ギルバート、覚醒!?
ギルバートは入り口にラルク達を残して、ズカズカと室内に足を踏み入れる。
そして適当な所で足を止めた。
「いきますよっ!」
ギルバートは足を開き気味に中腰となり、両手を横に突き出して構える。
迫る鎧兵の第一波。6体がギルバートを囲み、包囲網を狭めてくる。
固唾をのんで見守る入り口の面々。
一寸の間があって『ブリッ、プゥ……』と、屁の音が響く。
続いて、ピンク色のガスが広がった。
ギルバートの周りに集まってきた鎧兵6体はガスに触れる。
ピンクのガスは相手をメロメロにする効果がある。
「フ〇ック! 催淫ガスか!」
ラルクが頷く。
「みたいだな。けど、この後どうする気だ?」
ピンクのガスを吸った鎧兵は、『ガッシャン、ガッシャン』と音を立てながら、我先にギルバートに纏わりつこうとする。
そこでギルバートが叫ぶ。
「みんな~! 僕を守ってぇ!」
その言葉通りに6体の鎧兵は、ギルバートを囲むように円陣を組んだ。
円陣の真ん中でギルバートが「はぁああああ!」と、気合を入れる。
そして、再び『ブップッピ、プゥ』と、ガスを放つ。
今度は『赤の屁』だ。
赤いガスは吸った者がバーサーカーのように暴れまわる興奮作用がある。
6体の鎧兵は、くるりと円の中心に背を向けると、外側に向かって戦闘態勢を取った。
これでギルバートを中心に360度、迎撃できる陣が完成した。
「フ〇ック! なるほどな! あいつ、敵を取り込んで盾にするつもりだな」
「ああ。しかも赤の屁で鎧兵は、近付くものを見境なく攻撃する」
「ファ〇ク! おまけに赤は攻撃力も上がるぜ!」
「なるほど考えたな。攻守を兼ね備えた陣形だ。これぞ、『ギルバート・シフト』!」
ファンクとラルクの興奮気味の解説にチキとピピカが呆れる。
「あらあら。本当にうまくいくのかしら?」
「オナラしてるだけでしゅ」
チキ達の心配をよそに、ギルバート・シフトは立派に機能した。
第二波の鎧兵は、円陣を取り囲んで剣で攻撃しようとするが、ギルバート側の鎧兵のほうが、圧倒的に手数が多い。
『ガッチャ、ガッシャ』と、鎧兵同士が激しく交戦する。
円の中心でギルバートが檄を飛ばす。
「みんなぁ! 負けるな!」
そして、今度は緑のガスを放屁する。
ラルクが感心する。
「なるほど! 味方になった鎧兵を回復するのか! それなら幾らでも戦える」
「ファ〇ク! 完璧な布陣だぜ! すげえぞ! ギルバート!」
ラルク達の盛り上がりを奇異の目で見守っていたグランが呟く。
「何だこれ?」
そこで血気盛んなリッツが「負けてられっかよ!」と、近くの鎧兵に向かってダッシュする。
リッツは「鬼神兜割!」と、ジャンプ攻撃で鎧兵の頭上から斧を振り下ろす。
『ガッキィィン!』「ぐわっ!?」
当たったと同時に、リッツは弾き飛ばされる。
「下がれ! リッツ!」と、バルガードが炎の魔法を放つ。
『ゴオオオッ!』と、火柱のような炎が鎧兵を包む。
だが、それも鎧兵の剣の一振りで消し飛んだ。
ティナが悲壮な声をあげる。
「駄目よ! 私達の攻撃では無理よ!」
バルガードが片膝をついて項垂れる。
「くそっ! やはり、さっきのガーゴイルより強い……」
鎧兵1体に、まるで歯が立たないグラン一行。
グランは顔面蒼白だ。
「こんなの無理だろ……」
それに対してラルク達はギルバートの活躍に『良かった良かった』と、お祝いムード。
時折、はぐれ鎧兵がラルク達に向かってくるが、チキが溶岩のゲロを引っかけて鎧を溶かし、中の寄生虫ごと焼き払う。
「フ〇ック! チキ! 今日は調子いいな!」
「ええ。栄養ドリンクを、たっぷり飲みましたの」
ラルクが鎧兵の溶けた鎧を眺めながら唸る。
「いつにも増して威力がエグいな」
「ダーリンに褒められて嬉しいですわ! きっと胃の調子が良いからですわね!」
そうこうしている間にも、ギルバート・シフトは迫りくる敵を着々と駆逐しつつあった。
もちろん、中のギルバートは無傷だ。
やがて勝敗は決した。
魔王軍の鎧兵団は全滅した。残ったのはギルバートに取り込まれた6体だけだ。
一息ついたギルバートが笑顔で言う。
「みんな、お疲れ様。ゆっくり休んでね」
そして、『ぷぅうう』と、水色のおならを出す。
水色のガスは睡眠の効果。鎧兵達は、糸が切れたように倒れた。
ピピカがクスリと笑う。
「ご褒美の『ぷぅ』でしゅ」
「嫌ですわね。なんだか臭そう」
チキは指を鼻の孔に押し当てて顔を顰める。
凱旋したギルバートをラルクとファンクが迎い入れる。
「すごいぞ! ギルバート! 覚醒したんじゃないか?」
「ファ〇ク! こいつ、一皮剝けやがった!」
「いやあ、それほどでも。うまくいって良かったです」
ギルバートは謙遜しながらも嬉しそうだ。
流石にチキも褒める。
「お漏らし君にしては上出来ですわ。頭脳プレイですわね」
「おならしてただけでしゅ」
ピピカだけは半笑いでギルバートを見る。
大盛り上がりのラルク一行。
それとは対照的にグラン一行は、お通夜状態だ。
勢いに乗ったラルクは早速、部屋の奥に目を向ける。
「よし。じゃあ、魔王の面を拝みに行くか」
「奥に玉座がありますわね」
ギルバートが目を凝らしながら首を傾げる。
「誰もいないようですけど?」
「ファッキン! 変だな。留守なのか?」
ラルクは暢気に言う。
「玉座を蹴とばして騒いでれば、出てくるかも?」
そのまま奥に向かおうとするラルクを見てグランが止めに入る。
「ちょっと待て! お前等の実力は認める。もしかしたら魔王と戦えるかもしれない。けど、相手は魔王だぞ? 大丈夫か?」
ティナも同意する。
「そうよ! 無理しなくて良いんじゃない? だって、魔王を倒さなくても平和なんだし」
しかし、ラルクは首を振る。
「いや。そうもいかないんだ。どうもハミマ共和国が戦争を再開しようとしているらしい」
その言葉にグランとティナが驚く。
「な、なんだと!? それは本当か!」
「嘘でしょ? 私、ハミマで公演、決まってるんだけど?」
バルガードは厳しい表情で頷く。
「ラルクの言う通りだ。ハミマ軍は戦争に向けて準備している」
ラルクがファンクから教わった知識を使って説明する。
「人間界の戦争は、もともと魔王の代理戦争なんだとさ。東西南北の魔王のパワーバランスが崩れた時に戦争が起こる」
グランは目を丸くする。
「ちょっと待て! 魔王って、他にもいるのか?」
「いるよ。ラーソンには南の魔王がついてる。もしかしたらハミマの動きは、南の魔王が、さぼっているからかもしれない」
そう言ってラルクは玉座を睨みつけた。
「フ〇ック……思いだしたぜ。俺、『ブタジャキン』に用があったんだ」
「ああ。初めて会った時か。確かにファンクは魔王のところに向かってるところだったな」
「ファ〇ク、そうだ。で、逃げてきたお前とぶつかった」
チキが不思議がる。
「何の用がありましたの? 妖精が魔王に会いにいくなんて……」
「フ〇ック! それがどうしても思い出せねえんだ!」
と、その時、『バン』と室内の明かりが落ちた。
一呼吸おいて玉座の上に薄紫のオーロラが出現して、周囲を怪しく照らした。
生臭い風。得体のしれない低振動に包まれる。
まるで、亡者の合唱隊のように、重なり合った叫びが耳鳴りとなって神経を逆なでる。
あまりの禍々しさにグラン達は金縛り状態だ。
ギルバートもお腹を押さえて、しゃがみ込む。
「お、お腹が痛いっ! 何かが出ちゃいそうですっ!」
チキが「出すな!」と、蹴っ飛ばす。
どこからともなく、威圧感のある声が響く。
『我の安息を邪魔する不届き者は、お前等かっ!?』
「ひえぇええ! 滅相もない!」
ギルバートが求められてもいないのに自主的に土下座する。
思わずグランとバルガードも平伏す。
ティナとリッツは足をガクガクさせながら立ち尽くす。
チキはラルクの腕にしがみつきながら「出たわね……」と、前方に注視する。
流石のラルクも緊張を隠せない。
「こ、これが魔王……存在感だけでも圧倒されるな」




