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聖なる泉と汚れたズボン

 エルフ達にとって重要な意味を持つ泉。

 そこに浸かったまま、ギルバートの『ミ』が出ようとしている。


 女エルフとラルクが必死でギルバートの上半身を泉から引き上げた。

「ああっ! ああっ!」と、ギルバートがうるさい。


 ラルクが顔を真っ赤にしながら踏ん張る。

「服が水を吸って重いっ!」

 

 女エルフも鬼の形相でギルバートを引っ張る。

「出さないでよ! 出したら殺すから!」


 上半身に続いて下半身が水面に上がってきた。

 ギルバートは我慢の限界のようだ。


 女エルフが「あと少し!」と、最後の力を振り絞る。


 だが、無情にも次の瞬間、ギルバートが絶叫した。


「ああああああ!」

『ブリュブリュ、ブリッ、ブリュルルル、ブビッ、ブベベッベベ!』


 そして、時が止まった。


 女エルフは唖然として手を放してしまう。

 ラルクも力が抜けてしまった。

 

 支えを失ったギルバートは、当然、泉に再転落。

 その様子が、まるでスローモーションのように女エルフの目に映る。


『ドポン』

 まるでカエルが古池に飛び込んだみたいな間抜けな音がした。


 女エルフが膝をつく。

「終わった……聖なる泉が……完全に汚された」


「うわぁ! やっぱり冷たぁい!」

 ギルバートが騒いでいる。


 あまりの悲劇に、ラルクもバツが悪そうな顔を見せる。

 気まずい空気が流れる。


「間に合ったでしゅ」


 ピピカの声にラルクと女エルフが我に返る。

「え? 何が間に合ったって?」

 

 ラルクの質問に対して、ピピカが中央広場の巨大石像を指さす。

「あそこでしゅ」


「え? どういうことだ?」

 ラルクは目を凝らす。


 そして、ドワーフ像の掲げる盃が無くなっていることに気付く。

「あれ? 盃が……ん?」


 よく見ると、勇ましいドワーフの初代里長が掲げているのは、ギルバートの汚れたズボンだった!


「ピピカ……あれって、ギルバートの……だよな?」

「そうでしゅよ。落ちる瞬間に交換したでしゅ」


 なんと、ピピカの機転でギルバートのチビったズボンは、石像の盃と強制交換されてしまったのだ。


 石像の掲げる汚れたズボンからは、噴水の水がドバドバと下に落ちている。


「うえっ……汚ねぇな……」


 ラルクがゲンナリしていると、石像の足元の噴水付近で「くせっ!」「なんだこれ!?」とドワーフ達が鼻を押さえてパニックになっているのが目に入った。


「フ〇ック! 茶色の屁ほどじゃないが、汚れた水が匂うんだろ!」

「それ、最悪だな」と、ラルクは首を振る。


 ドワーフ達は逃げ惑った。力尽きて失神する者も続出した。


 無理もない。里の中心、シンボルである巨大な石像から只ならぬ臭い水が流れ落ちてくるのだ。

 匂いに敏感なドワーフ達は戦闘どころではない。


 これが決定打となって勝敗は決した。

 戦意喪失、というか大半のドワーフは気絶している。

 そんな状況なので、エルフ達が里を制圧するのは簡単だった。


 女エルフが、ようやく笑顔を見せる。

「やったわ……まさか本当にドワーフに勝てるなんて」


 ラルクが無言で頷く。

 女エルフは目を潤ませながらラルクに抱き着く。

「ありがとう! 本当にありがとう! あなたのおかげ!」


 そこにギルバートの「ひええええ!」という間抜けな悲鳴が聞こえる。

 女エルフがラルクから離れて、ギルバートをキッと睨みつける。


 自力で泉から這い上がったギルバートは、股間を押さえながら大騒ぎしている。

「誰っ!? 僕のズボンとおパンツを盗んだのは!」


「ファ〇ク……誰も盗まねえよ。そんな漏らしたズボンなんてよ」


 女エルフは無言でツカツカとギルバートに歩み寄ると『バキッ!』と、彼の股間を蹴り上げた。

「はぐぅぅ!」

 ギルバートは股間を押さえて悶絶する。


 チキとピピカが呆れ果てたように、その様子を見守る。


 そんな中、ラルクが首を捻る。

「妙だな。これだけの騒ぎなのに、なぜリッツは出てこない? 里長なのに……」


「フ〇ック! そういやそうだな。留守なのか?」

「ちょっと聞いてみるか」

 ラルクは近くで、へたり込んでいたドワーフに尋ねる。


「おい。里長のリッツは何をしている?」


「さあな? どうせ、お楽しみ中なんだろうよ」

「どこに居る?」


 ドワーフは力なく顔を動かすと、窪地の段差にあたる壁の方向を指差した。


「あそこか……分かった。行ってみよう」


 とりあえず、ギルバートと女エルフを除いたメンバーで里長の部屋に向かう。


 入り口が綺麗な正方形の穴。

 ここだけ穴を縁どるような装飾がなされていて、カーテンで中が見えない。


 ラルク達は、そのまま穴の中に入る。


 穴を入って直ぐに甘くてスパイシーな香りが鼻をついた。

 クラクラする。頭の芯が揺さぶられるようだ。


「フ〇ック! コイツは媚薬か?」

「麻薬ですわよ。ハイになる乱痴気草らんちきそうですわ」


 ラルクが鼻を覆う。

「中の奴らはラリってるから外の様子に気付かないのかもな」


 奥に進むにつれ、匂いは強くなった。

 蟻の巣のように穴の中は地面をくり抜いて、幾つかの部屋が造られているようだ。


 奥の部屋から嬌声や喘ぎ声が聞こえてくる。

 

 ラルクが嫌そうな顔で立ち止まる。

「あの部屋か……」


「ファ〇ク! マジでお楽しみ中ってか? ハーレムなんだろ」

「興味ありますわね。どうなってるのかしら」

「おなか空いたでしゅ」


「あいつが女ドワーフをはべらせてるところなんて見たくはないんだがな」

 そう言ってラルクは奥の部屋のカーテンに手を掛けた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 泉が護られて、よかった···本当によかった······ さてアレのキレもよかったんだよね。 我らの求めたパラダイスはもうすぐそこに(*´Д`)
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