潜入! 虎の穴
翌朝、ラルクは、わざと約束の時間から遅れて集合場所に赴いた。
ラルク達が到着すると、既にバルガードと老人が二人、ダンジョンの前で何やら相談をしている。
ダンジョンの入り口には立ち入り禁止のテープが張り巡らされている。
しかし、他に兵士の姿は無く、物々しい雰囲気ではない。
ラルク達の到着を待ってバルガードが言う。
「来たか。来ないかと思ったぞ?」
「フン。どちらでも良かったんだがな」と、ラルクは顔を背ける。
軍服を着た白髭の老人がラルク達をジロジロ見て首を傾げる。
「はて、協力者というのは、そちらの方々で?」
もう一方の蝶ネクタイの老人がバルガードに近寄って心配する。
「バルガード君。大丈夫なのかね?」
バルガードは冷静に答える。
「ええ。彼も勇者パーティの一員でしたから。その彼が選んだ仲間です。きっと、良い働きをしてくれるでしょう」
そう言ってバルガードは挑発的な目でラルクを見る。
なるほど、バルガードの手前、手を抜くことはないという計算なのだろう。
軍服の老人はガムを噛みながら小馬鹿にしたようにアゴを突き出す。
「ああ、話は聞いているとは思うが、しっかりな」
「フ〇ック! なんかムカつくな。俺達はてめえの部下じゃねえってえの!」
それが聞こえたのか軍服の老人は不機嫌になる。
「なんだ。その汚らしい妖精も仲間なのか? まったく……」
「ファッキン! 誰が汚らしいだって!?」
ファンクは羽をパタパタさせて憤慨する。
軍服老人は、ガムをクチャクチャ噛みながらラルク達を品定めする。
「けっ! とても戦えるようには見えんがね。まったく、けったいな連中だ」
その時、地面を物色していたピピカが何かに目を付けた。
「あったでしゅ」
軍服老人の暴言は止まらない。
「まったく、ひ弱そうなボロボロ貴族、趣味の悪いドレスのお嬢さん、ピエロみたいなアホガキ! まったくゴミみたいな集団だな!」
そして、軍服老人は憤慨しながら『クッチャ、クッチャ』ガムを噛み続け、ケンカを売るみたいに『プゥ』と風船ガムを膨らませて破裂させた。
『ポフン』
破裂させたガムを口に戻した軍服老人が、『クッチャ、クッチャ』して「む!?」と、変な顔をした。
ピピカがクスクス笑う。
「ンコ、食べてるでしゅ」
軍服老人は、噛むのを止めて鼻をスンスンいわせる。
そして「臭っせ!」と、顔を顰め、『ぺっ、ぺっ』と、口に含んだものを吐き出す。
「ファ〇ク! ピピカ、やりやがったな?」
「クソくらえ、でしゅ」
糞が落ちているのを見つけたピピカは、風船ガムと強制交換したのだ。
軍服老人はパニックに陥る。
「おえええっ! ペッ! なんじゃ、こりゃあ!? うげええ!」
プーンと匂ってくる『ンコ』の香り。
それは軍服老人の口から漂ってくる。
ギルバートが顔を強張らせながらラルクに耳打ちする。
「本当に食べさせちゃったみたいですね」
「みたいだな。まあ、黙らせるには丁度いい」
何が起こったか理解できないバルガードと学長は、ぽかんとしている。
ラルクが声を掛ける。
「おい。さっさと行くぞ。時間が勿体ない」
そしてラルク達は問題のダンジョン『虎の穴』に足を踏み入れた。
* * *
ダンジョン内は真っ暗だった。
ファンクが尻を突き出して言う。
「チキ、俺の尻に火をつけてくれ」
「え? 良いですわよ」
チキは、さっと火炎草を口に含んで飲み込むと、『ぼぇええ』と、炎のゲロをファンクにぶっかけた。
「アジジジ! フ〇ック! 熱ぃだろ! マッチでいいんだよ!」
ファンクのお尻が激しく燃えている。
「あら? そうでしたの」
「フ〇ック! ランプになるんだよ! 俺の尻は!」
「どういう原理ですの……」と、チキはゲンナリする。
そこでギルバートが解説する。
「油が出てるんですよ。絶えず、穴から微量の油が」
「なによそれ……なんだか臭そう」
「事実、匂うんですけどね。尻から出る油が燃える訳ですし」
ギルバートは涼しい顔でそう言うが、尻に明かりをともして飛び回るファンクは『ホタル』のようだ。
ガルバードが、『なんだコイツ?』という顔でファンク達を見る。
ガルバードが「そんなことしなくても魔法で……ほれ」と、ロッドを振ると周囲が明るくなった。
「フ〇ック! なんだよ! 熱い思いして損したぜ。チキの奴が目一杯、火吹きやがるからよう。驚いて少し『ミ』が出ちまったぜ!」
すかさずピピカが反応する。
「焼けンコでしゅ」
ピピカの突っ込みにラルクが吹き出した。
「やけくそ! うまいこと言うな。ピピカ」
つられて皆が笑いだす。ガルバードを除いて。
ガルバードは、『こいつら、なんなんだ?』といった風に口をポカンと開けている。
そして尋ねる。
「ラルク……本当に大丈夫なのか? この連中で」
ラルクは全然、気にしていない。
「ああ。問題ない。前のパーティよりはな」
バルガードは複雑な顔をして首を竦める。
「まさか……グランの勇者パーティよりも上だって言うのか?」
「そうだ。魔王にボコられるような弱小パーティとは違う」
バルガードは納得できないといった風に首を振った。
「信じられん……そんな馬鹿な」
と、その時、前方からモンスターが現れた。
犬のような生き物が唸っている。
「フ〇ック! 目が六つ。ケルベロスか!」
そこでチキが草を握り締めて前に出る。
「ちょうど良かったですわ! 特訓の成果を披露しますことよ!」
ラルクがチキを見る。
「え? 特訓?」
「ええ。私、中距離魔法を習得しましたことよ?」
「そうなのか? いつの間に……」
「ダーリンは足止めをお願いしますわ!」
そう言ってチキは火炎草を飲み込んでスタンバイ。
「行きますわよ!」
「大丈夫かなぁ」と、ラルクは半信半疑でテイムを発動する。
ケルベロスは飛び掛かろうとする態勢のまま動きを封じられた。
チキが綿毛のようなものを取り出して、自分の鼻をくすぐる。
そして……「ぼえっックチュン!」と、くしゃみとゲロを同時に吐き出した。
『ボワッ!』と、チキの口から火柱が伸びていく。
そしてケルベロスを炎で包む。
『ギャワオゥ!』と、3匹分の断末魔がダンジョン内に響く。
「大成功ですわ!」と、チキが小躍りする。
「なんだそりゃ……」と、ラルクが困惑する。
「フ〇ック! くしゃみは唾がすげえ飛ぶんだよな! 考えたな、チキ!」
「すごいでしゅ」
ギルバートは顔を顰めて呟く。
「どっちみち汚いなぁ……」
そのコメントにチキが『ボフッ!』と残り火で突っ込む。
「熱っつ! 熱いですよぉ!」と、ギルバートの顔面が火に晒される。
一連のやりとりを茫然としながら見守るガルバード。
「な、なんなんだ? このパーティは……」
彼にとって、ラルクのパーティは理解し難いもののようだ。




