは見つかったのか?」
「ああ……忘れてた。けど、無かったと思う。多分」
ガーゴイルとの戦いで、それどころではなかったのだろう。
「グラン。じゃあ、お前に依頼した相手は覚えているか? 俺に呪印を押すように依頼した奴だ」
「顔は覚えてる。名前は聞いてないが……」
「思い出せ! どんな奴だった!?」
「いや、言葉で説明するのは難しいな」
「だったら、似顔絵を描け!」
「え? マジかよ……」
ラルクが「紙と何か書くもの……」と、仲間を振り返る。
すると、ピピカが「あい」と、紙とペンを用意した。
「よし! 描け! 出来るだけ詳細に!」
ラルクに詰め寄られて、グランは嫌々、ペンを手にピピカが差し出す紙に絵を描いた。
そして、出来上がった似顔絵……。
「なんだこれ?」と、ラルクが目を丸くする。
はっきりいってグランの絵は下手だった。
5歳児レベルといって良い。
ラルクが「下手くそ」と、グランを睨む。
グランは真っ赤になりながら怒る。
「お、俺に絵を描かせるなよ! お前、俺が下手なの知ってんだろ!」
グランの絵は酷かった。
絵心が無い者に特有の下手なのに全体を描こうとして作画が崩壊するパターンだ。
「へたっぴでしゅねぇ」と、ピピカも呆れる始末。
ラルクが落ち込む。
「これじゃ何の参考にもならない……」
その時、絵を覗き込んだガルバードが変な顔をした。
「な!? それは俺の手帳とペンじゃないか!」
「そうでしゅよ?」と、ピピカが答える。
ガルバードは慌てて胸ポケットに手をやる。
「無い! 嘘だろ!?」
そして、ポケットからはドングリが出てくる。
ガルバードはピピカから手帳を引っ手繰る。
「手帳が! 10年以上、使っている大事な手帳がぁ! おまけに臭くなってる!」
それを聞いてグランが自らの手をじっと見る。
その手には、まだ茶色が少なからず残っていた。
ガルバードは泣き喚く。
「俺のノウハウを詰め込んだ大事な手帳! 手帳がウンコまみれになってしまったぁ!」
一連の成り行きを見守っていたティナが「もう、帰りたい……」と、呟く。
リッツも呆れ顔でコメントする気力すら無さそうだ。
そこで、豚小僧のブタジャキンがファンシーな手鏡を取り出して言う。
「イメージできるなら見れるでブゥ」
「フ〇ック! その手があったか!」
ブタジャキンは「相手の顔を思い出すでブゥ」と、グランを促す。
グランは「分かった」と、目を閉じる。
「思い浮かべたでブゥか?」
「ああ。大丈夫」
「それじゃ……やるでブゥ」
そう言ってブタジャキンは手鏡でグランの頭を『パッコーン』と、ぶん殴った。
「痛って! 何すんだよ!」
文句を言うグランを放っておいて、ブタジャキンが手鏡をラルクとファンクに見せる。
それを見てファンクが声をあげる。
「ファッキン! こいつだ! 間違いねえ!」
ラルクは手鏡に移った中年男の顔を凝視するがピンと来ない。
「これが……親父……」
「フ〇ック! どうした? お前の親父、カロン・アシュフォードだろうが」
「いや、8年も前のことで覚えていない。そう言われてみればそうなのか? という程度で何の感慨も無いよ」
そこでグランが口を挟む。
「あっちは、お前のことを知ってたみたいだぞ?」
「な!?」
グランは肩を竦める。
「お前の能力は危険だってさ。今のうちに成長を封じておかないと、そのうち、とんでもないことになるとか言ってたな」
「なんだと!? それで、お前は俺に呪印を押しやがったのか!」
「いや! 俺だって断ったんだぞ! けど……何か逆らえなかったっていうか……」
「ファッ〇! テイムの能力だな。カロン・アシュフォードの」
「なぜだ? なぜ親父が俺の能力に封印を……」
グランは困ったような顔で言い訳する。
「そんなこと俺に分かるかよ。俺だって最後まで悩んだ。けど、呪われたテイムの能力は、いつかお前を破滅させるとか言われてさ。正直、怖くなったんだ」
「くそっ! 何が何だか! 頭がおかしくなりそうだ!」
動揺するラルクの手をチキが、そっと握る。
何か言いたそうにしながらも、言葉を飲み込んで。
ファンクが一同を見回してから考えを口にする。
「ファッ〇! おそらく、カロン・アシュフォードは、北と西の魔王を配下に置いているはずだ。奴は、この世界を混乱に陥れるつもりなんだろう」
ギルバートが恐る恐る口を開く。
「それって、また戦争が起こるってことですよね?」
「フ〇ック! 間違いなくそうなるな」
ティナが「そんなの嫌よ!」と、訴える。
「どうして? どうして戦争なんて……」
バルガードは、ハンカチでウンコ付き手帳を拭きながら言う。
「今までが平和すぎたんだ。所詮、魔王のパワーバランスが崩れる度に戦争になってしまう程度。かりそめの平和にすぎんのだよ」
ファンクが提案する。
「ファ〇ク! 戦争を回避するためにも、奴を野放しにはしておけねえ! みんなで見つけてフルボッコだ!」
ギルバートが頷く。
「ええ! 父上の仇! 『ざまあ』してやりましょう!」
ラルクは、まだ決心がつかないのか、浮かない顔だ。
「理屈は分かる。止めなきゃいけないことも。親父のせいで俺達が路頭に迷ったことも忘れちゃいない。けど、なんで親父は俺のテイムを封じようとした?」
「ファッ〇! 悩んでも仕方ねえだろ! だったら、とっ捕まえて聞いてみろってんだ!」
ファンクの勢いに押されてラルクが「ああ、そうだな」と、中途半端な返事をする。
「フ〇ック! その為には、お前の呪印を解かないとな! 次は妖精の村に行くぞ!」
チキが首を捻る。
「妖精の村ですって?」
「フ〇ック! ああ。思い当る節があるんだ!」