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 バルガードは何か口にしようとして、一寸、躊躇した。


 そして、思い直したかのように首を竦めて降参の姿勢を見せる。

「悪かったよ。追放の件は。本当に申し訳なかった」


 あっさりとした謝罪にラルクが戸惑う。

 まるで怒りの矛先をかわされてしまったような気がした。


 バルガードはしおらしく続ける。

「お前の怒りはもっともだ。報復したいなら甘んじて受け入れる。だが、わかってくれ。あの時は、ああするしかなかった。定員があったからな」


 よくスラスラと言葉が出るものだ。

 ラルクの追及がとどこおった機を見逃さず、バルガードは畳みかけてくる。


「俺はやっと見つけたこの仕事を続けたい。そのためなら何でもする。お前がどうしたいのか言ってくれ!」


 頭の良い人間は流れが向いた瞬間を見逃さない。そして巧みに誘導してくる。


 ラルクはそれに抵抗する。

「俺を追放した後でグランと揉めてたそうだな? なぜだ?」


 ティナに聞いて気になっていたこと。

 ラルクの追放を巡ってバルガードとグランの意見が対立した理由が知りたかった。


 ラルクの問いに対して、バルガードがニヤリと笑った。

 今の質問は手の内を見せてしまったと気付いたが、バルガートはそれを見逃さない。


「グランと揉めていた? そうだったかな?」

 バルガードは、そうとぼけることで優位性を確保しようとしている。


 そこでチャイムが鳴った。


 バルガードがそれに反応する。

「ああ! すまない。学長に呼び出されているんだ。悪いが、後でゆっくり話そう。良かったら、そちらの……」


 バルガードの視線がギルバート達に向けられる。

 だが、何の集まりか分からない集団をどう表現して良いのか言葉に詰まる。


 なのでラルクが簡単に紹介する。

「仲間だ」


「そ、そうか。新しいパーティを組んだんだな。分かった。それじゃ、また」

 そう言い残してバルガードは、そそくさと講堂を後にした。


 その後ろ姿が見えなくなったところでチキが尋ねる。

「ダーリン、追わなくてよろしいですの?」 


「ふん。せいぜい、ビクついていればいいさ。『ざまあ』するのはその後だ」

 そう答えてみたものの、思っていたのとは違うとラルクは感じていた。


     *   *     *


 豪華なスィート・ルームで寛いでいても、ラルクのモヤモヤは晴れなかった。


 ガルバードの謝罪が形ばかりであることは分かり切っている。

 あのような人間は、問題を回避するためなら幾らでも頭を下げることが出来る。


 どうすれば奴にダメージを与えられるだろう?


 物理的なダメージだけでは『ざまあ』にはならない。

 自分が受けた屈辱、精神的苦痛、それらと同等以上のものを奴に与えるには……。


 そこにギルバートが「お客さんですよ」と、誰かを連れて来た。

「客?」と、ラルクがいぶかる。

 

 客というのはバルガードだった。


 ラルクが尋ねる。

「なぜ俺達がこのホテルに泊まっていると分かった?」


 バルガードは上着を脱ぎながら答える。

「奇妙な格好をした四人組が泊っていないかを聞いて回った。すぐ分かったよ」


 チキが顔を顰める。

「奇妙な格好? なんかカチンときますわね」

「フ〇ック! まあ、間違いではないけどな」


 バルガードは勧められてもいないのにラルクの正面に腰を下ろす。

 そして、神妙な顔で切り出した。

「力を貸してほしい。お前の力が必要だ」


 突然の訪問と思わぬ申し出にラルクが不快感を示す。

「虫が良いことを言うもんだな。俺を追放しておいて」


「それは理解している。だが、お前の力を借りたい。これは学長、直々の依頼だ。三日前から士官学校の訓練生が次々と行方不明になっているんだ」


「それがどうした? 俺達に何の関係が?」


 ラルクの反応はお構いなしにバルガードは説明を続ける。

「士官学校では毎年、ダンジョンで訓練を行っているんだが、誰一人、生還していない。どうやら中で何かが起こっているらしい」


 ラルクが呆れた。

「バカバカしい。そんなもの、軍に任せておけばいいだろう?」


「ところが、そうもいかないんだ」

 そう前置きしてバルガードが声を潜める。

「軍は出払っていて、それどころじゃない」


「ファ〇ク!? どういうことだ?」


 バルガードは神妙な顔つきで首を振る。

「詳しくは分からない。だが、軍を投入できないのは事実だ。そこでオレに白羽の矢が立った」


 ラルクが嫌味で返す。

「魔王を倒したことになっている勇者パーティの一員。だからだろ?」


 だが、バルガードは気にも留めない。

「その通りだ。学長も同じことを言っていた。これは軍の命令でもある」


「ファッキン・軍の命令かよ?」

 そこでピピカが口を挟む。

「そんなの、ンコをムシャムシャ食べろでしゅ」

「フ〇ック? ああ、クソくらえってことか」


「そう言うな。ここからそう遠くはない。この辺りでは有名な『虎の穴』と呼ばれるダンジョンだ」

 

 それを聞いてギルバートが真剣な顔で尋ねる。

「虎の穴? 穴って上の穴ですか? それとも下の穴?」


「ファ〇ク! どうしてそういう発想になる!?」

「え? 大事なことでしょう?」


 シラケた空気が流れる中、ラルクが咳ばらいをして尋ねる。

「なぜ俺がお前を助けなきゃならない?」


「無論、報酬は出るだろう。それを全部やる」

「金の問題じゃない。お前に協力する気にはなれないと言っているんだ」


「分かった。じゃあ、こうしよう。この任務が成功したら、真実を話してやる。なぜ、俺達がお前を追放したのかを」

「な、なに!?」


「どうだ? それが交換条件だ」


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