ハミマ軍の企み
ファンクがスパイ活動している間に船は出航してしまった。
陸を離れて、しばらくするとファンクが戻ってきた。
「フ〇ック! この船、ワルデンガに行くみたいだぜ」
ラルクが驚く。
「え!? ワルデンガ島? そっか……失敗したな」
ギルバートが溜息をつく。
「ワルデンガ島はハミマ領ですよ。ラーソンの方がずっと近いですけど」
「そうですわね。そこから先、ラーソン行きの船を見つけないとなりませんわ」
「フ〇ック! それよか問題は行き先だ。どうやらこの積み荷を南に降ろすんだとよ」
チキが眉を顰める。
「え? それは条約違反では?」
ギルバートも怪訝な顔。
「島の南側に砲台などの武器は持ち込めないはずですよ? ハミマ軍は何を考えているんでしょう?」
ワルデンガ島は、ラーソンから1キロほど沖に位置する島だ。
当然、昔からラーソンの領土であったが、8年前のワルデンガの戦いに勝利したハミマが現在は実効支配している。
ラルクは、あまり歴史や社会情勢に興味がない。
「で、何か不都合でも?」
「ありますわよ! 不都合も何も、ワルデンガ島の南はラーソンと目の鼻の先ですわ。あそこが軍事要塞化されてしまうと危険なことになってしまいますことよ」
「フ〇ック! ラーソンの現国王はヘタレだから今の状況を許していたけどよう、本格的に軍事要塞化されちまうと、流石に見過ごせんわな」
ギルバートは頭を抱える。
「このままじゃ、戦争待ったなしじゃないですかぁ!」
8年前のワルデンガの戦い。
ラルクの父親が行方不明となった海戦だ。
「ダーリンのお父様も、ワルデンガの戦いで犠牲になられたのですわよね?」
「あいつのことはどうでもいい。興味も無い」
「私の父上が申しておりましたわ。酷い戦いだったって」
「僕も学校で習いました。味方の艦が同士討ちになってしまったんですよね」
「そうですわ。圧倒的に有利な状況が覆ってしまったのですわ。それも裏切りで」
チキの言葉にラルクが首を傾げる。
「裏切りだって?」
「ええ。父上から聞いた話ですけど、旗艦の艦長が乱心で味方に無差別砲撃してしまいましたの」
「ファ〇ク! そりゃ、酷えな」
「地獄絵図だったそうですわ。霧の中、敵味方も分からず大砲を撃ち合ったんですもの。結局、自滅してしまったのも無理もありませんわ」
ギルバートが力なく首を振る。
「情けないですよね。結局、それでハミマに島を占領されて、停戦条約後も返還されることはなかったんですから……」
ファンクが腕組みしながら首を竦める。
「ファッ〇。人間同士の争いなんて、所詮、魔王の代理戦争だかんな」
「え? それはどういうことですの?」
「フ〇ック! お前らが習った歴史には真実が書かれていないだけで、古今東西、魔王が裏で糸ひいてるんだよ」
ギルバートが信じられないといった様子で呟く。
「そんな……それは事実なんですか?」
「ファ〇ク! 事実も何も、ラーソンには南の魔王、西の魔王はハミマ、北の魔王はサブン連邦がついてる。東の魔王は女だから勢力争いは好きじゃねえけどな」
ラルクが、「なるほどな」と、納得した顔で言う。
「東ってことはパプラとかマニ、サリーエフの辺りか」
「ファ〇ク! そうなるな」
ギルバートが不思議そうな顔をする。
「ファンクさんは何でそんなに詳しいんですか?」
「ファ〇ク? あれ? なんでだろうな? 妖精だからか?」
「というか、あなた何歳ですの?」
「フ〇ック! 忘れた! ガハハハ!」
ラルクが苦笑いを浮かべる。
「記憶喪失だからしょうがない。まあ、妖精だから何百歳でも驚かないけどな」
夜の海を貨物船は淡々と進んだ。
積み荷の隙間に隠れてラルク達は夜を過ごした。
食料と水は最小限持ち込んでいたので、退屈なことを除いて不自由はない。
どれぐらい経っただろうか。
ラルク達が一寝入りしているとファンクの声で起こされた。
「ファ〇ク! 陸が見えて来たぜ!」
ラルクが目をこすりながら小さな明かりの列を見る。
「あれがワルデンガ島かな?」
「フ〇ック! おそらくはな! このまま迂回して南に回るつもりなんだろ」
しばらく島の海岸線を眺めていたラルクが閃く。
「そうだ。この船、奪ってしまうか?」
「ファ〇ク? マジかよ」
「ああ。ギルバートの屁で乗組員を眠らせればいい」
「ファ〇ク……そうだな。乗組員は2人しか乗ってねえから簡単だな」
「そのままラーソンの港につけよう。そこでこの船を乗り捨てればいい」
眠そうなチキが目を瞬かせる。
「あら、大砲を積んだ船で乗り込むなんて……」
ギルバートは反対する。
「そうですよ! 密輸だと思われますよ! 逮捕されたらどうするんです?」
「捕まらなきゃいいだろ。というか、むしろ、見つかった方がいい」
「えっ? どうしてですの?」
「この船がラーソンに着いたとなると大騒ぎになるだろ? 大砲を大量に積んでるんだ。流石にラーソン軍も警戒するはずだ」
「ファ〇ク! なるほどな! ハミマ軍の企みを王立軍に知らしめるってことか!」
「そうだ。仮に俺達がこの船を沈めたとしても、ハミマ軍の動きは止まらない。だったら、ラーソン軍に警告して、守りを固めるなり、調査するなりの対策を促す」
「さすがダーリンですわ! 一石二鳥ですわね!」
「ドングリ一個で食べ物ふたちゅでしゅ」
ピピカも起きていたようだ。
ファンクの情報通り、船は真っすぐ島には向かわず、島を迂回する形で進む。
貨物船は、前方が操舵室で後ろが積み荷を載せる構造になっているので、乗組員に気付かれずに操舵室に接近するのは簡単だった。
船は島の輪郭をなぞるような形で島の南方面へ向かう。
1時間ほど経過したところで作戦を実行する。
乗組員2名が居る操舵室の近くに移動して機をうかがう。
「よし、やれ」
ラルクの合図でギルバートがきばる。
尻にあてがった布袋に『プゥゥゥ』と、ガスを注入。
ドングリを持ったファンクが操舵室の窓に近付く。
ピピカのスキルでドングリとギルバートのガス入り布袋を強制交換!
ガス入り布袋は無事に操舵室に放り込まれた。
ファンクがパタパタと戻ってくる間に、操舵室の窓から水色のガスが漏れだしてくる。
「ファ〇ク! 大成功だぜ!」
狭い操舵室のことだ。眠りの効果がある水色のガスで乗組員は確実にダウンしているだろう。
ラルクがギルバートに指示する。
「よし。あとの操縦は頼む。俺達はあそこに入れないからな」
「ええっ!? 僕、船の操縦なんて出来ませんよ?」
「フ〇ック! お前がやんなきゃ誰がする? 操舵室は汚染されてるんだぜ? お前以外はみんな眠っちまうだろうが!」
「汚染って、酷い言われようですね。けど、僕にできるかなぁ?」
不安そうなギルバートの肩にラルクが手を置く。
「そのためにギリギリまで待ったんだ。頼むよ」
しぶしぶギルバートが操舵室に乗り込む。
それを甲板から見上げる形でラルク達は船の進行方向に注目した。
船はワルデンガ島の南を背に、ラーソンの港に向かっている。
魔動力で動く船はモーターの音が小さい為、波の音が良く聞こえる。
そこそこの速度を維持しながら船は、どんどんラーソンの港に接近する。
「ギルバート! そろそろスピードを落とせ!」
ラルクが下からそう呼びかけるが、操舵室の窓から顔を出したギルバートが「無理ですっ!」と、悲鳴のような返事。
「なにしてますの! ぶつかってしまいますわ!」
「ファ〇ク! おい急げ! 速度を落とせってば!」
見る間に、夜の港が肉眼でもはっきり捉えられる位置まで来ている。
「ギルバート! 止めろ!」と、ラルクが焦る。
「無理ですってば! スイッチ多すぎ! あああああ!」
みるみる内に波止場が迫って来る。
なのに船の速度はそのままだ。いや、むしろ加速しているように感じられた。
流石にラルクも衝突を覚悟した。
「駄目だ! ぶつかるっ!」




