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悪だくみ

 妖精界の異端児『ファンク』は、妖精のくせに不細工だ。


 羽は蝶のように美しいのに、中年太りの身体がそれを台無しにしている。

 顔にも贅肉がついていて憎らしい顔つき。そして毛深い。


 そんなファンクの唯一の能力が変身能力だ。

 ただし、変身できるのはハエかゴキブリのどちらか。

 それでも、手のひらサイズよりは小さくなれるので、スパイ活動には適している。


 ゴキブリに変身したファンクは、ラルクの指示で太ったチョビ髭の執事を内偵していた。


 チョビ髭の太った執事は自室に戻ると2人の息子を呼び寄せ、今夜の儀式に向けて、はっぱをかけた。

「ズングリー、ムックリー、いよいよだぞ! 準備にぬかりはないだろうな?」


「はい! 父上!」

準備万端じゅんびばんたんです!」

 力強く頷く2人は双子のようにそっくりで、執事にも似ている。

 体型もしっかり引き継いでいる。


「いいか! お前達は、あのバカ息子を必ず勝たせるんだ。あのボンクラが当主になりさえすれば、後は思うがままだ」


「任せてください、父上!」

「せいぜい仲間のフリをして恩を売っておきます!」

「げへへ。あいつ、昔からバカだからなあ。騙すのは簡単だ」

「ひゃっひゃっひゃ! 楽しみだぜ」


 ゴキブリに化けたファンクは、戸棚の上からその様子を見ている。

 どうやら、ラルクが睨んだ通り、この跡目争いには裏があるようだ。


      *     *     *


 ファンクの報告を聞いてラルクの表情が曇った。

「裏切りか……見過ごせないな」


 そして、それが怒りに変わるのに時間はかからなかった。


「YOYO。熱くなんなって! 俺等には関係ねえ」

「分かってる。けど、チキのライバルだとしても、そういうのは心底、腹が立つ」 


 信頼していた仲間に裏切られる辛さが身に染みているラルクにとって、太った執事親子の企みは看過かんかできない。


 ギルバートが恐る恐る口を開く。

「だったら、なおさら負けるわけにはいかないのでは?」


 その言葉でラルクが冷静さを取り戻す。

「ああ。そうだな。チキが当主になれば、自動的に奴らの計画を潰せる」


「ファッキン! それに腕試しには、ちょうどいいんじゃねぇか?」

「そうだな。今の戦力でどこまでやれるか……よし!」


 最初は乗り気ではなかったラルクだが、俄然、やる気が出てきた。


     *     *     *

 

 ダンジョンの入り口は、敷地の隅っこにあった。

 大きな井戸を梯子はしごで下りれば、そこがダンジョンに繋がっているという。


 アッチョンブリ家の当主や執事達が見守る中、先に長男のボンが梯子を下りた。

 太った執事の息子達がハンマーと斧を抱えてそれに続く。


 長男のボンは、ラルク達にとって初見だったが、いかにも甘やかされた『おぼっちゃま』だった。

 常に落ち着きが無く、どこか自信なさそうな立ち居振る舞い。色白でぽっちゃり。

 とても、ダンジョンで活躍できるようなキャラではない。


 一方、妹のチキは黒のゴスロリ調のドレスを身にまとい、厳しい表情で戦闘に備えていた。

 栄養ドリンクを飲んだチキは、まるっきり悪役令嬢だ。

 強引で攻撃的で、意地悪さを隠し持っている。

 

「さ、行くわよ!」

 チキの号令で井戸に向かう。

 

 先にギルバートが梯子に足を掛けるが、数歩下りたところで止まってしまった。

「こ、怖いですぅ。暗くてジメジメしてて、気味が悪いですよぉ……」


 ビビリまくりのギルバートの頭をチキが踏みつける。

「うるさいですわよ! おキン〇マ、ついてますの!?」


『ガスッ!』と、鈍い音がして「ああああああああ!」というギルバートの悲鳴が井戸の底に落ちていく。


 それを気にするでもなく、チキは、イケイケで梯子を下りていく。

 ラルクとファンクは落ち着いた様子でチキの後を追う。


 勇者パーティを追放されたとはいえ、魔王討伐の寸前まで同行していたラルクにとっては、これくらいのダンジョンは屁でもない。


 梯子を下り切ったところでチキが、井戸の底で失神していたギルバートを叩き起こす。

「いつまで寝てらっしゃるの!」


 チキに顔面を踏みつけられたギルバートが飛び起きる。

「あ、ああ! ごめんなさいっ!」


 それを横目にラルクは早速、ダンジョン内部の観察を始める。

「思ったより天井が高いな」


 ラルクは、続いて濡れた地面を指でなぞる。

「このぬめり……水系のモンスターが主力か。炎系の準備をしておいた方がいい」


 それを聞いてチキが胸を張る。

「やっぱり! 火炎草とドラゴン草は多めに持ってきましたわ!」


 首からかけた彼女のポシェットはパンパンで草が少しはみ出ている。


 ラルクが前方を眺めながら言う。

「とりあえず進もう。彼等は随分、先に行ったようだ」


 それを聞いてチキがギルバートの尻を蹴り上げる。

「アンタがモタモタしてるから! 差をつけられてしまったじゃない!」


「あ痛っ! お、お尻は止めて!」

 女の子みたいなギルバートの反応にファンクがゲンナリする。

「フ〇ック……まあ、商売道具だからな」


 この先、ギルバートの七色の屁が役に立つことがあるかもしれない。

 そういう意味でファンクはそう言ったのだが、チキが変な顔をする。

「え? 商売? あなた、そういう趣味ですの?」

「ち、違いますよぅ!」


 そんなやりとりをしていると、前方から「ひゃああ!」という悲鳴と「ドスコーイ!」という掛け声が聞こえてきた。


 先を行く長男ボンのパーティに何が起こっているかは容易に想像できた。


「グズグズしてると家宝を奪われるぞ」

 ラルクの一言でチキのスイッチが入る。

「そうですわよ! 負けられませんわ!」


 足元が悪い中、ビシャビシャと足音を立てながらラルク達は走った。

 すると、突然、一行の行く手を遮るように、トカゲ型モンスターが2体現れた!


「出ましたわね!」と、チキが身構える。


 3秒テイムに七色の屁。それにゲロ吐き魔法で、どう対処するか?

 ここはパーティの連係が求められるところだ。


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