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ポルトへの列車旅

 ハミマ共和国の首都ポルトへ行くには、国内を横断しなければならない。

 飛竜を使っても3日はかかる距離だ。

 

 しかし、ハミマ国内では、飛行禁止区域が随所に設けられているので、一気に飛んでいくことはできない。


 そこで、ラルク達一行はハミマの主要都市を東西に繋ぐ長距離列車で移動することにした。


 金持ち令嬢のチキが手配した列車の席は、車両の半分を占める豪華な個室だった。


 前の金欠勇者パーティでは歩きが基本だったので、乗り物の移動には慣れていないラルクが呆れる。

「なにもこんなに豪勢な席じゃなくて良かったのに」


「あら。新婚旅行だと思えば安いものですわ」

 チキは無邪気にそう言うが、他のメンバーも同席している。


 そもそもラルクはチキと結婚したつもりはないので「新婚旅行?」と、首を傾げる。


「そうですわよ♪ だから寝室は個室にしたんですの。私たち夫婦は……」

「いや。部屋は別だぞ?」

 ラルクの素の反応にチキが頬を膨らませて「もう!」と、ムクれる。


 反対に他のメンバーは大満足の様子。

「フ〇ック! こりゃ、楽でいいな! 酒も食い物もたくさんあるしよう!」

「食べ放題、うれしいでしゅ! ここに住みたいでしゅよ」

「フフン。まあまあですね。僕が子供のころは列車そのものを借り切ってましたけど」


 車窓の景色が流れていく食後のひと時に、チキが素朴な疑問を口にする。

「そういえば、ダーリンは、どうやってファンク達とお知り合いになったのかしら?」


「ん? ああ、話していなかったっけな」 

 そう言ってラルクはファンクとギルバートの方を見た。

「フ〇ック! 大した出会いじゃなかったけどな」


 ラルクが苦笑する。

「魔王の城でぶつかったんだよな」

「ファッキン・偶然てやつだ」


 ラルクは追放された直後のことを思い出したのか、少し神妙な顔つきをみせる。

「あの時、皆に置いて行かれて呆然としてたけど、とにかく城を出なきゃと焦ってた。モンスターだらけだし、食料とか水も持っていかれちゃったから」


 チキがいきどおる。

「酷いですわ! そんな状況で置いてけぼりなんて!」

「ああ。あいつ等は、俺がどうなるかなんて、まるで関心がなかったんだろうな」


 ギルバートがうつむく。

「その気持ち分かります。僕も屋敷のものを全部、差し押さえられて、着の身着のまま放り出された経験がありますから」


 ラルクが思い出しながら言う。

「何とか魔王の城から脱出しようとしてた時に、通路を曲がったところでファンクとぶつかったんだ」

「ファッキン、あの時はすまなかったな! 俺も急いでたんだ」


「いや、ビックリしたよ。顔面に『ベシャッ』って何か張り付いたような感覚があってさ」


 チキが「ベシャッと張り付く?」と、首を捻る。

 そこでファンクが照れる。

「フ〇ック! 俺って脂ぎってるし、汗っかきだからよう」


「ああ……なるほどですわね……」


「最初は濡れ雑巾でもぶつけられたのかと思ったよ。けど、顔面から剥がしてみれば羽がついてるし、ヌルヌルしてるし、まさか妖精だったなんてさ」


 チキが顔を強張らせながらファンクに尋ねる。

「でも、ファンクは何をしに魔王の城へ?」


「フ〇ック? そういやそうだな。なんか用があったはずなんだが……忘れちまった!」

 記憶喪失気味のファンクは、そう言って笑い飛ばした。


 チキは次にギルバートをチラ見して続ける。

「ねえ、ダーリン。こちらの『お漏らし野郎』は、どうして仲間にしてしまいましたの?」


 ギルバートは不満そうに言う。

「お、お漏らし野郎だなんて……好きで漏らしてるわけではないのに」


 ラルクが苦笑いしながらチキの質問に答える。

「まあ、スカウトしたのは俺なんだけど、出会ったのは『嘆きの森』だったよな?」


「ファック! 『うごめきの森』だって! 凶悪モンスターの巣窟そうくつだ」

「そうそう。それだ。俺とファンクが魔王の城を出て森をさ迷っていた時に、シクシク泣いている奴が居たんだ」


 チキが呆れたようにギルバートを見る。

「シクシク泣いてたですって?」


 ピピカがハムを頬張りながら一言。

「情けないでしゅ」


 ギルバートは憤慨する。

「シクシクなんて泣いてないです! そりゃ、怖くて涙は出てましたけど!」


「ファ〇ク! それで俺が近づいたらよう……」

「そうだった。ファンクが『エンッ!』て、叫んで墜落したんだよな」


「ファ〇クって言う間もなかったぜ! 一瞬で気を失った。てか、俺の唯一の自慢は『不死身』なんだが、あの時は死ぬって覚悟したぜ!」


「それで俺もファンクに近付こうとしたら、鼻から脳天に『ズオッ!』と衝撃が走って気絶した」


 それでチキが理解した。

「それが茶色のガス、でしたのね?」


「そういうことだ。あれでも随分と薄まってたというんだからな。恐ろしい威力だよ」

「フ〇ック! 俺達、まる3日間、失神してたんだぞ? 匂いだって一週間以上、取れなかったし!」


「ずっと鼻の中に匂いが充満してるんだよな。他の香りは一切しないのに」

「ファ〇ク! 鼻の穴にウンコを捻じ込まれた方がよっぽどマシだぜ!」


 チキが恐れおののく。

「そんなに……恐ろしいですわね」


 ラルクが半笑いで言う。

「そのあと、おならがギルバートのスキルだと知って、とにかく力を合わせて森を脱出することになったんだ。で、そのまま仲間になった」


「腐れ縁でしたのね。ダーリンがスカウトしたのかと思ってましたわ」

「ファッキン、臭い縁だぜ!」


 臭い臭いと言われ続けて嫌気がさしたのか、ギルバートは車窓の光景を無表情に眺めている。


 話の輪に入ってこない彼にラルクが声を掛ける。

「どうした? ギルバート。何か気になることでも?」


「いえ。少し考え事を。というか、皆さんに話すべきがどうか迷っていたんです」


 ギルバートの真剣な顔を見てラルクも真顔になる。

「どうした? 悩みでもあるのか?」


「ええ。深刻な悩みです。実は僕……ああ! だめだ。言えない!」

 そう言ってギルバートは長い睫毛を伏せた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼らの出会いは感動の物語が·····なかったな。 [気になる点] ギルバードが魔王城近くの蠢きの森になぜいたのか、水と食料問題とか気になる。
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