共闘を誓う
ギルバートの、すっとぼけた回答にエルフの女は絶句した。
ラルク達にとっては驚くことではないが、あの悪夢のような匂いが毒ではなく、貴族崩れの青年が放った屁であるという事実を受け止められないのだろう。
女エルフはラルク達の反応を見て悟った。
そして、突然、立ち上がってギルバートに詰め寄る。
「お前か! お前が森を穢したのか! 死ね死ね死ね!」
女エルフはギルバートの襟首を掴んで前後に激しく揺さぶる。
頭をガックンガックン揺らされながらギルバートが訴える。
「あばばばば、待って! ぐえっ! 違うんだって! そんなに揺らしたら死んじゃう!」
ラルクとチキに制止されて女エルフがギルバートを睨みつける。
その美しい顔が歪んで台無しになっている。
「ファ〇ク……怖ぇえ、こいつ二重人格かよ」
ギルバートが必死で言い訳する。
「仕方なかったんですって! 攻撃を止めてもらいたかっただけなんです!」
「フ〇ック! 嘘こけ、お前、ノリノリで屁ぇこいてたじゃねえか」
「そうですわよ。プースカ・プースカ、随分と楽しそうに出してましたわね」
まるでフォローする気が無い2人の言葉にギルバートが何か言いたそうにする。
一方、女エルフの発狂は止まらない。
「殺す! 絶対にぶっ殺す! おならで森を穢すなんて!」
ギルバートはビビリながらも反論する。
「け、け、穢しただなんて! むしろ植物の養分です。森へのご褒美ですよ!」
「はああ!? ふざけんな!」と目を剝いて、なおもギルバートに飛び掛かろうとする女エルフの動きをラルクがテイムで止める。
「落ち着けって! 俺達はドワーフの里に行きたいだけなんだ。リッツって女ドワーフに会う為にな」
その名を聞いて女エルフの動きが止まった。
「リッツ……あの女の知り合いなの!?」
「ああ。知り合いというか……借りがある」
「あの女は最悪よ! あいつが半年前に7代目の里長になってから、ますます酷くなったんだから!」
女エルフの話によると、もともとドワーフの里はエルフ達を奴隷のように扱っていたが、リッツの代になってそれがエスカレートしたという。
「あの女、やりたい放題なのよ。好みの女の子ばかりでハーレムを作ったりして!」
「どういうことですの? ダーリンの仇ってドワーフの『女』ですわよね?」
「ああ。あいつは、そういう趣味なんだ。自分は筋骨隆々で『力こそすべて!』ってタイプの女なんだよ」
男勝りと言うか、ティナが言っていたように女ゴリラという表現がぴったりだ。
女エルフが悔しそうに言う。
「それに、聖なる泉から汲み出した水の値段も4倍に値上げしたわ」
「水? そんなに貴重なものなのか?」
「ええ。あの水が無いと私たちは生きていけないわ……」
「そいつは酷いな。けど、なぜ黙ってるんだ?」
「それは……戦いではドワーフには敵わないからよ」
「それで言いなりか。なぜ戦って聖地を取り戻さないんだ?」
「できればそうしたいわよ! でも、私達の力だけでは……」
「俺達が力を貸すと言ったら?」
「え? あなた達が?」
女エルフは怪訝そうにラルク達の面々を見比べる。
本当に大丈夫なの? といった表情で。
それを察してラルクが言う。
「心配するな。そりゃ強そうには見えないだろうが、皆、特別なスキル持ちだ」
女エルフは考え込む。まだ迷っている様子だ。
そこにピピカが寄ってきて鼻をスンスン鳴らす。
「この女の人……くちゃい、でしゅ」
臭いと言われて「え?」と、女エルフが目を丸くする。
ラルクも少し顔を近づけて納得する。
「ああ、そう言われてみれば確かに」
彼女は、ほんのり臭かった。
微量とはいえ、あの茶色い屁を浴びてしまったのだ。
「え……そんなに? 臭いですって? 私が!?」
本人は鼻がマヒして気付かないのかもしれない。
「フ〇ック! 一週間は匂いが取れねえぞ?」
「ええっ!? そんなに?」と、女エルフは絶望する。
茶色の屁の爪痕は、広範囲に渡って残されている。
空気中にガスは残っていなくても、それに触れた物が発する残り香で森は汚染されていた。
ラルクが何か閃いた。
「待てよ。これはチャンスかもしれないぞ!」
「ファ〇ク? チャンスだって? なに言ってんだ?」
そこでラルクがニヤリと笑う。
「ドワーフは斧とかハンマーとか近接攻撃が得意だろ? 今の君達なら有利に戦える」
女エルフは首を傾げる。
「どういうこと?」
ラルクが説明する。
「ドワーフは異常に鼻が利く。ということは、その悪臭が君等を守ってくれる」
「フ〇ック! そうか! 臭いから近寄れないってことか!」
「なるほどですわ! 臭すぎて接近戦ができないってことですわね!」
「ああ。奴らにとっては、近付きたくないほどの悪臭だからな」
ギルバート本人は複雑な顔でボヤく。
「なんか酷い言われようだなぁ。まるで僕が臭いみたいじゃないですかぁ」
ラルク達の視線がギルバートに集まる。
皆、言いたいことは同じ。だが、今更、突っ込む気にもなれない。
ラルクは女エルフを鼓舞する。
「ドワーフの支配から逃れるなら戦うしかない! 聖地を取り戻すんだ!」
「分かったわ。ドワーフの横暴には、もう耐えられないわ」
女エルフは決意を固めた。
「よし、気絶してる仲間を集めてくれ。今夜、ドワーフの里を襲撃する」