勇者グランの近況
ついにグランを発見した。
ラルクを追放したパーティのリーダーにしてラルクの元親友。
「見つけたぞ……」
ラルクの目がカウンター席の奥に注がれる。
だが、様子がおかしい。
コップ片手にカウンターに突っ伏している男が本当にグランなのか確信が持てなかった。
ラルクとチキが顔を見合わせる。
そして、ラルクが近づいた瞬間、男が『ブッ』と、屁をこいた。
「うっ!? こいつ……」と、ラルクが顔を歪める。
フレッシュな屁の臭さも、さることながら、酒の匂いと身体を洗っていない人間特有の香りが鼻をつく。
「おい! グラン」と、声を掛けてみるが反応は無い。
「グラン! グラン・マクレガー! 探したぞ!」
そう言ってラルクがカウンターを『ドン!』と、叩く。
すると、その振動で目を覚ました男が、ゆっくり顔を上げた。
「うっせえな……クソが」
髭も髪も伸び放題の薄汚い男。
ラルクと同い年のはずなのに中年男のようにしか見えない。
「グラン! 俺を忘れたとは言わせないぞ!」
男の目が半分開く。
「ラルク? ラルクか?」
ラルクは冷たい目でグランを見下ろす。
だが、グランは急に元気になった。
「ラルクか! 久しぶりだな。会いたかったぞ」
「……会いたかっただと?」
ラルクの冷めた反応にグランが肩を落とす。
「うっ……そ、そうか……怒ってるよな……やっぱり」
グランの薄汚れた服装を見れば、現状が分かる。
ラルクが憐れむような顔つきで言う。
「落ちぶれたもんだな……グラン」
その言葉にグランは「うう……」と、項垂れた。
そこでチキがラルクの隣に来る。
「ダーリン、この人がそうですの?」
ラルクは無言で頷く。その表情は冴えない。
まるで、怒りのぶつけどころを失ったみたいに、顔を歪めて首を振る。
「なんだよ……それ。俺はお前に……」
後の言葉が続かない。
チキはラルクの横顔を心配そうに見つめる。
そして、何か言いたそうにするが、ぐっと我慢する。
ラルクは「くそっ!」と、吐き捨てて髪を掻きむしった。
「落ちぶれやがって! 勝手に落ちぶれやがって!」
グランは虚ろな目でラルクを見上げている。
そこには勇者の面影はみじんも無い。
「ダーリン……もう、よろしいのでは」
「良くない!」『ドン!』
ラルクがカウンターを叩きつけるのを見て、店の男が注意する。
「おいおい。もめ事なら外でやんな!」
ラルクは唇をかみしめ、頭を抱える。
そして急にグランの方を見て、彼の手を掴んで強引に立たせた。
「な、なんだ?」と、戸惑いながら手を引かれるグラン。
ラルクは店の外にグランを引っ張り出して怒りをぶつける。
「やっと見つけた復讐の対象者がこのザマだと!? どうしろっていうんだ!? 何のためにお前を捜したんだ? ふざけるなよっ!」
「あ、あ……ごめん。あの時は悪かっ……」
「謝るな!」
ラルクは拳を握り締める。
店の表でやり取りしている所にファンク達が合流する。
ラルクの剣幕にギルバートとピピカは引き気味だ。
「それと! お前、俺に封印術をかけやがったな?」
「え? 何のことだ?」と、グランが驚く。
「とぼけんな! 太ももの裏だ! 術式を彫っただろ!」
「あ! あれは……ある人に頼まれて……あれ?」
首を傾げるグラン。
「あの術式のせいで俺の能力が進化しないんだぞ! どうしてくれる?」
「い、いや! 俺も嫌だって断った、はずなんだけど……」
「消せ! どうやったら封印の術式が消える?」
「わ、分からない」
「なんだと!? だったら、どうやって彫った?」
「確か、筒みたいなものを押し付けてつけたような気が……」
「嘘つけ!」
「ほ、本当だって! なんか妙な筒でスタンプしただけなんだ……」
「ファッキン・筒だって!? 見せてみろ! 解除の仕方が分かるかも?」
「出せ! 早く!」
「そ、それが……落としちまった。魔王の城に」
「はぁあああ!?」
ラルクが頭を抱える。
「くそ……くそったれ……」
激しく苦悩するラルクに誰も声を掛けることが出来ない。
チキ達が見守る中、ラルクが考え事をする。
そして、熟考の末、出した答えが……。
「よし! 行くぞ! 魔王の城に」
「え!?」「は?」「ファック!?」「あい?」
ラルクが力強く頷く。
「よし。競争だ! どっちが先に魔王を倒せるかで勝負する! どちらのパーティが優れているか、見せつけてやる!」
きょとんとしていたグランが口を開く。
「ど、どういうことだ?」
ラルクは説明する。
「お前のパーティを再結成するんだ。バルガード、リッツ、ティナを呼べ!」
「へ? いや、あいつ等とはもう……」
「居場所は分かっている。それに俺が言えば集まると思うぞ?」
「そ、それはどうかな? みんな、半年前に引退して……」
「3人とも俺が『ざまあ』した。声を掛ければリベンジのために参加するだろう」
「でも、そんな……無理だ。今更みんな……」
それでも『でもでもだって』のグランに業を煮やしたラルクが冷たく言う。
「だったら、お前、独りで魔王城に殴りこむことになるぞ?」
「そ、それは勘弁してくれ!」
「なら、やるしかねえだろ? 早速、奴らに連絡しろ!」
ファンクが首を竦める。
「フ〇ック……そういうことか」
「どういうことですの?」
「ファ〇ク! ラルクは自分を追放したパーティを復活させようとしてんだよ。今の落ちぶれたあいつに『ざまあ』しても気分は晴れないからな」
チキが泣きそうな顔で呟く。
「分かるような気もしますけど……」
ギルバートはウンウン頷きながら言う。
「分かります。憎き相手を倒してこその『ざまあ』ですもんね」
「ファ〇ク! 追放されたトラウマを払拭するには、もう一度、あの男を奮い立たせるしかねえ!」
追放という屈辱で傷ついた魂は、完全なる『ざまあ』でしか救済できない。
その為にラルクは、グランにパーティを再結成させて、あの時の状況を再現しようとしているのかもしれない。
そして一行は、因縁の魔王討伐に向かう。