バルガードの誤算
薄々は勘づいていたが、バルガードの本音を耳にして怒りが込み上げてきた。
ラルクが不敵に笑う。
「安心したよ。お前が変わらずのゲス野郎で。そうでなくちゃ『ざまあ』する意味がない」
バルガードが呆れたように言う。
「何だ? お前、本気で俺に復讐するつもりなのか? 無理だね!」
ラルクは「それはどうかな?」と、戦闘態勢に入る。
といっても、いつもの携帯木槌を取り出しただけだ。
バルガードは勝ち誇ったように宣言する。
「ひとりで十分。既に、お前等の戦力は把握した」
バルガードが得意げに自らの分析結果を披露する。
「そっちの女は火を吹く能力、貴族かぶれの『おぼっちゃん』は電気を身に纏う能力だな? おそらくは電気を帯びやすい体質なんだろう」
チキとギルバートが『?』と、顔を見合わせる。
バルガードは続ける。
「ラルク、お前のテイムは相変わらずだな。たった3秒しか持たない。せいぜい『モンスター』を足止めする程度だ。それから、そっちのちびっ子は……奇術か? タネは分からんが、子供だましだ。あるいは幻術か」
ラルクは苦笑い。ピピカは含み笑い。
バルガードはファンクを指さす。
「そっちの妖精まがい! お前の能力は、尻から油を垂らすだけ。ハッハッハッ! 笑わせる! そんなチンケな仲間が勇者パーティより上だって?」
ガルバードの『とんちんかん』な分析にラルク達は呆れ果てている。
だが、当の本人はまるで気付いていない。
「お前等なんて俺の黒魔法で瞬殺だよ。秘密を知る者には消えてもらうしかなかろう」
ガルバードの盛大な勘違いっぷりにファンクが、やれやれと首を振る。
「フ〇ック……あいつ、大丈夫か?」
ラルクが半笑いで突っ込む。
「ガルバード。お前、少しは利口だと思ってたが、意外とバカなんだな」
「な、な、なんだと!? ラルクッ! お前に見下されるいわれはないっ!」
「けど、お前の策略なんてバレバレじゃねえか」
「ふざけるな! たまたま気付いたからといって、いい気になるな!」
「いや、訓練生が行方不明だなんて、最初から嘘だと分かってたぞ? だって士官学校の学生が呑気にお前の授業を受けていたのを見たからな。もし行方不明騒ぎが本当なら、それどころじゃないはずだ」
「あ!? そ、それはっ! しまった!」
「バルガード。お前、間抜けだろ?」
ピピカがケラケラ笑いながら指をさす。
「アホでしゅ! クズでしゅ、アンポンタンのムッツリスケベのインキンタムシでしゅ!」
バルガードは激怒する。
「くっ! 俺を、俺様を侮辱するなぁ! ぶっ殺すぞ!」
そこでムシャムシャとドラゴン草を食べて飲み込んだチキが「ぼえ、ヘックチ!」と、クシャミでゲロ混じりの唾を飛ばす。
それがガルバードの周りで『ババババン!』と、小爆発を起こす。
「うぉっ!? 熱っ! なんで爆発したっ?」
チキは口に含む草を氷結草に変えて、再び『ゴックン、ぼええ、ハックシュン』のコンボで氷の魔法を飛ばす。
「ひゃっ! 寒っ! 冷たっ! て、それ、魔法!?」
ガルバードはオーバー・リアクションで混乱している。
その間にギルバートが無言でポケットに入っていた紙をクシャクシャと丸めて尻にあてがう。
そして小さく『プスッ』と、屁を浸み込ませてピピカの前に差し出す。
意図を察知したピピカが「えい」『ポフン』と、それをガルバードのポケットチーフと強制交換した。
ガルバードは後ずさりする。
「口から魔法? バカな!? 炎だけではないのか? 他の魔法も……臭っ!」
ガルバードの胸ポケットには、ギルバートがガスを仕込んだクシャクシャの紙。
「うわっ、臭っ! なんだか臭いぞ? うえっ、くっさ! 吐きそうだ!」
ピピカが満面の笑みを浮かべる。
「おならのプレゼントでしゅ」
「な!? いったい何が起こってる!? ええい! かくなる上は俺の黒魔術で、貴様らをまとめて葬ってやる!」
原因究明を諦めたガルバードは、半ばヤケクソ気味だ。
ガルバードが右手を頭上に掲げる。
その手のひらに黒いプラズマが出現して『バチッバチッ』と、音をたて始めた。
「フハハハ! もう遅いぞ! 命乞いしても許さん!」
ところが、いくらバルガードが凄んでも誰も反応しない。
怯えるどころか呆れたような顔でガルバードを眺めている。
「なぜだ? なぜ、そんなリアクションなんだ? 黒魔法最強の技だぞ? 死ぬぞ?」
手のひらの黒いプラズマを大きくしながらガルバードは、ラルク達が平然としていることに焦りだした。
「いいのか? 死ぬよ? これ、ホントにヤバいよ?」
そこでラルクが言い放つ。
「早くやれよ、カス!」
「ぐぬぬぬ! どうなっても知らんぞ! デーモン・クライ・イナフ……」
ガルバードは黒いプラズマを投げようと振りかぶった。
そこでラルクが、その動きを真似て投げるポーズを取りながらテイムを発動。
投げおろす右手を自らの股間に持っていってタッチ。グリグリする。
1秒遅れで、それをトレースしたガルバードは当然……。
「ハゥワッ!?」『バチバチバチ』
ガルバードは黒いプラズマを自分の股間に押し付けてしまった!
「グぎゃわぁおうん!」と、言葉にならない絶叫。
股間を押さえて転がりまわるガルバードは、激痛に悶絶する。
「ファ〇ク! あいつ、ポコチンが溶けたんじゃねえか?」
ファンクの台詞に、なぜかピピカが小躍りする。
「ポコチン、ナイナイでしゅ!」
ラルクがガルバードを見下ろしながら説明する。
「残念だったな。俺のテイムは人間相手にも有効なんだ。気付いたのは追放された後だったけどな」
しかし、ガルバードはそれどころではない。
「チ〇コがぁ! チン〇がぁああ!」と、泣き叫びながら股間を押さえる。
ガルバードの悲惨な状況を無言で見守るラルク達。
しばらくして、ガルバードがヨロヨロと立ち上がった。
「ぐ……痛っ……けど、終わってない……」
ガルバードは内またで股間を押さえながら奥の方へヨタヨタと歩いていく
ガルバードが向かった先にはゴンドラがあった。
「クソどもが……」
ゴンドラに手を掛けながらガルバードが何かを操作する。
すると『ズズーン!』と、四方で爆発音が響いた。
続いて大きな振動が生じて、ダンジョンの壁を震わせる。
まるで崩壊の予兆のように小さな石がポロポロ落ちてきた。
ガルバードが憎らしげに言う。
「お前等はここで埋もれてしまえ」
奴はここを爆破して自分だけゴンドラで脱出するつもりのようだ。




