テイム能力のルーツ
ラルクの言葉を聞いてネムが眉を寄せる。
「どういうこと? お父さんの血?」
「ああ。テイムの能力だ。たぶん、お前も俺と同じように受け継いでるんじゃないかな」
「テイムって、アレでしょ。動物とかモンスターとかを手懐けるやつ」
「そうだ。けど、ウチのは、ちょっと違う」
「は? ぜんぜん分かんない」と、ネムが口を尖らせる。
「手懐けるというよりは、ダイレクトに操ることができるんだ。モンスターも人間も」
「操る? 操る……ふうん。え? 人間も?」
「人間も、だ。俺がお前に使ったのがソレだ」
ネムは少し首を傾げてから思い出した。
「あ! お兄ちゃん、私の頭、ぶったでしょ! アレ、相当痛かったんだからね!」
「それは済まなかった。けど、その前を思い出してくれ。変だと感じなかったか? 自分の意思とは無関係に身体が動いただろ?」
「そう言われてみれば……そうかも」
「操れる時間は3秒。その間、自分の動きを完全コピーさせることができる。相手がモンスターだろうと人間だろうと」
ネムが目を丸くする。
「うっそだぁ! そんなこと出来るはずない!」
「ホントにそう思うか?」
そう言ってラルクはテイムを発動しながら椅子から立ち上がる。
そしてクルリとターンで一周して、背筋を伸ばし、顔の横でパンパンと手を打って「オゥ・イエース!」と、ポーズを決めた。
1秒遅れでその動きを完全に真似させられたネムが、「オ・イエース」と、ポーズを決めたまま驚愕する。
「な、身体が勝手に……てか、なにコレ? 怖い!」
ラルクは落ち着いた様子で椅子に座ると涼しい顔で言う。
「これに気付いたのは最近だ。それまではモンスター相手に使うスキルだと思い込んでいた」
身体の自由が利くことにネムが気付いて、彼女も椅子に座り直す。
「なんか変な感じ。ていうか、そんな能力どうすんのよ……」
「戦闘に使える。まあ、正直、使いどころが難しいがな」
「そっか、敵が隙だらけになるもんね。ある意味、最強じゃない」
「そうだな。少なくとも防御には困らない。相手の攻撃をキャンセルできるからな。お前がやってる奇襲攻撃と同じだ」
ラルクに指摘されてネムが複雑な表情を浮かべる。
「ええ……そうかなぁ。アタシの場合は、みんな、目が釘付けにされちゃうからじゃないかなぁ?」
「たぶん、無意識のうちに能力を発揮してるんだと思う。相手が金縛りにあうのは、テイムの効果なんだよ。きっと」
「なにソレ? それじゃ、アタシの身体に魅力が無いってこと?」
「そうは言っていない。ただ、俺のテイム能力とお前の特技は同じだ」
「う~ん。どうなんだろ? アタシにそんな能力あんのかなぁ?」
「ネムネム。お前は、ちっちゃい時から動物にやたら懐かれていただろ? だからテイムの才能は俺よりもあるはずなんだ」
「ああ、それは認めるわ。なぜだか知らないけど今でも生き物が寄ってくるもん。ウザいぐらいに」
それまで酒を舐めながら二人のやり取りを見守っていたファンクが吹き出す。
「フ〇ック。トカゲのバカ兄弟もターバン男もそのクチだろ? 『先生、先生』って、やたら懐かれてるもんな」
ファンクの指摘にネムは顔を顰める。
「なんかヤダなぁ。純粋に尊敬されてると思ってたんだけど」
ラルクは考えていたことを口にする。
「おそらく親父も同じ能力を持っていたはずだ」
「お父さん? お父さんのことなんて、ちっとも覚えてないよ?」
ネムは9歳だったが、軍人であった父は、もともと不在がちだったからかもしれない。
ラルク自身も、あまり父親の記憶は無かった。
「俺も親父の能力を直に見たわけじゃない。だが、ギルバートの親父さんと決闘した時に、この能力を使った可能性が高い」
そう言ってラルクはソファの上でグッタリしているギルバートに目を向けた。
「ファ〇ク! 穴を穿られたギルバートの親父か! それはあり得るな!」
「ああ。ガスを操る能力者の尻をいとも簡単に差したってことは、親父にもテイム能力があったんだと思う」
自分の父親が話題にされていることなど露知らず、ギルバートは平和な寝息をたてている。
「そして俺にもネムネムにも人を操る能力がある。てことは、遺伝と考えるのが自然だ」
ネムは、まだ納得していないようだ。
「ホントかなぁ……アタシにも同じ能力があるなんて、ピンと来ないな」
「まったく……テイムを使えば、あんなハレンチなことしなくていいのに」
ラルクは呆れたようにそう言った。
そこでネムがバンと机を叩いて立ち上がる。
「ああああ! そうよ! なんで早く教えてくれなかったの!」
ネムは対面のラルクに向かって顔を近づけながら怒る。
「それ知ってたら、わざわざ脱がなくても良かったじゃない!」
「い、いや。教えるも何も7年も会ってない……」
「ああっ! もう! 損した損した損した! 今までのは何だったのよう!」
「フ〇ック! まあ、いいじゃねぇか。それで『おひねり』貰ってたんだろ? 良いもの見せてやった対価だと考えれば、ウィン・ウィンじゃねぇか」
「あ、そっか! お金貰うだけだと強盗になっちゃうもんね。そっか、やっぱそれで良かったんだ。へへ♪」
「良くはない。兄としては。妹が裸をチラ見せして金を稼いでるなんて……」
「痴女でしゅ……グゥゥゥ」
絶妙なタイミングの寝言にラルクは驚いてピピカの寝顔を見る。
「フ〇ック! ピピカの奴、ホントは起きてんじゃねえか?」
「いや、熟睡してるみたいだ。けど、どういう夢を見てるんだ?」
ラルクは苦笑いを浮かべる。
車窓の外では空が白み始めている。
大きな欠伸をするネムにラルクが目を細める。
「ネムネム。このあと、どうするんだ?」
「うーん。とくに考えてないなぁ」
「だったら一緒に来ないか?」
「お兄ちゃん達のパーティに入れってこと?」
「ああ。別に戦わなくてもいい。同行するだけでもどうだ?」
「そうだね~ ありがと。でも、止めとく」
「え? なんでだ? まさか、あの連中と山賊を続けるつもりか?」
「そうねぇ。未回収の報酬がたくさんあるからね。それに、お母さんにも会いたいし」
「何? あの女はお前を売ろうとしたんだぞ! 分かってるのか?」
「うん。それは分かってる。でも、お兄ちゃんから聞いただけだよ? 本人の口から聞きたいの」
「ネムネム……でも、仮に見つかったとして、本当のことは言わないんじゃないか?」
「かもね。でも、すっきりしないんだ。後悔するかもしれないけど、会ってみないことには気持ちに整理がつかないの」
家出の際にネムを強引に連れ出した負い目があるからか、ラルクはそれ以上、強くは言えなかった。
「分かったよ。じゃあ、俺の旅が終わったら、また一緒に暮らそう」
「うん。分かった」
ネムを連れていくことは断念した。
ラルクには、まだやらなくてはならないことがある。
列車は刻々と首都ポルトに向かって朝焼けに染まる町をひた走った。
3人目の標的、黒魔導士バルガード。
奴はきっとそこに居る……。




