険しい道のり
ハミマ共和国は、ラーソンと停戦中にもかかわらず交流がある国なので、人々の生活ぶりは変わらなかった。
最初に訪れた町には飛竜を貸し出す店が無かったので、止む無く一泊し、翌日、馬洲(乗り合いの大型馬車)で大きい町に向かった。
そして、ようやく見つけた飛竜屋でレンタルを申し込む。
しかし、行き先を告げた途端、店主が拒否反応を示した。
「じょ、冗談じゃねえ! そんな危険なところ、お断りだ!」
「あら。お金なら多めに出しますわよ?」
「駄目だ駄目だ。ドワーフの里なんて! 大事な飛竜に何かあったら、どうしてくれるんだ!?」
ラルクが尋ねる。
「そんなに危険な場所なのか?」
「当たり前だろ! ドワーフは引き篭もりだからな。奴等の隠れ里に行くまでが危険なんだ」
それを聞いてラルクは首を竦める。
「具体的には?」
店主は険しい顔つきで答える。
「道中、山岳地帯を抜けなきゃならないんだけど、ロック・ワームがうじゃうじゃしてる。その次の森は植物系のモンスターだらけ。命がいくつあっても足りない道のりだ」
ラルクは拍子抜けしたように言う。
「なんだ。大したことないな。じゃあ、行けるとこまででいい。そのあとは陸路で向かうから」
店主はラルクのリアクションに驚く。
「な、なんだよアンタら? 戦い慣れてるパーティには見えないけど……」
貴族衣装でヒョロヒョロのギルバート、お嬢様ファッションのチキ、ちびっこ手品師のピピカ、そして中年妖精のファンク。
リーダーのラルクですら普通のテイマーだ。
武器一つ持たない一行は、どう見ても強そうには見えない。
それどころか旅芸人の一座のようだ。
訝る店主をよそにラルク達は飛竜をチャーターして、とりあえずドワーフの里に近い町を目指して、ハミマ共和国を北上することにした。
* * *
最寄りの町ペルタソに着いたのはいいが、その先のアシが問題だった。
「ファ〇ク! 歩きだと何日かかるか分んねえぜ!?」
「そうですわ! 飛竜を買い取れば良いのでは?」
「さっき断られただろ。売ってくれないよ」
「弱りましたねえ。歩きだと僕も体力が持たないですよぅ」
「おなか空いたでしゅ……」
何か移動手段はないかと町中で色々と聞いて回った。
だが、ドワーフの里と聞くと皆、一様に嫌そうな顔をする。
この町とは交流がないどころか、酷く嫌われているという印象だ。
なので、止む無く町で食料を買い込んで、徒歩で山を登ることにした。
* * *
最寄りの町の人が敬遠するだけのことはあって、山道はまったく手入れされていなかった。
地図は、あてにならない。おそらく、長年更新されていないのだろう。
おまけに、落石で塞がっている場所に何度も遭遇し、橋が落ちている箇所も複数あった。
ピピカの強制交換が無ければ、何度も行き止まりになっていただろう。
「ファッキン便利な能力だな! まったく」
「ああ。本当に助かるよ」
「えへへ、お役に立てて、うれしいでしゅ」
淡々と険しい山道を進んでいくうちに、周りの木々が減ってきた。
やがてゴツゴツとした岩場が目立つようになり、山岳地帯らしい光景に変わってきた。
ラルクが汗を拭いながら後続を振り返る。
「そろそろ日が暮れそうだ。今晩、休む場所を確保しよう」
「そうですわね。暗くなってからでは危ないですもの」
「ファッキン! それなら、もう少し先に行ったところに洞穴があるぜ」
ファンクは適当に勘で言っているのだが、それがことごとく当たるのだから、これも立派な能力なのかもしれない。
しばらく歩くと、本当に手ごろな洞窟があった。
「ファッキン・洞穴だぜ!」
「さすがだな。ファンク。助かるよ」
「不思議なものですわね。そんな見た目でなんで立派な能力があるのかしら?」
「フ〇ック! 見た目、オッサンで悪かったな!」
と、その時、「あいぃぃ!」というピピカの悲鳴が響いた。
しかも、それが上の方から聞こえる!
「え!? ピピカ?」
振り返るとピピカの姿が無い。
慌てて声のする方向を見上げる。
「あっ!」
「なっ、何ですの!?」
なんと、巨大な怪鳥がピピカを掴んで飛び去ろうとしている!
「まずい!」
咄嗟にラルクがテイムを発動する。
だが、怪鳥の足を開いてピピカを解放しようとしたが、爪が引っかかっているのか、うまくいかない。
それどころか羽ばたきを止めたせいで、怪鳥はバランスを崩して落下し始める。
そこで3秒が経過してしまった。
「くっ!?」
テイム効果が切れて、高度が下がっていた怪鳥が羽をばたつかせる。
「くそ! やっぱ、3秒じゃ足りない!」
敵の動きを止めたり、隙を作ったりするには十分な3秒テイムも、こういう時にモンスターを操るには短すぎる。
連続で発動するにも数秒間のインターバルを要してしまう。
それがテイマーとしての致命的な弱点だった。
怪鳥は空中で体勢を立て直すと、再び高度を上げようとする。
「させるか!」
再びテイムの能力で怪鳥の動きを止める。
だが、それも長くは持たない。
ピピカは怪鳥の足の爪で宙ぶらりん。
ラルクのテイムでは足止めが精いっぱい。
チキやギルバートの能力は遠距離系のスキルではない。
唯一、飛べるのはファンクだが……期待はできない。
と、その時、『ぽふん』と、ピピカが突如、目の前に現れた。
「え!? ピピカ?」と、ラルクが驚いてピピカの顔を、まじまじと見る。
「お前、どうやって……」
すると上の方から「あ~れぇ~」というギルバートの声。
「フ〇ック! ピピカ、やりやがったな!?」
「あらあ、そういうことですの……」
ファンクとチキが空を見上げながらそんなことを言う。
なので、ラルクも上を見て、状況を理解した。
ピピカの代わりに怪鳥に捕まっているのはギルバートだった。




