異端者の集まり?
行方不明の訓練生を捜してラルク達はダンジョン内を淡々と進んだ。
途中、分岐点があって、ガルバードが手袋の落とし物を拾い上げた。
「これは訓練生の物だ。ということは……右か」
ラルクが尋ねる。
「なぜ訓練生の物だと分かる?」
「支給品だ。こんなものを落としていくとは、よほど慌てていたに違いない」
ガルバードが先導する形で分岐点を右に向かう。
通路の傾斜からすると、徐々に下に向かっているようだ。
「フ〇ック! 気を付けろ!」と、ファンクが左上を警戒する。
坑道を支える梁の上に、大人ぐらいの大きさの蜘蛛がいて、こちらを見下ろしている。
「ファ〇ク! 闇蜘蛛だ! 毒、吐いてくるぞ!」
「まあ! 下品な攻撃ですわね」
チキの言葉に『お前が言うな』と、皆の内心が一致した。
その矢先に闇蜘蛛が『プッ!』と、毒の塊を吐き出した。
それがピピカに向かって飛んでくる。
慌てるでもなくピピカが、「えい!」『ポフン』と、飛んできた毒の塊を近場に落ちていた石と交換する。
毒は見当はずれの場所で『バシュ!』と、妙な煙を上げた。
ガルバードが目を見張る。
「どうやって避けた!? まるで見えなかったぞ?」
すると今度は最後尾のギルバートが騒ぎ出した。
「や~め~てぇ! 来ないでぇええ!」
振り返ると、拳ぐらいの大きさの子蜘蛛が大量にギルバートの全身に纏わりついている。
何十匹もの子蜘蛛に取りつかれたギルバートは、まるで雪まみれになった案山子のようだ。
「痛いですって! 誰っ? 噛むのは!?」
「ファ〇ク! そいつら肉食だぞ。モタモタしてっと食われるぞ?」
「ひぇええええ! やめてぇ」『プゥウウ』
次の瞬間、ギルバートを埋め尽くしていた集団の隙間から黄色いガスが漏れだした。
パタパタと剥がれて、ぽろぽろと落下する子蜘蛛の大群。
子蜘蛛たちは、もれなく地面で仰向けになって痺れている。
解放されたギルバートが黄色いガスを纏いながらブルブル震えている。
「気持ち悪いですぅ。どうして僕ばかりに寄ってくるんですか……」
「フ〇ック! お前、やっぱ虫とか小せえ生き物が寄ってくる体質なんじゃねえか?」
「違いますよう。あの時は虫を集めようとピンクのガスで……」
ガルバードは、子蜘蛛が痺れてピクピクする様を眺めて険しい顔をしている。
「これは……」
ラルクが周囲を見回しながら首を竦める。
「訓練生の気配がまるで無いぞ?」
ガルバードが頷く。
「ああ。奥の方まで逃げたのかもしれない」
なんの手掛かりも無いまま、一行はさらに奥へと進む。
すると、今度は嫌な地響きが近づいてきた。
ビビリなギルバートが即、反応する。
「なななな、何か来ますっ! こ、怖いっ!」
前方から『ズシン! ズシン!』という足音。
立ち止まって待つ。
ダンジョン内はガルバードの明かりの魔法で見通しが良い。なので直ぐ分かった。
「ファ〇ク! ゴーレムじゃねえか! しかもクリスタル・ゴーレム!」
「なんですの? それは」
「ファッキン・クソ硬いゴーレムだ。こりゃ、魔法だときついぜ」
ガルバードが驚く。
「バカな!? ここは本来、訓練用ダンジョンだぞ? 大したモンスターは出ないはず!」
そこでラルクが「俺がやる」と、前に出る。
「大丈夫なのか? ひとりで?」と、ガルバードが心配する。
だが、ラルクは緩く構えたまま「問題ない」と、言い切る。
ゴーレムは一定の速度を保ちながら、巨体を揺すって周囲を震わせた。
武器も持たずにそれと対峙するラルク。
ゴーレムがラルクの存在に気付いて『ヲォオオン!』と、威嚇する。
落ち着いた様子のラルクは、『コキッ』と首を回して軽く深呼吸した。
そしてテイムを発動!
「ほい!」と、ラルクが顔を右に、両腕を挙げて腰を大きく捩る。
まるで柔軟体操のように、その姿勢で『グッグイッ』と腰に負荷をかける。
1秒遅れで、その動きを強制的に真似させられたゴーレムの図体が『パキッ! バキバキ!』と、軋む。
続いて右の太ももを高く上げて抱きかかえる動きをトレースしようとしたゴーレムが引っくり返る。
しかも無理に足を上げようとしたので『バキバキバキ』と、何かが割れる音がした。
『ズズーン!』と、一段と大きな振動を伴って仰向けに倒れたゴーレムは、やがて動かなくなった。
「凄いですわ! さすが私のダーリン!」
抱き着いてくるチキを適当にあしらいながらラルクが呟く。
「こいつ、ホントに身体、固いんだな」
ラルクのテイムで無理な体勢を強いられたゴーレムは、限界を超えたポーズのせいで致命的な内部破裂を起こしてしまったようだ。
ガルバードが信じられないといった表情で唸る。
「ううむ……テイムにそんな使い方があるとは。この半年で何が……」
しかし、ラルクは素知らぬ顔で「さ、行くぞ」と、スタスタ歩き出す。
長い下りの通路を突き当たったところで広い場所に出た。
どうやら、ここで行き止まりのようだ。
ラルクが立ち止まってガルバードに聞く。
「で? ここが最深部か?」
「ああ。そうだ」と、ガルバードが腕組みしながら答える。
吹き抜けを見上げると、ずっと上の方で空の青が小さく見える。
ここは随分と深い縦穴のようだ。
ギルバートがキョロキョロしながら首を傾げる。
「おかしいですね。ここにも居ないとなると、訓練生はどこに行ったんでしょう?」
その疑問にラルクが「居るわけがない」と、答える。
「フ〇ック? どういうことだ?」
「どうしてそんなことが分かりますの? ダーリン」
返事をする代わりにラルクはガルバードに向かって言う。
「訓練生なんて居ないんだろ? ここまで俺達を連れてくるのが目的か?」
それを聞いてガルバードが驚いた。
「な!? ラルク、貴様……気付いていたのか?」
「当たり前だ。ハナからお前のことなんか信用してない」
「フン。なぜ分かった?」
「わざとらしい遺留品だったな。どうせ、朝のうちに仕込んだんだろ? 手袋の片方だけが落ちる? どんなシチュエーションだ。おまけに、わざと俺達を戦わせただろ? 観察するために」
ガルバードは邪悪な笑みを浮かべて言い放つ。
「そうだ。お前達の力量を測らせてもらった」
ラルクは鼻で笑う。
「それで? 俺達をここで葬るつもりか? 秘密を守るために」
ガルバードは悪びれるでもなく首を竦める。
「そういうことだ。悪いが、仕事を失いたくないんでね」
魔王を倒した勇者パーティの一員という偽りの名声。
事実を知るラルクをダンジョンの奥に誘い込んで口封じするという発想……。
やはり、バルガードという男は、性根の腐った人間のようだ。