玉座への道のり
魔王城の最深部の床に描かれた魔法陣。
これで魔王の玉座に行くことが出来るのは4人までだ。
グランが一歩前に出る。
「ああ、これこれ。ここでお前を置いて行ったんだっけ?」
グランの挑発に対してラルクは無言で睨み返す。
ガルバードが手帳と魔法陣を見比べる。
「一回きりしか使えないわけではない。どうやら、一定時間が経過すると元に戻る仕組みのようだ」
それを聞いてラルクが呟く。
「この魔法陣、復活するのか……知らなかった」
半年前に、そのことを知っていたら、どうだったろう?
あの追放劇は無かったかもしれない。
そこでグランが尋ねる。
「で、一定時間ってどれぐらいだ?」
「フム、大学の図書館で見つけた記録によると……約13時間だ」
グランが、ふてぶてしく言う。
「そんなにかかるのか? それじゃ、どっちのパーティがこれを使うか決めなきゃな?」
グランの煽りをラルクが鼻で笑う。
「フン。ここで決着をつける気か? 気が早いな」
ピリッと緊張がはしったところでファンクが口を挟む。
「フ〇ック! お前等、そんなもの争ってどうする? あっちに階段あるぞ?」
その言葉に全員が「は?」と、目が点になった。
ファンクはパタパタと羽音を立てながら説明する。
「ファッキン・分かりにくい位置にあるけど、階段を2階分上がれば玉座のフロアだぜ?」
ラルクが驚愕する。
「な!? たったそれだけしか移動しないのか?」
バルガードは落胆する。
「なんということだ。転移の魔法陣とは何だったのか……」
ギルバートが素直すぎるコメント。
「え? じゃあ、ラルクさん達は、階段で行く人を決めるために仲間割れしたってことですか?」
「間抜けでしゅねぇ」
事実を知ってラルクは天を仰ぐ。
「そんな……そんな盲点が……」
「ファ〇ク! みんな歩けばいいじゃねえか。すぐだぜ」
ファンクに促されて一同がゾロゾロと複雑な表情で続く。
バツが悪そうなグラン組の面々。
くだらないことで追放されてしまった『やるせなさ』に脱力するラルク。
チキがファンクに尋ねる。
「どうして階段があることをご存じでしたの?」
「ファッ〇? さあ、何度か来たことがあるからじゃねえか?」
ファンクは他人事のようにそう言うが、妖精が魔王の城に出入りする理由が分からない。
ファンクの言った通り、分かりにくい場所に階段があった。
それを黙々と上る一行。
そして、上の階に出た。
「まあ! これは!」と、チキが目を見張る。
テンションが下がってしまったラルクが、つられてチキの視線の先を見る。
すると、目の前では王宮のように立派な廊下が、ずっと先まで伸びていた。
真っ青な絨毯が、道のように続いている。
ギルバートが唸る。
「ううっ! 我がヒョターン・ツギィ家より凄いかも……」
等間隔で並ぶ豪華なシャンデリアの下を淡々と進む。
両側の壁に施された装飾や絵画、彫刻はどれも美術館級の高価そうな物だ。
しばらく進むと前方に大きな開き扉があるのが目に入った。
扉の両側には大きな石像が対になっている。
そこでグランの足が止まった。
「クッ! やはりアレが……」
リッツは斧をぎゅっと握り締め、ティナは身構える。
強張った表情のバルガードにラルクが尋ねる。
「どうした? 何を警戒してる?」
バルガードはゴクリと唾をのんで答える。
「あのガーゴイルの石像……アレが動くんだ」
「は? 何を言っている?」
「お前は前回、居なかったから教えてやるが、あのガーゴイルは、かなり手強い。我々はアレを倒せずに撤退せざるを得なかった」
バルガードの説明にラルクが呆れる。
「なんだ、お前等? 魔王の姿すら見てないのか?」
「ああ……そういうことになる」
「情けないオムツ君でしゅ」
ピピカがそう言った次の瞬間、石像がピクリと動いた。
「ひっ!?」と、チキが後ずさる。
石像の目が赤く光ったのを見たからだ。
ガーゴイルの石像は『ゴキゴキ』と硬そうな音を立てて動き出したかと思うと、一気に羽を広げて、こちらに向かって飛んできた。
グランが叫ぶ。
「来るぞ! 俺達は右をやる! ラルクは左をやれ!」
「フン。なんでお前に指図されなきゃならない? まあ、いいけど」
ラルクは仲間を伴って廊下の左に寄りながらガーゴイルを迎え撃つ。
おそらく、ガーゴイルは魔王の玉座に続く道の番人なのだろう。
侵入者を見つけたら無条件で攻撃してくるらしい。
ラルクは正面に立って、接近してくるガーゴイルと対峙する。
「ま、一応、真面目にやるか」
『ガァアア!』と、最初の一撃は鋭い爪を持った右の引っ掻きだった。
それをラルクは、ひょいと躱す。
左のガーゴイルは、立て続けに左右の腕を振るブンブン攻撃を繰り出す。
それを眺めながら、「まあまあのスピードだな」と、ラルクは感心する。
余裕があるので、グラン達の戦いぶりも、ついでに観察する。
グラン達は『ワーワー』叫びながら、右のガーゴイルと戦っている。
リッツが斧攻撃の奥義を繰り出して、グランが剣で斬りこむ。
ガルバードの氷の魔法が撒き散らされ、ティナはひっきりなしに回復の魔法を仲間にかけている。
みんな必死の形相で、激しく動き回っている。
だが、ガーゴイルは飛び回りながらグラン達の攻撃を巧みに避け、カウンターで引っ掻きブンブン攻撃を繰り出してくる。
「うあっ!」とか「ぐうっ!」とか、一方的に削られているのはグラン達のほうだ。
ガーゴイルは小回りが利いた飛行で狭い空間を自由自在に移動し、優位を保っている。
一方、左のガーゴイルも動きは似たようなものだが、ラルクに軽くあしらわれている。
チキがポシェットに手を突っ込みながらファンクに尋ねる。
「こいつの弱点属性はなんですの?」
「ファッキン・氷属性に弱い!」
「承知しましたわ!」
左のガーゴイルは、時折、他のメンバーを攻撃しようとする。
だが、ラルクが小まめにテイムでそれをキャンセルするので、攻撃はまるで当たらない。
にもかかわらず、ギルバートは頭を抱えてピピカの後ろに隠れようとしている。
「情けないでしゅね」と、ピピカは呆れ果てている。
ガーゴイルはチキを標的に変えて急接近する。
そこでチキが『ぼええックシュン!』と、氷のゲロを撒き散らした。
『グゲェエ!』と、左のガーゴイルは氷のゲロを顔面に喰らって仰け反る。
そこに『ガゴッ!』と、ラルクの木槌が炸裂!
陶器が割れるような『バキャッ!』という音がして、ガーゴイルの頭部が破壊される。
頭に致命傷を負ったガーゴイルはそのまま倒れて動かなくなった。
どうやら石像に戻ってしまったらしい。
その様子を見守ってからラルクは、苦戦するグラン達に声を掛ける。
「おーい。まだか?」
グランがラルクをチラ見して驚く。
「嘘だろ!? もう倒したってのか?」