俺の妹がこんなに……
ラルクの意外な言葉にチキが「妹?」と、目を丸くする。
女先生とラルクを何度も見比べて「義理の妹……」と、複雑な顔をする。
ラルクは懇願するように呼び掛ける。
「ネム! 本当にネムなのか? お願いだ。答えてくれ! ネムネム!」
女先生がハッとして一瞬だけラルクに注目する。
だが、強制交換された服が気に入らないのか、しかめ面で「ああっ! もう」と、それどころではないらしい。
「やだ、もう! かゆい! かゆい!」
女先生はボリボリ身体を掻きむしる。ノミでもいるのだろうか。
「そんでもって臭い! 臭いのよぅ!」
女先生がターバンを取って「これが一番臭い!」と、地面に叩きつける。
そしてグリグリと踏みつける。まるで親の仇みたいに憎しみを込めて。
ピピカがそれを見て大喜び。
「ウンコ、踏んでるでしゅ~! ウンコ、グリグリでしゅ~」
完全に無視されたラルクが唖然としながら女先生の発狂ぶりを見守る。
ターバン男のノミだらけの服と格闘する女先生。
とても話ができるような状態ではない。
ラルクが疲れ切った表情でリクエストする。
「ピピカ、服を元に戻せ。これじゃ話にならない」
「あい」
ピピカがラルクの依頼通り、女先生とターバン男の服を強制交換する。
『ぽふん!』の音で女先生はピンクの下着に赤い上着の元の姿に戻った。
だが、踏みつけられたウンコ型ターバンは足元に落ちたままだ。
「あら? あれ? 戻った?」
女先生は訳が分からない様子で、自らの衣服を触りまくる。
だが……。
「やだ、もう! 下着が、ゆるゆる!」
淡いピンクの面積が少ない下着は、ターバン男が無理に着用したせいで、生地がベロベロに伸び切ってしまったらしい。
「ちょっと! もう、ずり落ちそう!」
女先生は赤い上着を身体に巻き付け、身を縮めて赤面した。
ようやく女先生が落ち着いたところで、ラルクが声を掛け直す。
「ネムネム……だよな?」
「へ? その呼び方……まさか! お兄ちゃん!?」
「やっぱり! ネム! 探してたんだぞ! なんで修道院から逃げ出したんだよ!」
そのやりとりを見ていたトカゲの兄弟が驚く。
「兄ちゃん! あいつ、先生の兄ちゃんだってよ!」
「マジか!? てことは、先生より強いのか!」
「兄ちゃんだもんな! 兄ちゃんの方が偉いもんな!」
女先生のネムは、しげしげとラルクの顔を見る。
そして急に怒りだした。
「そっちこそ! アタシを置いてどこ行ってたのよ!」
ラルクがきょとんとする。そして、困惑しながら答える。
「え? ちゃんと言っただろ? お前のために町に働きに出るって……」
「そうだっけ? アタシ、捨てられたと思ってたんだけど?」
「お前を捨てるわけないだろ! 昼は働いて夜は養成所で忙しかっただけだ」
「はあ? ナニそれ?」
「ちゃんと仕送りしてただろ?」
「知らない。ていうか、お兄ちゃんが居なくなった1週間後には修道院を出たから」
「それで? どこに行くつもりだったんだ?」
「お母さんのところ」
「バカな!? あいつの所に? なんでそんなこと!」
「しょうがないじゃない。他に頼れる人が居なかったし」
「わかってんのか? あいつは10歳のお前を……」
「結局、会えなかったけどね」
「その後は? その後、何してたんだ? どうして山賊なんかに?」
「色々と大変だったのよ! 生きていくには!」
「にしたってアレは無いだろ? 何だ? あの攻撃は。破廉恥なマネして!」
「ハレンチ? あれは破廉恥じゃなくって……」
「痴女でしゅ!」
ピピカが口を挟んだので、ラルクとネムが口をつぐむ。
ピピカはクスクス笑いながら言う。
「痴女でしゅ。変態女でしゅ!」
ネムが呆れ顔で尋ねる。
「なんなの? この子。まさか、お兄ちゃんの子供?」
「いや、違う! そんなわけないだろ」
そこでファンクが提案する。
「フ〇ック……とりあえず中に入らねえか?」
チキも顔を強張らせながら賛成する。
「そ、そうですわ。お着替えもした方がよろしくてよ?」
それに同意してラルクはネムを連れて特等車両に戻ることにした。
すると、まだ屋根に乗っているターバンを失ったターバン男が怒鳴る。
「ごるぁ! おまいら、先生をどうする気だ!」
「お前は黙ってろ」
ラルクはテイムを発動すると、トトンと前方にダッシュしてジャンプした。
それにつられてターバン男が屋根の上で動きをトレース。
当然のように屋根からはみ出て落下する。
「はべしっ!」と、顔面を強打してターバン男は気絶した。
それを見てトカゲ兄弟が激高する。
「ボス! 大丈夫っすか!? この野郎!」
「兄ちゃん! やっちゃえ!」
それにはチキが冷静に対応する。
チキは、砂の上に転がって悶絶しているギルバートの腹を『ドスッ』と蹴り飛ばした。
ギルバートが「うっ」と、呻いて『ブッ』と、汚らしい音を漏らした。
強制的にガスが放出されるが、色はついていない。
チキはすかさず避難する。
そこに突っ込んできたトカゲ兄弟の足が止まった。
「ぐ!? えぐっ! なんだこれ!?」
「兄ちゃん、臭いよ! 鼻が曲がるよ兄ちゃん!」
そして兄弟は仲良く折り重なるようにパタンと倒れた。
ギルバートが転がったまま抗議する。
「ひ、酷いですよ、いきなり。おならが出ちゃったじゃないですか」
チキが意外そうな顔で首を竦める。
「あら。ガスに色はついてませんのに。効果があるのですわね」
「フ〇ック! ギルバートの屁は、『無色』でも十分、臭いんだぜ!」
「うう……全然、うれしくないですよ……」
ガスで失神したトカゲ兄弟と屋根から転落して気絶しているターバン男、それから役立たずの用心棒を収容して、列車は再び走り出した。




