怪鳥の求愛
まるでラルク達が洞窟を出るのを待っていたかのように、怪鳥の群れが待機している。
ラルクが怪鳥達を牽制しながら指示を出す。
「皆、下がって! 穴に戻るんだ」
二本足でずらりと並ぶ怪鳥達は、羽を広げていないと人間の2倍ぐらいの大きさだ。
それでも10頭以上のそれに囲まれると、圧力が半端ではない。
『グルッポォ!』と、手前にいた毛がモサモサの怪鳥が鳴く。
ラルクは、いつでもテイムを発動できるように準備しながら怪鳥を観察する。
怪鳥と目が合う。が、襲ってくる気配はない。
『クルキュルポ!』
モサモサの怪鳥が再び声を発したところで、その隣にいた怪鳥が数歩、前に出る。
『ググルッポッポゥ』
鳴いているのはモサモサの一頭だけだが、何がしたいのか分からない。
「ファッキン? 昨日の雄だと?」
そう言ってファンクが首を傾げる。
「ファンク! 何を言ってるか分かるのか?」
「フ〇ック。当たり前だろ。てか、なんで分からない?」
「鳥の言葉なんて分かるかよ!」
「ファ〇ク! 仕方ねえな」
そこでファンクはモサモサの怪鳥と『グルッポ』『ゲロッパ』といった、やりとりをしてから、こちらを振り返った。
「フ〇ック! 要件が分かったぞ! おい、ギルバート!」
突然の指名にギルバートが戸惑う。
「え? ぼ、僕ですか?」
「ファッキン。こっちのお嬢さんが、お前を婿にしたいってさ!」
「はぁ?」と、ギルバートが惚けた声を出す。
「な!?」「あらぁ?」「あいぃ?」と、他のメンバーも同様のリアクション。
それに対してファンクが説明する。
「フ〇ック。このお嬢さんはな。昨日、お前を捕まえた子だ」
「そうなんですか? そういえば見覚えがあるような無いような……」
ギルバートがマジマジと怪鳥を見る。
そこで怪鳥が『クルゥ』と上目遣いで応える。
「ファ〇ク! なんか、お前のことを凄く気に入った。だから婿になってくれとよ」
「冗談ですよね? だって、鳥でしょ? 僕は人間……」
ラルクが口を挟む。
「ひょっとしてガスのせいじゃないか? 昨日、ピンクの屁をこいただろ?」
ギルバートがハッとする。
「あ! でも、あの時は、穴をグリグリされちゃってて……」
「ファッキン! メチャメチャ効いてるじゃねえか! 自業自得だ!」
「そうですわね。自分で蒔いたガスですわ」
「そ、そんなぁ……あれから随分と時間が経ってるんですよ?」
ラルクがギルバートの肩に手を置く。
「モンスターをこんなに手懐けるなんて、お前の方がよっぽどテイマーに向いてるよ」
「そ、そんな嫌ですよぅ」
「そうだ! せっかくだから俺達をドワーフの里まで運んで貰おう」
ラルクの案にファンクが賛成する。
「そいつはファッキン・アイデアだ! よっしゃ! 通訳してやる!」
ファンクは張り切って『グルクル』と、鳥語で交渉した。
その結果、怪鳥の協力を得られることになった。
「やったな! ファンク。うまくいったじゃないか!」
「ん、まぁ……フ〇ックだがな」
ファンクが気まずそうな顔でギルバートを見る。
ラルクがそれに気付いて尋ねる。
「どうした? 何か気になることでも?」
「……フ〇ック。それが、まあ、交換条件というか……」
歯切れの悪いファンクの言葉にギルバートが不安そうな顔をみせる。
「な、なんですか……嫌な予感がするんですけど?」
「ファッキン・ソーリー、終わったら好きにしていいって言っちまった」
「はぁあああ!? なんでそんなこと約束しちゃったんですか!? 食べられる! 絶対、食べられてしまいますよぅ!」
「フ〇ック! 大丈夫だって。いざとなったら、屁をこきゃいいだろ」
「無理、無理、無理、む~りですぅ!」
「ファ〇ク! けど、お前、爪で穿られて喜んでただろ?」
「そういう問題じゃないんですぅ! 酷い! そう思いませんか? ラルクさん!」
「まあ……とりあえず、頑張れ」
「どういう意味ですか! 仲間じゃないですかぁ」
「いや、もちろん仲間だと思ってる。けど、ここは堪えてくれ」
「そうですわよ。往生際が悪いこと!」
ギルバートは涙目でピピカに助けを求めるような視線をおくる。
しかし、ピピカは小首を傾げるポーズでポツリ。
「そんなことより、お腹すいたでしゅ」
ドワーフの里まで乗せて行って貰う。これでかなりの時間短縮が出来る。
交渉は満足がいく内容だった。約一名を除いては……。
* * *
怪鳥は羽を広げると、流石に迫力があった。
大人ひとりが乗っても余裕のある背中は安定感抜群で、空の旅は快適だった。
山を下り、森を抜け、峡谷をスイスイと進む。
そして、ついにドワーフの里があるとされる『聖なる森』に到着した。
ラルクと相乗りしていたファンクが上空から森を眺めまわしながら言う。
「フ〇ック! あそこに間違いねえ!」
ラルクも目を凝らしてみるが、それらしい場所は存在しない。
「普通の森にしか見えないけどな」
「ファッキン! 場所を隠してるんだ!」
「そうなのか? いわゆる隠れ里ってやつか。だったら、もっと高度を下げないとな」
ファンクを通じて怪鳥に低く飛ぶように指示する。
ラルクの乗る怪鳥の後には、チキとピピカの乗る怪鳥、そして最後尾にギルバート夫妻が続いている。
先頭のラルク達が高度を下げて、森の上っ面を舐めるように低く飛ぶ。
それに後続が続いたところでファンクが得意の勘を働かせる。
「ファ〇ク。もうちょい左だな!」
そして左に旋回しかかった時だった。
キラッと何かが光った。
「危ない!」
ラルクが怪鳥の背中で伏せる。
『ザクッ!』と、何かがファンクの額に突き刺さる。
「フ〇ック! 痛え!」
見るとファンクの頭を矢が貫通している。
「矢!? 森から? 狙い撃ちされてる!?」