大怪鳥
怪鳥に捕まってしまったギルバートはパニックに陥っている。
「ひゃぁああ! 爪が! 爪が! ささるぅ!」
怪鳥も驚いただろう。
なにしろ、小さなピピカを捕獲したつもりなのに、それが大人のギルバートに入れ替わってしまった。
「ファ〇ク! どうすんだよ? あれ」
「なんでギルバートなんだ? その辺の物と交換すりゃ良かったのに」
ラルクに問われてピピカが、しゅんとする。
「たまたま目についちゃったでしゅよ」
「ああ。ギルバートの服装は目立つからな」
「仕方ないですわね。目についてしまったのでしたら」
「ファ〇キン・正装も考えモンだな。自業自得だぜぃ」
暢気な地上とは対照的に、上空ではギルバートの悲鳴が響き渡る。
「た~す~けぇ~てぇ~! あれぇ~!」
ラルクが片手間にテイムで怪鳥を足止めしているが、その爪はガッシリとギルバートの尻に食い込んでいるように見える。
「爪が! あっ! そんなところに! ああっ!」
「フ〇ック! あいつ、楽しんでんじゃねえか?」
「随分と深く爪が刺さってるみたいだな。尻に」
「あら、商売道具が駄目になってしまいますわね」
「ああっ! 止めて! そんなトコ! あああああ!」
宙吊りで身をよじるギルバート。
ラルクが声を掛ける。
「おーい! ギルバート! 屁を使え!」
「え!? ああっ! 何色を!? ああああ!」
「うーん。何でもいいんじゃねー?」
ラルクは無責任に答える。
「ひいいいっ! もうっ! やけくそですぅ!」
ギルバートはそう叫んで放屁した。
色は赤っぽい。だが、赤はバーサク効果なので余計に怪鳥が暴れてしまう。
「てことはピンクか? けど、なんでピンクなんだ?」
ピンクは術者に猛烈な好意を持たせる『催淫』の効果だ。
どうなることかと見守っていると『ぽふん』と、ギルバートが消失した。
そして怪鳥の足元からドングリがぽろり。
爪から滑り落ちたドングリが空から降ってくるさまは、何となくシュールだ。
その代わりにギルバートが無事にピピカの隣に生還した。
ピピカが汗を拭いながら言う。
「良かったでしゅ。ポッケの奥に一個だけ残ってたでしゅ」
それを聞いてラルクが呆れる。
「別にドングリじゃなくても良かったろ? その辺の小石で良かったのに」
「ああっ! そ、それもそうでしゅよね」
「そそっかしいですわね」と、チキが笑う。
「フ〇ック! まったくだ! ゲハハハ」
ギルバートはヘナヘナとへたり込む。
「もう……勘弁して欲しいですよ……」
そして『ぷぅぅぅ』と、小さくおならを出す。
色は緑。草っぽい匂いがする。
「なんですの? そのガスは?」
「ファ〇ク! 『治癒』の緑か!」
ギルバートが頷く。
「はい。思ったより深く差されたんで、しばらくケアします」
『ぷっ……ぷすっ……』
「いやだ! 出しっぱなしですの?」
チキが嫌そうな顔をするのでラルクがフォローする。
「まあ、いいじゃないか。緑は回復効果があるんだよ」
ラルクとピピカ、ファンクはギルバートを囲んで、スンスンと鼻を鳴らす。
「ふう。疲れが取れるな」
「ホントでしゅ。痛みもなくなったでしゅよ」
「フ〇ック! ちょっと、違う匂いも混じってやがるがな!」
その様子を見てチキがゲンナリする。
「私は遠慮しておきますわ……」
* * *
辺りが暗くなってきたので、ファンクが見つけた洞窟で一夜を明かすことにした。
手ごろな洞窟は、奥が見えないほど深い。
とはいえ、休むだけなので探索する必要はない。
入り口付近で各自、適当に横になって眠りにつく。
夜中にラルクがウトウトしていると、チキが何やらゴソゴソしている。
目を覚ましたラルクが驚く。
「ちょっ、な、なにしてる?」
半裸のチキが色っぽい声で答える。
「決まってますわ。たまには夫婦らしいことを……」
「な、なに考えてんだ? 皆が居るんだぞ……」
「起きませんわよ?」
「え? 何でだ?」
「眠り草のゲロで眠らせましたの」
「お、お前なぁ……」
チキは上気しながら甘い声を漏らす。
「あっ……でも、ダーリンだってその気に……アン。積極的ですわね」
「は? なにもしてないが?」
「いいえ。さっきから私のお尻や太ももを……アンッ……くすぐったいですわ」
「だから何もしてないって」
そう言ってラルクが両手を見せる。
「え? どういうことですの?」
チキが、きょとんとする。そして暗い中、自らの下半身を確認する。
つられてラルクも露わになったチキの足を見る。
「げ!? なんだソレ?」
「な、なんですの!? これは!?」
チキの足に白っぽい何かが絡みついている。
それは植物の蔓のような、ヌメっとした物体だ。
「嫌ですわ! いつの間に!? ……あっ!」
チキはビクンと身体を震わせる。
「動いたぞ!?」
ラルクは蔓がどこに繋がっているのかを確認しようとする。
チキも振り返って視線を移すと……。
「うわ!? ワーム!」
「ひっ!」
よく見ると、チキの下半身をまさぐっていたのは、ワームの触手だということが分かった。
「ロック・ワーム! くそっ!」
ラルクが慌てて立ち上がろうとするが、半裸のチキがしがみついてきてバランスを崩してしまう。
「ちょっ、離れろって! 戦うぞ!」
しかし、チキは『きゃーきゃー』叫ぶだけでパニックに陥っている。
そんな状況にもかかわらず、ギルバート達はグウグウ眠っている。
ギルバートは、よだれを垂らしながらお腹を出して眠りこけている。
その太ももを枕にピピカは歯ぎしりしながら熟睡中。
さらにピピカの足を枕にファンクがいびきをかいている。
皆、チキの眠り草のせいで目を覚ます気配が無い。
「まずいって! ここはロック・ワームの巣穴かもしれないぞ!」