大魔王の正体
玉座に魔王の姿は無い。
だが、その周りの紫の光と禍々しい空気、音、匂いが、対峙する者の五感を震え上がらせた。
チキはピピカを抱きしめながら恐怖に耐えている。
ピピカも不安そうだ。
ちびりそうなギルバート、ラルクの表情も硬い。
グランとガルバードは床に額をこすりつけ、ひたすら平伏している。
リッツとティナは硬直して、ひたすら涙を浮かべるしかない。
まるで、前触れのサイレンのような『ヲォオオン!』と、いう音に続いて魔王の言葉が頭上から降ってくる。
『去れ! さもなくば、地獄の苦しみを与えん!』
そこでファンクが、パタパタと飛んで皆の前に出た。
「フ〇ック! おい! ブタジャキン!」
皆の目が点になる。
こいつ、魔王に向かって何をしてくれるんだ? 怒らせたらまずいだろう?
皆の言いたいことは同じだった。
しかし、ファンクは気にも留めない。
「ファ〇ク! てめえ、随分なお出迎えじゃねぇか? お?」
緊張と焦りで固まる面々。しばしの沈黙……。
『あわわわ! そ、その声はファンク様!』
今の言葉は上の方から響いてきた。
だが、その甲高い声に誰もが違和感を覚えた。
ぱっと明かりがついて、振動と音が止んだ。それと同時に不穏な空気は消え失せた。
気付くと、玉座の背もたれに誰か居る!
「ファ〇ク! 出て来いよ! ブタ小僧」
ファンクに促されて、背もたれに隠れていた誰かが、ひょっこり顔を出した。
ラルクが目を凝らして「子供?」と、怪訝な表情を浮かべる。
「なっ!?」「え!?」「は?」
ラルク一同、グラン一行の誰もが驚きの反応を見せる。
なぜなら、姿を現した魔王は、どうみても半人半豚の少年だったからだ。
ラルクが、理解できないといった表情で尋ねる。
「魔王、だよな?」
「フ〇ック! そうだよ。奴が『南の魔王ブタジャキン』だ」
魔王は10歳前後の少年にしか見えない。
身体は人間、頭が人間と豚のミックスだ。
目がクリクリして美少年風だが、鼻が豚特有の形。
チキが呆れたように言う。
「この子が魔王ですの?」
「ファ〇ク! そうだが?」
「お知り合いですの?」
「フ〇ック! 知り合いも何も、こいつを魔王にしたのは俺だ」
それを聞いてギルバートが疑問を口にする。
「魔王にしたですって? ひょっとして、ファンクさん、記憶が……」
「ファッ〇! そういやそうだな。なんか色々と思いだしてきたぞ!」
その時、グランが、やる気を取り戻して「これなら勝てる!」と、立ち上がる。
魔王の正体が豚小僧だと分かって、急にイキりだすグランに皆がドン引く。
グランは剣を抜いて、豚小僧に向かって行く。
「ぶっ殺してやる!」
ところが、ダッシュの途中で『ズルッ』とすべって転倒して、グランは仰向けに引っくり返る。
グランの足元には茶色い水溜り。泥のようなそれに足元をすくわれたらしい。
「くっそ! なんだ!? これ?」
茶色い水溜りなど、先ほどまでは無かったはず。
まるでそれは、トラップのように急に出現したように見えた。
起き上がろうとしたグランの泥だらけの背中から異臭がする。
グランがそれに気付く。
「うえっ! くっせ!」
匂いはラルク達の元にも漂ってきた。
「う!? こ、これは!」と、ラルクが鼻を押さえる。
チキが顔を顰める。
「臭いですわ! なんだかウンチの匂いがしますわ!」
それを見てピピカは大興奮。
「ンコでしゅ! ンコ踏んだでしゅよ!」
そう言われてみれば、ソレに見える。
「て、てめえ、このっ!」と、立ち上がって剣を振り上げたグランの頭上から、今度は『ぼとぼとぼと』と、茶色い物体が落ちてくる。
まともにそれを浴びながらグランが「くっせ! なんじゃこりゃ!?」と、暴れる。
「ンコでしゅ! ンコの雨でしゅ!」
ピピカは大喜びだ。
バルガードが冷静に分析する。
「これは……召喚魔法! 魔王は『汚物』を召喚することが出来るのか!」
リッツが鼻を摘まみながら怒鳴る。
「このブタ小僧が! なにが魔王だ! ぶっ飛ばしてやる!」
斧のジャンプ斬りで魔王に迫るリッツ。
『バリバリドシーン!』
重厚な電撃音と共に、リッツが雷にうたれた。
空中で黒焦げになって落下するリッツ。
それを見てファンクが呆れる。
「ファ〇ク! 腐っても魔王だかんな。見た目はアレでも、それなりに魔力は持ってるぜ」
ブタ小僧は、ファンシーなピンクの手鏡を取り出して、鏡に向かって喋る。
「姉ちゃん! 急いで来るブゥ! 大魔王さまが来てるブゥ!」
「姉ちゃん?」と、ラルクが首を傾げる。
すると『ボフン!』と煙と共に人影が出現した。
「フ〇ック? 『ブタジャーネ』を呼んだのか?」
煙が消えて現れたのは豚小僧とよく似た女の半人半豚だ。
少年よりは背が高く、女っぽい体つきをしているが、やはり鼻と耳が豚のそれだ。
顔自体は切れ長の目が大きくて可愛いのに残念だ。
あまりの展開に困惑するラルク一同。
ンコまみれのグランとその仲間も話にまるでついていけない。
露出の多いピンクドレスの豚女は、うやうやしくお辞儀する。
「お久しぶりでビュー。大魔王様」
次いで魔王の豚小僧がモジモジしながら頭を下げる。
「お、お、お久しぶりでブゥ。大魔王様」
どういうことか二人とも『大魔王様』という単語を口にした。
そして尊敬の念をもって挨拶してくる。
その視線の対象は……話の流れからいっても……。
ラルクが驚愕する。
「だ、だ、だ、大魔王!? ファンクが!?」
そこでギルバートが「あっはっは」と、大笑いする。
「いや、まさか! 『大魔王』は無いですよ。一瞬、そう聞こえましたよ? けど、ファンクさんが大魔王だなんて!」
そこで豚女が「失礼でビュー!」と、ギルバートを睨んだ。
次の瞬間、ギルバートの頭上に大きな石が出現して落下した。
『ガコン!』「はぐっ!?」
ギルバートが頭を押さえて悶絶する。
チキも目を白黒させる
「ええええええええっ!?」
ピピカは険しい表情で呟く。
「冗談は顔だけにしろ、でしゅ……」
ラルクがファンクに尋ねる。
「ファンク。お前、マジで大魔王なのか?」
ファンクは尻をボリボリ掻きながら答える。
「フ〇ック! 少し思いだしてきたが……俺、大魔王だった」
脂ぎった醜い中年妖精のファンクは大魔王だった!
それは、南の魔王の正体が豚小僧だったことよりも、はるかに衝撃的な事実だった。




